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テリー伊藤 一橋大学教授・楠木建と語る“50代以降”の生き方…「TRFのSAMは”現代の高倉健”です」
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.06.12 06:00 最終更新日:2022.06.12 13:25
「彼は僕より15歳年上で、人生の理想の先輩の一人です。ぜひ、教えを請いたい」
ファーストリテイリングの経営人材育成や、多くの企業の経営諮問委員を務め、饒舌で明晰なビジネスエッセイで一般読者にも人気の一橋大学大学院教授・楠木建氏。
その楠木氏が憧れるのが、数多くの伝説のバラエティ番組を立ち上げてきたテリー伊藤氏だという。
約10年前のパーティで挨拶を交わしたきりという2人が、初めて対談のテーブルに着いた。
【前編】テリー伊藤に一橋大学教授・楠木建が教えを請う!2人が「勝敗のつくスポーツはしない」理由
■仕事がどんどんラクになっている
楠木 テリーさんが40代で、裏方だった「伊藤輝夫」から、自らメディアに登場する「テリー伊藤」に変わるときのギアチェンジがとても自然でしたよね。
テリー 素顔はシャイで真面目なんですけどね(笑)。
楠木 おっしゃるとおりです(笑)。僕は最近、仕事とか人生って、マニュアル車の「4段変速」みたいだなって思うんですよ。1速に入れるのは、大変じゃないですか。すぐにエンストしたりして(笑)。
テリー 大学を出て最初に働いたのは神田の寿司屋で、「向いてないな~」と思ってたときに、人生を振り返っていちばん楽しかったのが、大学時代に自力で開いたコンサートだったんですよ。あのとき俺、ちょっと涙が出たよなあって。それで演出の仕事をしようと決めたんですが、最初は来る日も来る日も電話番でした。
楠木 1速で踏み込んでもあまり前に進みませんよね。僕も最初は一生懸命論文を書いていて、そのうちに “2速” に入ったんですが、なんか合わないなあと思って。学者の世界の競争は、論文が学術雑誌に掲載されることが評価のすべてで、どこかスポーツ的なんですよ。それで、商売をしている人に、自分の考えを直接届けたいと思って書いた本が『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社、2010年)です。
テリー (書籍のオビを見ながら)30万部突破。大ベストセラーですよね。
楠木 この本をきっかけに “3速” に入り、やっていることも “乗っている車” も同じなのに、今は意識しないうちに “4速” に入っています。仕事がどんどんラクになっている実感がありますね。
テリー ラクですか? それ、すごく羨ましい。テレビの仕事は企画がお蔵入りになることはしょっちゅうでしたし、ラクだなんて思ったことはありませんよ。
楠木 僕は “世の中に自分の思いどおりになることなんてない” と考えて、流れに身をまかせる「絶対悲観主義」で生きてきました。だから、ちょっとうまくいっただけですごく嬉しいんです。
テリー 俺は今、慶應の大学院で心理学を学んでいます。これも人生で、 “思いどおりにならないこと” がないかなと思ったときに、俺は勉強ができないから、学校に行こうと。ネットで調べて、華やかでモテそうだし、ちょっと慶應ボーイになっちゃおうかなみたいな感じで。
楠木 大きな決断なのに、ふだんとまったく変わらないんですね(笑)。
テリー それでも、試験勉強はしましたし、パソコン操作も覚えました。最初のガイダンスは半分くらい英語で「すげえなあ、わかるわけないじゃん」って。コロナ禍などでの休学を挟みましたが、今は修士の2年です。
楠木 では、今年度に修士論文を書かれるのですね。
テリー ラジオのパーソナリティがリスナーにいかに親近感を持たせ、ビジネスに結びつけていくか。それを心理学的に分析していこうと思っています。俺はずっとラジオ番組をやっているんですけど、通販コーナーあるじゃないですか。あれ、高齢者がバンバン買ってくださって、しかも返品率は非常に低いらしいんです。
楠木 今、ネットがメタバースなどを使って、いかに顧客に深く広く情報を与えていくかを考えているのに、音声だけのラジオのほうが深い共感を生んでいるわけですね。
テリー パーソナリティは、ウクライナ情勢のニュースを読んだ後、「先週手術してさあ、今紙パンツなんだ」とか言って、その調子のまま「この松前漬けがおいしいんですよ」とモノを売るんです。
楠木 それはおもしろいですね。テリーさんとは逆に、僕はどんどんやることを狭めて、 “4速” で一本道を行くだけなんです。20年前は、迷ったらやろうと思っていましたが、今は絶対にやらない(笑)。
テリー 俺は先月、十数年ぶりにテレビの演出したんです。『元気が出るテレビ!!』のころは俺も元気があったけど、今の気持ちをタイトルにこめて、『死にたくないテレビ』(笑)。芸能界に長くいて、「この人カッコいいなあ」と思った15人に出てもらいました(「hulu」で配信中)。
楠木 久しぶりに演出をしようという気持ちになったのはどうしてですか。
テリー 若手からは「テリー伊藤、たいしたことないな」って言われてもいいから、土俵に上がりたかったんです。
楠木 僕は自分で商売をしていないのに、商売している人のことを論じていますから、「お前が経営をうんぬんするのは、女を抱いたことのない奴が恋愛指南をするようなものだ」と言われたこともありますよ(笑)。
テリー 番組に出ていただいた尾藤イサオさんは78歳なのにリーゼントで、歌詞を全部覚えているんですよ。岡田奈々ちゃんは63歳の今も清純派で、変わらぬ美声で新曲を出しています。TRFのSAMも出てくれました。彼は現代の高倉健ですよ。
楠木 僕はSAMさんのことをよく知らないんですが……。
テリー 高倉健さんは、唐獅子牡丹に着流しでしたけれども、SAMは60歳過ぎてもシックスパック(腹筋)を見せながら、素肌にジャケットを着て踊っているんです。
楠木 たしかに今、着流しはちょっと(笑)。SAMさんは高倉健ですか。最高ですね。健さんほどカッコいい人はいないと思っていますから。
テリー でも俺、晩年の健さんは好きじゃないんです。
楠木 僕も、養女になさっていた女性と一緒にいらしたことについては、たしかに不思議に思っていました。
テリー いえ、俺はあれは、弱みを見せていていいと思っていますよ。そうではなく、晩年の健さんはセリフが減り、今まで以上に背中で演技をするようになったことがつまらなく思ったんです。
楠木 “枯れる”ということに共感されない、と。
テリー まったくしないですね。健さんは昭和の時代の特別なヒーローですよ。ヒーローが晩年に枯れた役を演じているのを見ると、あれでいいの? と思っちゃう。
楠木 年を取って寡黙でカッコいいのはダメなんですね。テリーさんと話していると、僕の人生にも “5速” があるような気がしてきました。
テリー 健さんが棺桶を蹴り飛ばすような激しい映画に出ていたら「よーし、俺も頑張ろう」と奮起したと思うんです。俺は、最期は羽交い絞めにされて死にたいんですよ。そのとき、弾き飛ばすために、俺たちはジムで鍛えているんですよ(笑)。
てりーいとう
1949年生まれ 東京都・築地出身 『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)、『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系)などの番組の企画、総合演出を務める。『老後論 この期に及んでまだ幸せになりたいか?』(竹書房)など著書多数
くすのきけん
1964年生まれ 東京都出身 南アフリカ・ヨハネスブルグで幼少期を過ごす。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。『すべては「好き嫌い」から始まる』(文藝春秋)など著書多数。新刊『絶対悲観主義』(講談社+α新書)が6月22日発売予定
写真・木村哲夫