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『星降る夜に』もはや異常者となったムロツヨシの弱さ、北村匠海の強さとの対比があまりに切ない

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.03.07 11:00 最終更新日:2023.03.07 11:00

『星降る夜に』もはや異常者となったムロツヨシの弱さ、北村匠海の強さとの対比があまりに切ない

 

 強さと弱さの対比が鮮烈だった。

 

 先週放送された吉高由里子主演星降る夜に』(テレビ朝日系)の第7話。

 

 35歳の産婦人科医・雪宮鈴(吉高)と、生まれつき聴覚を持たない25歳の遺品整理士・柊一星(北村匠海)が運命的に出会い、惹かれ合っていく純愛物語。

 

 本作の最大の特徴は、恋のお相手がろう者でありながら、聴覚障害が “恋の障害” として描かれておらず、耳が聴こえないことは一星のひとつの個性として描かれているところにある。

 

 

 一星はろう者であることを悲観しておらず、とにかく感情豊かで明るく活発な青年。基本はストレートな性格で情に厚く、下ネタが大好きという一面もあるし、気に喰わないことがあれば皮肉屋にもなる。

 

 表情がコロコロ変わって感情がわかりやすいので、声は発さないがいい意味で “うるさい” キャラクターで、「障害者はひっそり謙虚に生きている」なんていう凝り固まったイメージをぶっ壊している。

 

 そして第7話では、本作を象徴するような強い言葉を、一星が手話で鈴に語りかけたのである。

 

■聴覚障害を「ラッキー」と言えてしまう強さ

 

 鈴には大学病院で働いていた5年前、緊急で運び込まれた妊婦の命を救えず、その夫・伴宗一郎(ムロツヨシ)から医療裁判を起こされた過去があった。

 

 裁判は、鈴に医療ミスはなかったとして勝訴するも、月日が流れ再び伴が現れる。伴からSNSに誹謗中傷を書き込まれたり自宅を襲撃されたり、病院で罵詈雑言を浴びせられ暴れ回られたりと、怯える日々を過ごすことに……。

 

 裁判のときに伴が連呼していた「人殺し、人殺し」という声が耳から離れないと言う鈴に、一星は手話で「そんな言葉、聞かなくていい」と伝え、次のように続ける。

 

「聞こえる人は聞こえる人で大変だと思うよ。俺はいいことも聞こえないけど、イヤなことも聞こえないから。それに、俺が聞こえないのは、誰だってちょっと見てりゃわかるし、みんな理解しようと思ってくれて、ラッキーかも。目で見てわからないものを抱えて生きている人の方が、俺よりずっと大変だ」

 

 自分の障害を「ラッキー」と言えてしまう一星の強さ。鈴を励ますためではあるが、一星は決して虚勢を張っているわけではなく、本心からそう思っているからこそ、「ラッキー」という単語も飛び出したのではないか。

 

 もちろん一星だって、音のない世界で生きるほうがいいことづくめでメリットばかりと思っているわけではないだろう。当たり前だが、苦労することやつらい思いをすることがあり、プラマイで考えればマイナスのほうが大きいに違いない。

 

 そして、マイナスのほうが大きいとき、人はプラス要素になかなか気づかないような気がする。だからこそ、そのプラス要素に気づき、自身の障害をポジティブ変換できることが、一星のとてつもない “強さ” なのだと思う。

 

■ムロツヨシは妻を亡くした悲しき闇堕ちキャラ

 

 底抜けな強さを持つ一星に対して、伴は弱い存在として描かれている。

 

 実は、鈴の後輩で、45歳の新人産婦人科医・佐々木深夜(ディーン・フジオカ)にも、妊娠中だった妻とお腹の子を亡くしていたという凄惨な過去があった。伴も似た境遇ではあるが、伴のほうは当時お腹の中にいた娘は無事で、現在は5歳だ。

 

 悲しみの度合いに優劣はつけられないが、妻子を同時に亡くした深夜は、それから医学部に通って産婦人科医になっている。

 

 それに対し、伴は5年前で時間が止まったままで、立ち上がることができずうずくまったまま。それだけではなく、鈴の幸せを妬み、自分のいる悲しみの沼に引きずり込もうとしているのである。

 

 つらい過去を乗り越えるために立ち上がり、前を向いて力強く新たな人生を歩きだしている深夜が存在していることで、伴の情けないまでの弱さが際立つ構図になっているわけだ。

 

 伴はいわゆる闇堕ちキャラだが、言動は狂気的で、その登場シーンはもはやホラー。妻を亡くした悲しみから立ち直る強さがないばかりに、主人公を襲う異常者のように描かれている。

 

■ムロツヨシの弱さこそ、人間らしく、切ない

 

 けれど伴のこの弱さこそ、実に人間らしいとも思えてしまう。一星や深夜の強さは本当に素晴らしいが、彼らのポジティブさやバイタリティは飛びぬけているようにも感じる。

 

 フィクション作品の登場人物として見るとそこまで違和感はないが、聴覚障害をラッキーと思える精神力や、妻子を亡くしてから産婦人科医になる精神力は、かなり強靭。現実で自分のまわりにそこまで強い人間はなかなかいない。

 

 だから、妻を亡くして悲しみに暮れ、非のない担当医を逆恨みするぐらいの弱さが、人間として普通なのではないか。

 

 伴の鈴への執着と攻撃性は異様だし、実際に警察沙汰になるレベルのことをしでかしているので、その言動を肯定するわけではない。だが、彼をただの悪者として勧善懲悪的に切り捨てることも難しい。

 

 人間としてリアルな精神強度の伴は、その弱さゆえに正常な生きがいを見出せず、鈴を攻撃することで自身のアイデンティティを保とうとしているのだろう。とにかく、鈴を恐怖に陥れる伴の狂気が、あまりに切ないのである。

 

――第7話の世帯平均視聴率(※ビデオリサーチ調べ/関東地区)は7.0%で、ここまで6%台と7%台をうろうろしている本作。

 

 だが、第1話はTVerなど各配信サイト合算の見逃し配信の再生回数が300万回超え。放送開始から3週間強だった2月8日時点で、第1話から第4話の合計再生回数が1000万回を突破するなど、見逃し配信でヒットといえる記録を残している。

 

 今夜放送の第8話も、登場人物たちの強さと弱さがどう描かれるか、楽しみだ。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

( SmartFLASH )

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