世界の2大オークションハウスのひとつとされる「サザビーズ」のオークションで、アメリカのハードロックバンド『ヴァン・ヘイレン』のギタリスト、故・エディ・ヴァン・ヘイレンが使用したギターが出品され、393万2000ドル(約5億3000万円)で落札された。
落札されたギターは、1984年にリリースされたヴァン・ヘイレンの代表曲のひとつ『Hot for Teacher』のMVでエディが演奏していたもので、ギターメーカー・クレイマーの「Kramer CO176」というモデル。200万~300万ドル(約2億7000万円~約4億円)とされた落札予想価格を100万ドル近く上回り、米『Guitar World』誌の調べによる、オークションで落札された高価なギターの中で歴代4位を記録した。
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タッピング(ライトハンド奏法)の第一人者にして、マイケル・ジャクソンの大ヒット曲『今夜はビート・イット』(原題『Beat It』)のギターソロを弾いていることでも知られたエディだが、2020年10月、がんのため65歳の若さで逝去した。今回、落札されたギターは、1990年ごろにエディがバンド関係者に贈ったものが、めぐりめぐって、オークションで出品されるにいたったようだ。
「落札額の5億3000万円は妥当だと思います。僕がいま10億円持っていたら、間違いなく入札に参加しましたね」
そう語るのは、自身もギターマニアであり、『ヤング・ギター』などで執筆する音楽ライターの尾谷幸憲氏。今回、落札されたエディのギターについて尾谷氏が解説する。
「落札されたギターは、『クレイマー』がエディのために特注で何本かつくったうちの1本で、MVと、一部のライブで使用されたもの。当時のエディのメインギターは、ボディ下部に『5150』というステッカーを貼ったものだったので、今回のギターはあくまでサブギターです。ただ、逆にサブ機だったからこそ、5億円程度の金額で済んだ、ともいえます」
尾谷氏によれば、ここ20年ほど、有名アーティスト所有のギターがオークションにかけられるケースが増えているという。
「歴史的な価値があるとされる、ゴッホやピカソといった有名画家の絵画や、ヴィンテージ・カー、ヴィンテージ・ワインと同じように、有名ロックアーティストの楽器が価値のあるものとして認識されるようになってきています。投資対象として購入するケースもあるし、好きなアーティストの楽器を所有したいという衝動から落札するケースも。たとえば1958~1960年のギブソン・レスポール・スタンダードは、1400本くらいしか生産されなかった希少価値の高いギターで、現在、国内での価格は3000~5000万円もするのですが、それをアメリカのIT長者が買い占めている、という噂もありました。ちなみに、ビル・ゲイツとともにマイクロソフトをつくったポール・アレンは、ロック好きが高じて、ジミ・ヘンドリックスがウッドストック・フェスティバルで弾いたギターを落札しています」
プレイヤーとしてではなく、お金持ちが投資対象としてギターを買う場合は、当然、資産がなくなったらギターを売却するということもある。またオークション以外でも、個人売買でギタリストからギタリストの手へと渡っていくケースもあるとか。
「たとえば、メタリカのリードギタリスト、カーク・ハメットが所有している1959年製レスポール・スタンダード、通称『グリーニー』は、もともと元フリートウッド・マックのピーター・グリーンが所有していたものですが、ピーターがゲイリー・ムーアに売却。ゲイリーが30年間、使用したのち、コレクターの手に渡り、その後、カークに売却されました。個人売買なので金額は公表されていませんが、一説にはカークは200万ドル(約2億7000万円)支払ったという話も。カーク・ハメットはゲイリー・ムーアが好きで、ゲイリー・ムーアはピーター・グリーンをリスペクトしていました。こうやって伝説の名機が受け継がれていくのは、ファンとしてはとてもうれしいです」(尾谷氏)
ところで、エディ・ヴァン・ヘイレンのギターが、高額で落札されたギターの歴代4位となると、上位ベスト3も気になるところ。米『Guitar World』誌のランキングによれば、3位は、2019年に落札されたデヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)のギターで397万5000ドル(約5億3000万円)。2位は、2022年に落札されたカート・コバーン(ニルヴァーナ)のギターで455万ドル(約6億1000万円)。1位は、2020年に落札された、カート・コバーンがMTVアンプラグドで使用したギターで601万ドル(約8億円)だった。今後、これらを上回る高額で落札されるギターも出てくるだろう。尾谷氏は言う。
「アーティストが所有していたギターは、今後も価値が上がっていくと思われます。ただ、あからさまな投資目的での購入は注意が必要。ステージで酷使されたギターですから、温度や湿度の管理を適切におこなわなければいけませんし、そのギターを次の世代へと受け継いでいく責務を担うことにもなります。また、偽物も大量に作られているので、品を見極める審美眼がないといけません。それを承知のうえで、もし資産があって音楽への愛があふれている方なら、ぜひ、この分野のオークションにチャレンジしてほしいです。私はそんなに資産はないので、夢のまた夢ですが……」
庶民には到底、手が届かなそうだが、これぞ究極の大人買い。いつかは夢のある買い物をしてみたいものだ。
( SmartFLASH )