「みみ、元気にしてる?」
コロナ禍で仕事が激減し、弱っていたわたしを気遣ってくださり、ちょいちょい電話をくださったのは、天童よしみ先輩です。
ーーえっ!? “みみ” って、誰のこと?
あっ、そうですよね。いきなりで、すみませんでした。地元のご近所さんは、みんなわたしのことを、冬美をもじって、 “みんみ” と呼びますが、なぜか天童先輩は、 “みみ” と呼んでいるのです。
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天童先輩の公式プロフィルでは、大阪府八尾市出身となっていますが、お生まれになったのは和歌山県田辺市芳養(はや)町で、わたしの生まれ育った和歌山県西牟婁(にしむろ)郡上富田(かみとんだ)町にお父様がお勤めされていた関係で、天童先輩も5歳までそこで過ごされていました。
「知ってる? 天童よしみはこの町にいたんだよ」
「すごいよねぇ。上富田町の誇りだね」
アニメ『いなかっぺ大将』の主題歌『大ちゃん数え唄』を、声高らかに歌っていたわたしとしては、大人たちの会話を耳にするたびに、どこか誇らしい気持ちになっていたことを思い出します。
余談になりますが、MISIAさんが大トリを務めた2021年『第72回NHK紅白歌合戦』では、天童先輩と、Awesome City Clubのボーカル・atagiさん、そしてこのわたしと、上富田町から3組の人間が同時に出場しているんです。
すごくないですか!? 43組中3組が上富田町ですよ。町中、もう大騒ぎです(笑)。
と、町の自慢話はこれくらいにして、話を天童先輩に戻しましょう。
天童先輩がドレスに身を包んでステージに立ったときのオーラは、それはもう、ちょっと言葉にするのが難しいくらいものすごいものがあって。全身がキラッキラに輝いています。
でも、ステージから降りた天童先輩は、後輩のわたしがいうのもなんですが、とってもおちゃめで、かわいらしくて、おもしろい女性です。
突然、電話をかけてきて、いきなり「う~~ん、アレが食べたいなぁ」とおっしゃるのは、天童先輩一人だけです。
なんのことだかわからないという方にご説明いたしますとーー。天童先輩がおっしゃるアレというのは、知る人ぞ知る、地元・和歌山の名物、一度口にしたら最後、やみつきになること間違いなしというひらたいさつま揚げ、その名も “ひら天” のことです。
天童先輩は、無性にそのひら天が食べたくなると、わたしを思い出して電話をかけてくださいます。
もうひとつ、和歌山ではほうじ茶で炊いた “茶粥” のことを “おかいさん” と呼びますが、一緒に食べると美味しさが倍増するちょっと酸味のきいたたくあんも天童先輩の大好物。このたくあんを食べたくなったときも、「みみ!アレが食べたいなぁ~」と、電話がかかってきます(笑)。
ふだんは、まっすぐに伸びた竹のような性格のわたしですが、あやちゃん(藤あや子)から、「スパッと割ると中に餅が詰まっている」と言い当てられたように、悩んだり落ち込んだり、くよくよしたり……悩み多き、かなり年を重ねた乙女です(苦笑)。
そんなとき、まるで見ていたかのように電話をくださり、お腹がよじれるまで笑わせてくださる天童先輩は、同郷の先輩という言葉では言い表わせないほど、大切な大切なお方です。
あぁなんだか、無性に天童先輩の「ほな、またな!」という、明るく元気な声が聴きたくなってきちゃいました。
天童先輩、近いうちにお電話するので、またお腹がよじれるまで笑わせてください!
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋