
「“型破り”な存在が生まれてほしい」と語る中山秀征
「体験的会話術」後輩から慕われ、初対面の人と秒で打ち解け…大御所MCとの“15年和解”も
「ヒデさん、こんにちは!」「おー、青木、久しぶりだな」
「ヒデさん、この前はありがとうございました」「また、いい話があるのよ」
「ヒデさん、何やってんすか?」「何やってるって、見りゃわかるだろ。取材だよ、取材」
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――ワタナベエンターテインメントのロビーで、中山秀征の撮影を始め、わずか5分。後輩芸人の青木さやか、ネプチューンの堀内健、ビビる大木が駆け寄ってきて、うれしそうにあいさつをした。中山は、肩をたたいたり、握手をしたりとリアクションを取りながら、にこやかに話をする。2025年で芸能生活40周年を迎えた中山は、街歩きロケで出会う初対面の一般人からも「ヒデちゃん」と慕われる人気者。その理由が、取材を開始してすぐ、わかった気がした。そんな中山に、コミュニケーション力を上げる法則を聞いた。
■ちょうどいいのは“手と腕の長さ”の距離感
相手との距離感って、物理的な「距離」で、変わってくるんです。近すぎても相手が困惑するし、遠すぎるとよそよそしく見えて、言葉の鮮度が落ちる感じがします。『DAISUKI!』(1991~2000年、日本テレビ系)の街歩きロケで、初対面の商店街の人と話すときに気をつけていたのも、このことでした。
コミュニケーションを取るときに絶妙なのは、手と腕の長さぐらい。これが僕の、親しみと安心が生まれる距離。ロケではなく、ふだんの会話でも同じだと思っています。共演していた松本さん(松本明子)、ナオちゃん(飯島直子)との距離感は、僕がまったく「男」として見られていなかったせいで、ちょっと近すぎたかもしれませんけどね(笑)。
■相手の得意な話や、他愛もない雑談から
八百屋のおじさんに「政党支持率についてどう思いますか?」って聞いたら、黙っちゃうでしょう。しかし、「いまの旬は何?」って聞いたら、すぐに話してくれるはず。トークは得意な話に持ち込むか、持ち込ませるかなんです。それなら、相手の得意な話題から入ったほうがいいですね。
商談での入り口は、「暑いですね」みたいな世間話や、「『ミッション:インポッシブル』の新作、観ました?」みたいな、他愛のないものでいいんです。
事前に情報を拾っておけるなら、「僕も野球部だったんですよ」とか、会話に相手との共通点を入れるだけで、シンパシーは高まります。軽いキャッチボールから始めて、いよいよというときに、速球を投げるんです。
■自分の「よかれ」が相手も同じではない
自分は気を使っているつもりでも、相手が喜んでいないケースがあります。よくありがちなのが「私はこれだけやってあげているんだから」というパターン。相手にしてみたら「頼んでいないのにな」っていう場合もある。「トゥーマッチ」にならないことが重要です。
この言葉は、僕が所属する事務所の創設者・渡邊晋さんが、デビュー直後の僕にかけてくれた言葉。17歳だった僕の公演を、晋社長が観に来てくれることになって、張り切っていつも以上に歌い、踊り、コントもがんばったら……「トゥーマッチ!」。まさかのダメ出しでした(笑)。
その「よかれ」は、あなたの自己満足になっていないでしょうか。自己満足ではない自然な行動は、心のある人にはきちんと届くものです。
■「話がうまい」と「おしゃべり」は別
よく、結婚式のスピーチで事故ってる人、いますよね(笑)。きっと、会社でおもしろいと思われている人なんでしょう。結婚式の主役は新郎新婦。2人に向かって話せばいいのに、来場者を見ちゃうから、とっちらかるんです。
会議も同じ。テーマはなんなのか、中心は誰なのか。そこを間違わなければ、ミスは限りなく減らせます。
おしゃべりな人は、「俺は話がうまい」と思い込み、自分の話ばかりしてしまいます。
用意してきたことを、必ずぜんぶ話そうとするのもダメ。僕は、事前にいくつか用意したテーマのうち1項目がおもしろかったら、行けるところまで行きます。できるだけ少ないテーマで話せるというのは、場が盛り上がっているということですから。
そして、矛盾するようですが、行けると思ったときほど短く。そうすると、次は相手から話がきます。話がうまい人ほど、そんなふうに人の話を聞くことができるんです。
■「でも」で返さず「型破り」な意見を
僕は、人の話を聞くときには「さ行」でリアクションを取るように意識しています。「さすが」「すごい」「そうそう」など、「さ行」で始まる言葉で返すと、相手は「それでね」と、前のめりになってくるんです。
話を聞くときに「でも」と、否定から入る人がいますよね。これは、“できない理由”を言いたい人、仕事を減らしたい人です。「こうしたらどうでしょう?」と答えれば話は膨らみますが、最初から否定したら話はしぼむだけです。
娯楽やメディアが多様化して、「テレビは終わった」と、テレビ業界の人間でも口にする方がいます。しかし、型にはまった批判をするだけの人は、格好悪いと思います。
こんな時代こそ、かつて、とんねるずさんやマツコ・デラックスさんが登場したときのような、“型破り”な存在が生まれてほしいですね。
■苦手な人とは長期戦でコツコツと
「苦手な人と、仲よくするにはどうしたらいいですか?」と、よく聞かれます。
そういう人には、入り込みすぎないのがいちばん。かといって感じ悪くして、相手に気づかれてもいけない。職場ではとくにそうですよね。つまらなそうな顔はせず、リアクションや返事はきちんとすることです。
無理に好かれようとしなくていい、必要なことをやればいいんです。今日中に解決しようとするから無理が出るんです。あせらないことです。
30年以上も昔、『殿様のフェロモン』(1993~1994年、フジテレビ系)というバラエティで、今ちゃん(今田耕司)とダブルMCを務めました。ところが、生放送中でもギスギスして、まったく噛み合わないんです。笑いに対してとがっていた今ちゃんは、明るく場を盛り上げて“ヒデちゃん的” に振る舞う僕に、いら立ちがあったのかもしれません。僕も、内心では反発していました。
番組終了から約15年後、すでにMCとして大活躍していた今ちゃんが、「テレビのことをわかっていたのはヒデちゃんだけやった」と言ってくれて、酒を酌みかわしたんです。その姿勢に頭が下がりましたし、自分がコツコツと続けてきたことは、間違いではなかったと思いましたね。
――多くの番組でMCを務め、ゲストから話を引き出してきた中山。だが、本人はこう言って照れた。
あれこれと語ってしまいましたが、僕はこれまでのトークで、完璧だったということは一度もないんです。もっと引き出せたな、もっとあの話を聞いてあげればよかったな、といつも思っています。
――そう謙遜する中山だが、芸能界で愛され、人が集まってくるのは冒頭のとおり。
結局、どうやって人に喜んでいただくかということは、すべて自分の経験から身についたことだと思っています。相手のことに興味を持ち、大きな声で返事をして、わかりやすく相槌を打つ。少し意識するだけで、自分も相手も心地よくなると思っています。
なかやまひでゆき
1967年生まれ、群馬県出身 1985年に『ライオンのいただきます』(フジテレビ系)でデビュー。ドラマ『静かなるドン』(1994年、日本テレビ系)で主演を務め、俳優としても高視聴率をマーク。現在は『シューイチ』(日本テレビ系)で総合司会を務める。著書『気くばりのススメ 人間関係の達人たちから学んだ小さな習慣』(すばる舎)が発売中
写真・木村哲夫