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【没後40年】昭和を駆け抜けたニヒルな二枚目「天知茂」伝説…三島由紀夫に見出され「明智小五郎」が当たり役に

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記事投稿日:2025.07.26 06:00 最終更新日:2025.07.26 07:32
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【没後40年】昭和を駆け抜けたニヒルな二枚目「天知茂」伝説…三島由紀夫に見出され「明智小五郎」が当たり役に

2025年7月27日で没後40年となる天知茂

 

 7月27日で没後40年となる俳優・天知茂は、眉間のしわもくっきりとしたニヒルな二枚目として、昭和期後半に映画ドラマ・舞台で幅広く活躍した。

 

 ドラマの代表作『非情のライセンス』(1973年~、NET・テレビ朝日系)の第1話。主人公の会田刑事(天知)が刑務所に囚人として潜入、麻薬グループの摘発に挑むという展開だったが、最後のところで会田は関係者の女姓(加賀まりこ)を見逃す。流行の極細眉毛メイクの強気な彼女が、会田を見つめてひと粒の涙を流すのである。ハードななかにもキラリと光る男の情け。このドラマは女性ファンも多く、当時のテレビ誌には「奥様族に圧倒的人気」と紹介されている。

 

 しかし、天知がスターになるまでの道のりは長かった。

 

 

 1931年、名古屋市に生まれた天知は、高校卒業後、1949年に松竹京都撮影所に入る。しかし芽が出ず、役者をあきらめかけていた1951年、第一期新東宝スターレットに合格。同期には、高島忠夫、左幸子、久保菜穂子らがいた。高島が合格の翌年、歌うスターとして売り出されるなど、同期が次々と抜擢されるなか、天知にはチャンスがめぐってこず、初主演映画『恐怖のカービン銃』が公開されたのは、1954年だった。この作品は、実際に起きた事件のセミドキュメンタリースタイルで、天知は、カービン銃を手に仲間と誘拐、強奪事件を起こし、「俺の言うとおりにしてれば捕まりゃしねえんだ」などとうそぶく主犯を演じている。

 

 文芸からカルト路線、戦争映画、エログロもアリの新東宝で『空飛ぶ円盤 恐怖の襲撃』(1956年)『明治天皇と日露大戦争』(1957年)などに出演していた天知が注目を集めたのは、中川信夫監督の怪談映画『東海道四谷怪談』(1959年)だった。

 

 婚儀に反対するお岩(若杉嘉津子)の父を殺しておきながら、敵討ちと称して江戸に出て、貧苦の中で裕福な娘(池内淳子)に見そめられ、邪魔なお岩を死に追いやる民谷伊右衛門(天知)。CGもない時代、おどろおどろしく出てくる幽霊も怖いが、それを見て驚愕する伊右衛門の顔もすごすぎて、どっちが物の怪かわからないほどの迫力だった。この作品は、いまも怪談映画の傑作として高く評価されている。

 

 次第に頭角を現した天知に明智小五郎役を依頼したのは、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』を脚色した三島由紀夫だった。丸山明宏(現・美輪明宏)が妖しく美しい稀代の女盗賊・黒蜥蜴を演じたこの演劇作品は1968年に開幕。その後、明智は天知の当たり役となり、1977年から始まるテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」の『江戸川乱歩の美女シリーズ』へとつながった。

 

 乱歩の原作を大胆すぎるほどに(?)アレンジした『美女シリーズ』のお約束といえば、浴室などでのヌード、崖や急カーブでのカーチェイス、明智小五郎の行方不明。そしてクライマックスは、死んだはずの関係者が突如、現れ、事件の真相を話しだすと、じつはそれが変装した明智だったとわかる場面。顔のマスクをぺりぺりと剥がし、扮装をめくると、颯爽としたスーツ姿の明智が現れるという、ほぼイリュージョンのようなシーンである。

 

 もっとも変装シーンは、記念すべきシリーズ第1作『氷柱の美女』(ヒロインは新東宝出身の三ツ矢歌子)にはなかった。シリーズを重ねながら、こうしたケレン味たっぷりの演出を作り上げたのは、新東宝から日活で石原裕次郎の『嵐を呼ぶ男』などをヒットさせた井上梅次(うめつぐ)監督だった。井上監督は、続く『浴室の美女』『死刑台の美女』など19作を演出する。

 

 印象に残るのが、第8作『悪魔のような美女』(1979年)に登場する、小川真由美演じる黒蜥蜴だ。

 

 冒頭、下着姿でしばられた美青年(若き日の宅麻伸)にうっとりした彼女は、美しい人間を永久に保存するため、彼をはく製にすると命令。そこにはすでに、はく製になった半裸の美女たちが! 通常、黒蜥蜴の秘密のコレクションは、最後に明らかになるとが多いが、それどころじゃない強さだった。

 

 明智は波越警部(荒井注)ら警察と、宝石商(柳生博)の娘・早苗(日活ロマンポルノで活躍した加山麗子)の誘拐を阻止すべく厳重な警戒をするが、妖艶に微笑む緑川夫人=黒蜥蜴(小川)にまんまと娘を誘拐されてしまう。黒蜥蜴と明智は「追っている私がいつの間にか追われている」「美しすぎるぞ、黒蜥蜴」とつぶやくようになるのである。

 

 近年、「美女シリーズ」を再放送したBS放送局の関係者によると、シリーズの人気は高く、伊東四朗が欲望の楽園「パノラマ島」を作る野望に燃える男を怪演し、叶和貴子が悩める人妻を演じた『天国と地獄の美女』などは、とくに反響が大きいという。

 

 じつは「美女シリーズ」は、日本のテレビ史的にも注目すべき点を持つ。日本初の長時間ドラマレギュラー枠である「土曜ワイド劇場」は、当初、山口百恵主演の『野菊の墓』といった文芸路線なども放送していたが、視聴率的には低迷気味だった。それが「美女シリーズ」第2作『浴室の美女』(ヒロインは高橋洋子・夏樹陽子)で初の20%台を記録。当時の関係者に聞くと、週休2日が定着する以前にスタートした「土曜ワイド」は、翌日が休みということで、2時間枠のなかでもとくに娯楽色の強いドラマが多かった。その象徴ともいえるのが「美女シリーズ」であった。

 

 1985年7月、天知はクモ膜下出血により急逝。遺作は、岡江久美子と共演した『黒真珠の美女』だった。「土曜ワイド」の成功から、他局も次々と2時間ドラマ枠を設けていったことを考えれば、「美女シリーズ」のヒットは、日本のテレビを変えたともいえる。素顔は明るく冗談好きだったという天知茂。素顔を封印してニヒルに徹した出演作は、濃厚な昭和の香りを放ち続ける。

 

※敬称略

 

(取材・文/ペリー荻野)

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