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『坂本冬美のモゴモゴ紅白』第14回/緊張度MAXだった紅組のトリ。光栄だけど……体に悪すぎます(苦笑)

坂本冬美
デビュー10年で、紅組のトリを務めさせていただいた『第47回NHK紅白歌合戦』は、演歌歌手・坂本冬美にとって記憶に残る『紅白』ですが、でも同時にオロオロ、ドキドキのしっぱなしで、記憶には残したくないような複雑な気持ちの『紅白』です(苦笑)。
司会は、白組が3年連続の古舘伊知郎さんで、紅組は当時19歳の松たか子さん。
審査員席に座っていたのは、アトランタ五輪女子マラソンの銅メダリスト有森裕子さん。同じく、五輪男子サッカーでブラジルを下した “マイアミの奇跡” の立役者、GKの川口能活(よしかつ)さん。オリックスを日本一に導いた仰木彬(おおぎあきら)監督をはじめ、この年を代表される方たちです。
『紅白』といえば、今も昔も変わらず暮れの風物詩であり、国民的人気番組です。そんな大事な『紅白』で、なぜ、わたしがトリ? 最初に聞いたときは何かの間違いか、誰かの悪いジョークだと思ったほどです。
何度も何度も何度も確認して、本当らしいとわかったときの素直な気持ちはーー。
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“怖い” です。 “やったー!” とか “嬉しいー!” とは、1ミリも思いませんでした。
だって、考えてもみてください。『紅白』のトリといえば、誰もが認める国民的歌手の大御所の先輩が務めるポジションです。
わたしが初めて出場した1988年の第39回からの8回で、白組のトリは北島三郎さん(4回)、森進一さん、谷村新司さん、五木ひろしさん、細川たかしさんの5人。
紅組は小林幸子さん、石川さゆりさん(2回)、都はるみさん(2回)、和田アキ子さん(2回)、由紀さおりさんの5人。皆さん、トリに相応しい先輩方です。それなのに、です。なぜ、わたしが、トリ?
やだ、やだ、やだ、やだ。それだけはやだ。できるものなら、寝転がって手足をバタバタさせる駄々っ子になりたい気分でした(笑)。
20時にスタートした1部が終わり、21時30分にSMAPさんと安室奈美恵ちゃんで2部がスタート。対決が進むたびに、ドックン、ドックン、心臓が高鳴り、猛烈な吐き気が襲ってきます。
どうしよう? もうすぐだ。思い出すと恥ずかしくなるほどうろたえ、あわあわしていました(苦笑)。
それでもなんとか頑張れたのは、夏ちゃん(伍代夏子)、あやちゃん(藤あや子)たちが「同期を代表して頑張って」と、ギュッと手を握ってくれたことがひとつ。もうひとつは、先輩方が「頑張れ!」と声をかけてくださったからです。
歌いながら、同期のみんなが、先輩方が、コブシを振ってくださっているのを見たときは、もう泣きそうになって。なんとか最後まで歌い切りましたが、最後のほうは、もうほとんど、う、う、うという感じでした。
ーーえっ!? デビュー40周年の来年、もう一度トリを?
ない、ない。絶対にないです。体に悪すぎます(苦笑)。
トリは、その年を締めくくる大事な一曲。誰もが納得する方じゃないといけません。それが『紅白』。だから『紅白』なんです。
1996年(平成8年)12月31日『第47回NHK紅白歌合戦』。紅組のトリが坂本冬美で、大トリが北島御大。これ以上の勲章はありません。
ーーえっ!? 一度あることは二度あるかも?
空から槍が降ることがあって、太陽が西から昇ることがあっても、それだけはないです。断言します、それだけは、ありませんから!
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功、産経新聞
取材&文・工藤 晋