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髙嶋政宏、カメレオン俳優の原点は「国産クラフトジン」にあり!「複雑に変化するジンのような役を演じたい」

杯を重ねるごとに上機嫌になる髙嶋政宏
髙嶋政宏は、都内の行きつけのバー「銀座ゼニス」の扉を勢いよく開けた。カウンターには、今年7月に亡くなったヘヴィメタルの創始者、オジー・オズボーンのラベルのジンのボトルが鎮座する。髙嶋がオジーの大ファンと知っての、オーナーバーテンダーの須田善一さんの心尽くしだ。
「献杯がすんだら、今日はいろんな国産クラフトジンを試してみましょう。日本各地に蒸留所が増えており、ブームの頂点を迎えていますから」
と、須田さんは色とりどりのボトルをズラリと並べた。身を乗り出し、それらをしげしげと眺める髙嶋は、昨年、日本ジン協会から “ジン・ガーディアンズ” の称号を授けられたほどのジンマニアなのだ。ジン初体験は、父・忠夫さんによる指南というから筋金入り。
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「オヤジはジントニックが好きで、毎晩飲んでいましたね。今ならアウトでしょうが、小学生のころに『ちょっと飲んでみぃ』とすすめられたのが最初。そのころは嫌々ひと舐めしていたのが、今ではいちばん好きな酒ですよ」
そもそもジンとは、大麦やトウモロコシなどを原料にしたスピリッツに、ジュニパーベリー(西洋ネズの実)を中心に、ハーブや果実などの「ボタニカル」を加えて香りづけした蒸留酒のこと。キリッとした香りと清涼感が特徴で、カクテルのベースとして世界中で親しまれてきた。
「国産クラフトジンの多くは地元の柑橘やお茶、山椒などをボタニカルに使っており、 “土地の個性を映し出せる酒” として注目されています」
髙嶋が全幅の信頼を寄せる須田さんは、(一社)日本バーテンダー協会の専務理事を務める重鎮。そんな “酒の師匠” の解説に耳を傾けつつ、髙嶋は国産クラフトジンを試飲する体勢に入った。
「今日はこの後、仕事を入れていません(笑)」
と気合十分の髙嶋に、須田さんが最初に用意したのが、京丹後舞輪源(まいりんげん)蒸留所の「マイリンゲンフレッシュクラフトジン」。ひと口啜り、目を剥いた。
「うわ、これは今まで飲んできた “日本独特” って感じじゃないな。すごく華やかで柔らかい」
その反応を見て、須田さんは深く頷く。
「蒸留所名は、スイスの地名『マイリンゲン』にちなんだもの。京都・京丹後市の森林公園『スイス村』の中にあります。これは、クロモジ(クスノキ科の植物)の柑橘系のような香りが立っていますね」
■クラフトジンも当初は “クセ強” が多かった印象だが
髙嶋は、日本でクラフトジンが製造され始めた10年ほど前から、さまざまな銘柄を飲んできたという。
「当時、焼酎や泡盛のメーカーがこぞって参入しましたが、それぞれの持ち味を無理やり入れ込もうとしたためか、最初はちょっとクセが強いものも多かった印象ですね」
「それなら」と、次に須田さんがグラスに注いだのが、北海道のニセコ蒸溜所「オホロジン」。ボタニカルには地元産のヤチヤナギやニホンハッカを使用している。
「これはどちらかというと日本感が強い。土着っぽいというのかな。でも自然で無理がなくて、クセの強さとは違う。すっと入ってきますね」(髙嶋)
なにせアルコール度数40度以上の酒をストレートで飲んでいるのだ。グラスを置いた髙嶋は、すっかりリラックスした空気をまとっている。
そして、次に供されたのは秋田県醗酵工業の「秋田杉GIN」。秋田杉の葉と、5種類のボタニカルを使用し、 “森林浴をしているかのような清々しさ” がウリだ。
「味も香りも “木” そのもの(笑)。独特だけど爽やかさもあって、スパイシー。ソーダ割りに合いそうですね」(髙嶋)
須田さんが取り出したさらなる “変化球” が、京都はMotoki蒸研の「ヤマレスト フレーバードスピリッツ ゲイシャコーヒー」。ジンに必須のジュニパーベリーを使わず、希少なコーヒー豆「ゲイシャ種」を蒸留したものだ。
「フルーティなコーヒーの味がしっかり。こういうのもおもしろい!」と、心なしかシャキッとした髙嶋に、須田さんが解説する。
「コーヒー豆を漬け込んでもこういう香りにはなりますが、あえて蒸留するときに抽出することで、まったく雑味が出ないんです。では、最後に “デザート” を」
と、須田さんがグラスに注いだのが、北海道根本商店・馬追蒸溜所の「MYAOI GIN 花火」。髙嶋は一飲みしてボトルを手に取り、裏ラベル表示に目を見張った。
「フルーツ感がすごい! 飲んだことのない味ですね。イチゴかと思ったら、マンゴーなんですね。僕なら……牛乳で割ってみるのもいいかも。ジンは難解なイメージがあるけど、作り方も飲み方も、とても自由な酒なんですよね」(髙嶋)
重みのある役柄が増えている俳優の頬が、すっかり緩んでいる。比較のために海外ジンも試したため、カウンターには10以上のグラスが並んだ。そんな “泥酔取材” も、ついにお開き。髙嶋は名残惜しそうにこう締めた。
「ジンはボタニカル次第で、さまざまに複雑に変化する。僕もそんなふうに、いろいろな役を演じていきたいな」
稀代のカメレオン俳優は、ジンの味わいを自らの役者人生に重ねるのだった。
たかしままさひろ
1965年生まれ 東京都出身 1987年に映画『トットチャンネル』でデビュー。食通でロック好きな顔も持ち、バラエティ番組でも活躍。映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』が9月26日に公開
写真・保坂駱駝、布川航太
取材&文・鈴木隆祐