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粋に見えた父・北村和夫を目指して…北村有起哉の役者人生

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2019.09.10 20:00 最終更新日:2019.09.10 20:00

粋に見えた父・北村和夫を目指して…北村有起哉の役者人生

名物「豚肉からし焼定食」をほおばる

 

 俳優北村有起哉(45)の、券売機のボタンを押す指に迷いはなかった。洋食レストラン「洋庖丁」池袋西口店。選んだのは「豚肉からし焼定食(並)」(760円、税込み)だ。

 

「黒コショウの香りがクセになるんです。男って、食べ物に関しては保守的で、冒険しないっていいますよね。僕も、この店ではこれしか頼みません。ふだんは大盛りですけどね」

 

 

 味つけも雰囲気も好みだという、20年来の行きつけの店である。

 

「理髪店をやっている友人が、江古田店に連れていってくれたのがきっかけで、それからちょくちょく通うようになったんです」

 

 今回訪れた洋庖丁池袋西口店は、江古田店が10年前に移転したものだ。

 

「僕の地元の阿佐ヶ谷にも洋庖丁があったんですが、潰れてしまったんです。大滝秀治さんそっくりのマスターがいる、『冨士ランチ』も閉店しました。地元でいまも通うのは『ホープ軒』。月に1度は食べています」

 

 1998年、24歳のときに舞台『春のめざめ』(演出・串田和美)、映画『カンゾー先生』(監督・今村昌平)で俳優デビュー。当時は、まだアルバイトを掛け持ちする生活だった。

 

「ピザの宅配、そば屋の出前……。レンタルビデオ店でもバイトしました。おかげで映画は片っ端から観ましたよ」

 

 当時の目標は、30歳までにアルバイトをせずに俳優だけで食えるようになること。

 

「『そうなりたい』じゃなくて『そうなる』と自己暗示をかけて、そのために何をすべきか、いつも考えていました」

 

 下積み時代を支えたものは、何だったのか。

 

「30歳前くらいから、同世代の小劇場系の知り合いが、テレビに出はじめるようになりました。どこの劇団にも所属していなかった僕は、焦りというか羨ましさというか、彼らに嫉妬していたんだと思います。いまも嫉妬は僕のエネルギーになっていると思っています」

 

 父は名優・北村和夫。しかし、中学、高校とバスケ漬けで、「演劇なんてカッコ悪い」くらいに思っていた。

 

「それが、たまたま、高2の文化祭で演劇をやることになって。脚本から演出まですべて、ひとりでやりました」

 

 当時、人気だったジャッキー・チェンの映画を翻案した自作の劇は、おおいに受けた。

 

「これに味を占めて、高3の文化祭では『仁義なき戦い』をやりました。これも大ウケで、女のコ4人から告白されたくらい(笑)。それで、『もしかして演劇に向いてるのかな』って思うようになったんです」

 

 同級生でインテリアデザイナーの清水慶太氏は、「当時からまわりを引き立てるバイプレイヤーでした」と語る。

 

 北村は、大学受験に失敗し、日本映画学校に入学。同時に、俳優養成所にも通いはじめる。

 

「地方から上京してきた同級生は、入学できただけで舞い上がっていましたが、僕は冷ややかでした。父親が役者の家で育っているから、そんなに簡単に俳優になれるなんて思っていなかったんです」

 

 俳優の息子として生まれたことによる葛藤もあった。

 

「養成所でも『北村和夫の二世が入った』とあっという間に広まって、本当にイヤだった。でも、それに負けたくないという気持ちがパワーになっていた面もありますね」

 

 転機となった作品が、今村昌平監督の映画『赤い橋の下のぬるい水』(2001年)だった。

 

「富山の漁師の役でした。親父もこの映画に出ていたんですが、小沢昭一さんが『かっちゃん(北村和夫)の息子がいちばんよかった』と言ってくれたんです。

 

 親父は『あいつはまだまだヒヨッコだ』と本気で怒っていたそうですが(笑)、ようやく親父にアピールできたのかなと思いました」

 

 2007年、父が亡くなったこの年、ドラマ『SP』(フジテレビ系)にテロ集団の頭役で出演。北村は「今でも代表作と言われたりします」と苦笑するが、キレのある演技は評判を呼び、テレビでの活躍が増えていく。

 

 また、舞台『CLEANSKINS/きれいな肌』(栗山民也演出)で、翌2008年の朝日舞台芸術賞の寺山修司賞、読売演劇大賞優秀男優賞をW受賞。北村は自らの力で人気俳優となった。

 

 そして、2019年7月の舞台『怪談 牡丹燈籠』の伴蔵役。かつて父が演じた強欲な町人役だ。忙しかった父との思い出は、あまりない。かすかに覚えているのは、そば屋での姿だ。

 

「僕は高校生くらいでした。新宿・紀伊國屋書店の地下だったかな。2人でざるそばを食べていたら、親父が『そば湯ちょうだい』って大声で叫んだんです。当時は、そば湯なんて知らなかったから、妙に粋に見えたんですよね」

 

 父の享年まであと35年。北村は、さらにその先の役者人生をも、しっかりと見据えている。


きたむらゆきや
1974年4月29日生まれ 東京都出身 1998年デビュー。ロングラン上映を続ける映画『新聞記者』(藤井道人監督)ではヒロインの上司役。そのほか、テレビドラマ『BS時代劇 螢草 菜々の剣』(NHK BSプレミアム)、『セミオトコ』(テレビ朝日系)に謎の中年男・小川邦夫役で出演中

 

【SHOP DATA/洋庖丁池袋西口店】
・住所:東京都豊島区池袋2-41-6第一シャンボールビル1F
・営業時間:11:00~22:30
・休日:日曜
 江古田で30年以上営業してきたが、2009年に池袋に移転。暖簾分けの姉妹店が板橋、高田馬場、大山にある

 

(週刊FLASH 2019年9月10日号)

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