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佐藤蛾次郎、『男はつらいよ』の思い出は柴又の天丼とともに

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.01.10 06:00 最終更新日:2020.01.10 06:00

佐藤蛾次郎、『男はつらいよ』の思い出は柴又の天丼とともに

 

「ここの天丼は日本一! 甘辛いタレでね、これぞ江戸前の味。料理好きな俺が言うんだから、間違いない」

 

 俳優で、カラオケパブ「Pabu 蛾次ママ」(東京・銀座)も経営する佐藤蛾次郎(75)が絶賛するのは、「大和家」の天丼だ。国民的映画『男はつらいよ』シリーズの舞台となった、葛飾区柴又・帝釈天の参道沿いにある、1885年創業の老舗である。

 

 

「ロケで柴又へ来ると、必ず、この店の入口に近い席に座って、撮影の声がかかるまで、待機してたのよ。そして、腹が減ると天丼を一杯。

 

 山田(洋次)監督、渥美(清)さんや倍賞(千恵子)さんもよく来てた。店構えも、店内の雰囲気も、昔からなんにも変わってない。それがまたいいんだよ」

 

 大阪生まれの蛾次郎は、小学3年のときに児童劇団に入団。以降、大阪で「ちょこちょこテレビや映画に出ていた程度」(蛾次郎)だったが、23歳のとき、山田監督との出会いが人生を変えた。

 

「『松竹のえらい監督が、関西を舞台にした映画を撮るためにオーディションをやる』と聞いたんだけど、そのころの俺はくすぶってて、やる気もなくてね。

 

 面接の日も、ずっとモダンジャズ喫茶にいて、『あ、今日はオーディションだったな』って思い出して。気づいたときには、約束の時間を2時間以上過ぎてた。『もう誰もいないだろう』と思いつつ事務所へ行ってみたら、マネージャーが『お前なにやってんだ! なぜか、監督がお前を待ってるぞ』って。

 

 それで、監督の前で、椅子に座って短い脚を組んで、タバコをふかして『おっす!』ってやったら、監督は笑ってた。怒らなかったね。『どんな役がやりたい?』と聞かれて、『チンピラみたいな役がいいな』って答えたら、一発で決まった。

 

 あとで聞いたんだけど、監督は『大阪に変わった役者がいる』と聞いてたらしくて、俺を待っててくれたんだ。オーディションに受かって、そりゃ嬉しかった。東京進出のきっかけになったからね」

 

 1968年、テレビドラマとしてスタートした『男はつらいよ』(フジテレビ系)は、1969年に映画化され、これまで特別篇を含めて49作が公開された。蛾次郎は、「寺男の源公」役で出演し、人気を博した。

 

「いつだったか、俺が寺の鐘をつく撮影まで、2~3時間休憩があって。大和家のご主人が気をきかせて『蛾次郎さん、ブランデーでも飲むかい?』って。俺も少しならいいかと飲み始めちゃってね。

 

 酒が進むにつれて、どんどん気も大きくなって、『鐘つきのシーンなんて、前に撮ったフィルムがたくさんあるから、それを使えばいいんだよ』『どうせカメラはロングショットで撮るんだから、わかりゃしない』とか、大声で言ってたんだよな。

 

 で、出番になって帝釈天に行ってみたら、カメラはロングじゃなくて、鐘のそばに置いてあった。びっくりしたよ。すぐに本番が始まって、鐘を思いっきりついたら、監督が『ばかやろう! 源公はイヤイヤ鐘をついてるんだ。なんでそんな嬉しそうな顔してんだ!』って怒られた。

 

 撮影のあと、ハイヤーで監督と2人で帰ることになって、そこで、『撮影のときに酒は飲むな』ってひと言だけ。『監督はえらいな』って思ったよ。本来なら、延々と説教されてもおかしくないわけだからさ」

 

 まさに、映画の中の源公を彷彿とさせるエピソードで、次第に蛾次郎とキャラクターが、かぶって見えてくる。

 

「いやいや、難しい役なんだよ。源公は、寅が女のコに振られたら喜ぶような男。人の不幸を見て喜ぶ悪魔(笑)。

 

 いちばん難しかったのは、幼稚園児7、8人とかくれんぼをやるシーン。『精神年齢を同じくらいにしてやれ』って言われたけど、できるわけがない。でも、一生懸命やったよ。

 

『源公役は楽でいいな』って言う人もいたけど、とんでもない! 監督はリアルを求める人だから、なかなかOKが出ないんだ」

 

佐藤夫婦を囲む、寅さんファミリー(写真・本人提供)

 

 1972年、『男はつらいよ 寅次郎夢枕』の撮影で、和子夫人(故人)が、「とらや」の近所に住む娘役で出演したことがあった。

 

「このとき、うちの女房は花嫁姿だったのよ。その撮影が終わったあと、監督が『蛾次郎、衣装部屋へ行って着替えてこい』って言うんだ。俺はわけがわからないまま、衣装部屋へ行ったら、紋付袴が用意してあってね。『みんなで結婚式の写真を撮るぞ』って。

 

 当時、俺は貧乏だったから、挙式どころか、写真すら撮ってなかった。それを耳にした監督が、俺たち夫婦のために、サプライズを用意してくれたんだ。

 

渥美さん、倍賞さん、おいちゃん(松村達雄)、おばちゃん(三崎千恵子)と一緒に撮った貴重な一枚。カメラマンは、篠山紀信さん。山田監督には一生頭が上がらない。感謝、感激。一生の宝物だよ」

 

 12月27日、50作めとなる『男はつらいよ お帰り寅さん』が公開される。

 

「『寅さん』がなかったら、役者として今の俺はない。山田監督のおかげだから。じつは30年以上、山田家のおせちは俺が作ってる。

 

 今年も作って持っていくよ。監督は『もういいよ』って言うんだけどね。せめてこれくらいはさせてください、今日あるのは、あなたのおかげです、って言葉にはしないけどね。そういう思いをおせちにこめてね。味はそのへんの料亭に負けないよ」

 

 天丼でおなかを膨らませたら、お土産に柴又名物の草だんごも忘れずに。これが、蛾次郎の流儀だ。


さとうがじろう
1944年8月9日生まれ 大阪府出身 映画『男はつらいよ』シリーズの柴又帝釈天題経寺の寺男・源公役。第8作を除き、全作品に出演

 

【SHOP DATA】
《大和家》
・住所/東京都葛飾区柴又7-7-4
・営業時間/9:00~17:00ごろ(店内飲食は11:00~16:00ごろ)
・休み/不定休

 

《Pabu 蛾次ママ》
・住所/東京都中央区銀座8-7-11ソワレド銀座第2弥生ビル9F
・営業時間/18:30~24:00
・休み/日曜、祝日

 

(週刊FLASH 2019年12月31日号)

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