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コロナ禍の豪華客船に入った医師が感じた「日本のいじめの構造」ライフ・マネー 投稿日:2020.04.26 16:00

コロナ禍の豪華客船に入った医師が感じた「日本のいじめの構造」

岩田健太郎医師

 

 ご存じの方も多いと思うが、新型コロナウイルス感染症の渦中、ぼくは感染拡大が起きていたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号に入った(2020年2月18日)。船内の感染対策を最終的な目標としていた。厚生労働省の方に提案され、災害派遣医療チームのDMATの一員としてまずは船内に入り、最初は感染対策をせず、DMATのメンバーとしてDMATの仕事をし、次第に感染の方をやっていく、という手はずだった。

 

 

 入ってみると現場のDMATのリーダーに「DMATの仕事はいい、感染対策をしろ」と命じられたので、ぼくは感染対策の仕事を始めた。船内の感染対策には非常に不備が多く、それが危機的に感じられたのだ。ところが、このときの態度が「某氏」の目に止まり、それが気に入らない、という理由でぼくは同日内に船内から追い出されてしまった。弁明の余地すら与えられなかった。

 

 このあと、ぼくがYouTubeにこの顛末を英語、日本語でアップしたために、思わぬところで大騒ぎになってしまった。「海外に国内の恥をさらすな」という保守派と、政権批判の道具に使いたい層がこの騒ぎに入り込み、意図も希望もしなかった場外乱闘的議論も起きてしまった。ぼくはこれ以上議論が明後日の方向に向かわぬよう動画を削除し、騒動を詫びた。

 

 そのために、一部ではぼくが「間違いを認めた」から謝罪したと勘違いしたようだが、そういう話ではない。
 ここでは言えない詳細もある。言ってもしようがない詳細もある。本題から外れるのでその話はしない。
 ここで考えたいのは一点。船から問答無用で追い出されてしまった、という事実。それだけである。

 

 ぼくの言動が現場の誰かを不愉快にさせたらしいことは理解している。それを申し訳なくも思っている。本稿を書いている今でも、どうやったらあの場にとどまりつつ、皆の不安や不満を増強させることなく、危機対策に貢献できたのかは、自問している。反省点もいくつか持っている。自分が全面的に一方的に正しい、と主張する気は毛頭ない。

 

 だが、仮にぼくが間違っていたとしても、「間違っていたから排除する」という理屈はおかしいと思う。今でもおかしいと思っている。そんなものは組織ではない。危機対応時の組織ですらない。

 

 みなが不快に思う、不安に思うと言うなら、ぼくに声をかけて「お前の振る舞いに問題がある」と言えばいいのだ。面と向かって。それならば、こちらも自分の問題点に気づき、反省し、改善するチャンスだってあっただろう。そもそも、それはどこまでがぼくの態度の悪さなのか、どこまでがその「某氏」の好みの問題なのかすら分からない。というか、自分自身は隠れて安全なところにいて、その正体も明かさずに他人を一方的に排除することが、果たして許されることなのかどうか。

 

 アドホックな(その場限りの)根拠で自分の嗜好に合わない人物や行動は排除する。価値観や振る舞いを共有できない輩は排除する、合う人物とだけ仕事をする。こういう同調圧力や異論の否定は、特に危機管理のときに危険である。間違いがあっても誰も否定できず、そのままみんな揃って「滅びの道」、ということはよくあることだからだ。

 

 これまで、アフリカやアジア、南米などいろいろな国の感染症診療に関与してきたが、国際社会においては問題の解決は、たいていは議論による合意で行なう。たとえ命令系統という上下関係があったとしても、なんのヒヤリングもなく誰かを排除することは絶対にない。

 

 例えば、2014年のエボラ出血熱流行のときは、ぼくはシエラレオネでWHO(世界保健機関)のコンサルタントとして働いていた。感染拡大防止がうまくいかず、最終的には英国軍がこの対策のリーダーシップをとることとなった。軍人は会議の進行なども無駄がなく、厳しいものであったが、専門家の進言には必ず耳を傾けた。彼らは、自分たち自身は感染対策の専門家ではなく、危機のマネジメントに専心するのが役割だと知っていたからだ。

 

 災害や感染症の現場でいつも強く感じるのは、日本の「現場」はいつも皆、疲れていて、イライラしていて、ギリギリのところまで頑張ってしまっていることだ。特にトップが一番疲れていて、イライラしている。責任感が強いからなのだが、休まず、眠らず、現場から離れず、そして周りの「すべての」相談に対応せねばならず、とても忙しい。

 

 よって、彼には声をかける瞬間すらなく、かけようものならとても嫌な顔をされる。忙しいからだ。方針転換など求めようものなら、「なんでみんな頑張ってるときにそんなことを言うんだ」と怒られる。

 

 海外でも危機時にはみな緊張している。米国の2001年の炭疽菌テロ事件のときなどは本当に忙しかったし、みな大変だった。しかし、リーダーはちゃんと休養をとり、睡眠もとり、現場をしばしば離れて自宅に戻り、家族と会い、リフレッシュして戻ってきた。「すべて」に対応しようとはせず、餅は餅屋で専門家に任せ、自分は全体像の把握と対応に専念し、マイクロマネジメントは極力避けていた。

 

 こういう人物になら相談もできるし、進言もできる。いろんな人が進言すれば、新しいアイデアも出てくるので、ベターなプランニングもできる。

 

 日本だと、現場はいつもいっぱいいっぱいなので、意見はできない、よって当初の方針は変更できない。プランAに固執して、失敗したときの代替案(プランB)に舵を切れない。間違え出すと、いつまでも間違え続ける。これは、リーダーを含め個人の責任ではなく、ましてや彼らの誠意ややる気の問題でもなく、単に組織構造の問題なのだ。日本で何か問題提起し、改善を提案すると、すぐに「個人攻撃」と捉える人が多いので、この点は強調しておきたい。

 

 そして、このような、組織やリーダーが憔悴していっぱいいっぱいなときに、異端の存在は絶対に許されない。普段から同調圧力が強い組織なのだから、危機時にはさらにその同調圧力は強まり、異論は一切許さなくなる。そうやって、わざわざ望んで自分たちがより失敗しやすくするのである。

 

 結局、ダイヤモンド・プリンセス号では、回避できたはずの乗客やクルー、船内に入り込んだ官僚たちの二次感染(と推定される事例)が相次いだ。これらは回避すべき事態であったが、誰にも転進はできなかったのだ。このような異論を認めない、異端を認めないエートス(空気)が、「大人のいじめの構造」だ。大人の社会がいじめ社会だから、子供社会でいじめがなくなるわけがないのだ。

 

 しかし、もしかしたら、2020年の新型コロナ感染問題で、日本社会もようやく変わりつつあるのかもしれない。もちろん、良い意味で。

 

 新型コロナウイルス感染は、インフルエンザなどと違い、発症初期は軽症で、普通の風邪とたいして症状は変わらない。そしてこれが、日本で新型コロナが流行しやすい最大の原因なのだ。「普通の日本人」なら、風邪くらいでは絶対に休まない。だから、通勤、通学してしまう。社会でウイルスを広げてしまう。

 

 よって、新型コロナ対策は、病気になったら家で休む、やたらと病院に行かない(病院で感染が広がるので)、満員電車に乗らない、体調が悪いときに会社に行かない、といった対策を必要とする。これって、日本社会の「常識」をすべて覆せってことじゃないか。

 

 病気で会社を休みますと言うと、日本では必ず病院に行って「証明書」をもらってこいと言われる。同調圧力が強くて、「ずる」を許したくないからだ。自分たちが働いているときに休んでいる人間がいることに耐えられないのだ。
本当は、病気でパフォーマンスが落ちた人に仕事をさせても生産性は落ちるし、下手をすると自分たちだってうつされてしまうから、休ませてしまったほうが得策なのだが、そういう「生産性」とか「結果」には興味がない。全体のパフォーマンスが落ちてもいいから、俺より得するやつは許さない。

 

 こうやってみんなで一緒に地盤沈下していくのが同調圧力だ。誰かが得するくらいなら、みんな揃って損をしたほうがまし、という非常にねじれた思考プロセスである。

 

 クルーズ船内の感染を防御したら、みんなが得をしただろうに、気に入らない人物を排除することで、全員が感染リスクを高いままにしてしまう。まさに「みんな一緒に地盤沈下」の論理だ。そのような同調圧力に抗うことだけが、新型コロナの抜本的な対応策だ。これができるかどうか、「人と違う」ことに耐えられるかどうかが、日本がコロナを克服できるか、の最大の決定要素の一つになっている。

 

 

 以上、岩田健太郎氏の新刊『ぼくが見つけた いじめを克服する方法~日本の空気、体質を変える~』(光文社新書)をもとに再構成しました。自らもコミュ障でいじめられっ子だったという著者が、日本社会の同調圧力を打ち破る方法を提案します。

 

●『ぼくが見つけた いじめを克服する方法』詳細はこちら

 

写真・野澤亘伸

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