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【食堂のおばちゃんの人生相談】46歳・経営者のお悩み

ライフ・マネー 投稿日:2020.08.10 11:00FLASH編集部

 

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/匿名希望(46)経営者】
 工業高校中退後、30代で会社をおこし、いまは社員20余名を擁する中小企業の経営者です。仕事には、絶対の自信と誇りを持っていますが、どうしても学歴コンプレックスが消えません。高学歴の同業者には距離を置いてしまうし、大卒なのに仕事のできない社員は、怒鳴りつけたくなります。
 息子も私の遺伝か、小学校から塾に通わせて家庭教師をつけたのに、結局偏差値50台の高校に通っています。このコンプレックスは、永遠に続くのでしょうか?

 

 

【山口先生のお答え】
 何というもったいないお悩みでしょう。リストラ要員で肩叩きされた人たちから見たら「贅沢言ってやがる」ですよ、きっと。

 

 私から見てもあなたは非常に優秀な方だと思います。工業高校中退の経歴で、中小企業のオーナー経営者にまでなった方がどれくらいおいでかは知りませんが、多分ごく少数ではないでしょうか。

 

 私なら中小企業のセミナーで高学歴の経営者たちを前にしたら「みんな、自分より4年以上長く勉強してるくせに、どれも大したことねえなあ」と、腹の中で嘲笑っちゃいますけどね。

 

 あなたが大きな考え違いをなさっていると思うのは、勉強の能力と仕事の能力を同じ土俵に乗せていることです。この2つはまったく違う能力です。簡単に言えば、勉強に向いている知性と、仕事に向いている知性は違うのです。

 

 もう一つ言えば、学問を究める能力と試験で良い点を取る能力、これまた別物です。学問を究める知性とは何年も、何十年も考え続けて正しい答を見いだすような能力ですが、試験で好成績を取るためには制限時間内で正解を見つける必要があって、それは知性と言うよりシステマティックな訓練の賜物です。

 

 大切なことは、あなたが学問や試験向きの能力ではなく、仕事向きの能力を持っている、という事実を受け容れることです。あなたはご自分の能力を活かし、同業者より不利な条件をものともせず、立派に会社を興し、経営に成功なさったのです。これで不満を言ったらバチが当たりますよ。

 

 息子さんもお幸せだと思います。お父さんを見ていれば「たとえ勉強が出来なくても人生は失敗じゃない」「努力と工夫次第で人間は成功することが出来る」という、極めて前向きの人生観を持つことが出来るからです。

 

 どうぞ自信を持って、一人の男の悔いなき人生の道筋を、息子さんに背中で教えてあげて下さい。

 

 そして、もう一つだけ覚えておいて下さい。人間の序列は社会的地位や財産の順番で決まるわけではありません。同様に、知能指数の順で決まるのでもありません。

 

 相手のことを気遣う優しさ、不正や卑怯を拒む勇気、意気に感じて一肌脱げる侠気。この3つに欠ける人は、どれほど優秀でも金持ちでも高貴でも、人間ではなくてただのサイボーグです。

 

やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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