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身長155センチのアイドルロボット「高坂ここな」が生まれるまで

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.09.02 16:00 最終更新日:2020.09.02 16:00

身長155センチのアイドルロボット「高坂ここな」が生まれるまで

 

 日本文化が世界に誇るアニメやマンガのキャラクターが、実際に動いたらさぞ楽しいだろう。こう思いついて、しばらく考え続けた。間違っていないように感じられたが、技術開発をする前に調べておかなければならないことがあった。

 

 そのニーズが本当に市場にあるのか?

 

 

 それはその市場に詳しい人に聞くのが一番だ。大阪のオタク・アニメ会社の社長さんとお話しする機会を得て、手厳しい条件を突きつけられた。

 

「スリムで静かなロボットなら」

 

 ぼんやりと思い浮かべていたのは、筋骨隆々なロボットにデフォルメされたアニメ・キャラだったから、そこで突きつけられた条件はあまりにも衝撃的で、自分の無力に肩を落とした。当時、うちの会社のロボット技術では、あまりにハードルが高すぎた。

 

 今ある技術で作れるロボットではなかったが、諦めることはしたくなかった。「スリムで静かなロボット」さえ実現できれば、ニーズがあると言われたのと同じなのだ。こうした現場レベルでの実感は、生きたマーケティングだと思う。

 

 スマートでカッコよく可愛いロボットはとても魅力的に思えたし、モノとしてのロボットからパートナーといえるロボットへ変化させるアイデアをひらめかせてもらえたとも思っている。スマートな動くフィギュアは、これまで存在しなかったから。

 

 それでも、なかなかいいアイデアは生まれない。細い手足にくびれた腰。アニメ・キャラそのものの体躯。「駆動部がかさばるんだよなあ」ということはわかっている。

 

 ある時、だったらロボット本体から駆動部をなくしてしまえ! とひらめいた。

 

 アイデアを思いつけば、実現するのはそれほど難しいことではなかった。3個のサーボモーターとワイヤーで頭、肩、肘を動かす試作第1号機を作った。今も会社に大事に保存してある。未熟な物ではあったけれど、頑張れば実現できることは確認できた。それが当社のリモートモーター式ロボットの第1号機であった。

 

 試作第1号機を作ってハッキリ見えたのは、

 

(1)この方式はいける!
(2)課題は関節の構造と安定的なワイヤーでの駆動力の提供方式
(3)部品が少なくて済むから美しい関節も構成できそうに思う

 

 ということだった。そして思ったとおり、その後各種の改良を加えてどんどん完成度が上がっていった。うれしかった。

 

 20関節程度のタイプも試作した。そして45センチのモーション・フィギュアは関節数が34個もあった。一般的な2足歩行ロボットの関節数が17~20程度だからかなり自由な動きを実現できた。その一瞬のひらめきがなかったら、モーション・フィギュアは実現できていなかったかもしれない。

 

 その後、等身大の「高坂ここな」を開発したのは、どこまで人に近い表現ができるロボットを実現できるのかへの挑戦であったように思う。そして等身大ということで得られる親近感があると信じていたから。

 

 東京・吉祥寺のブティックの店頭でデモした時、特に女性の方々や子供たちの反応が面白かった。

 

 女性の方々は「可愛いー」と言ってくださることがすごく多く、子供たちはじーっと見入ってやがて手を握りに行ったり抱きつこうとすることが多かった。男の子はもじもじして照れてしまっている様子も見られた。大成功だと思った。その用途は多岐にわたって広がるものだと信じている。

 

 等身大の「高坂ここな」は、開発時に155センチで普通体形の女子型を目指した。しかもこれまでの小型モーション・フィギュアと違って、「高坂ここな」を動かすモーターはすべて体の中に収めることができた。躯体が大きい分、収納スペースを確保しやすかったから。

 

 とはいえ、すんなりと開発が進んだわけではない。

 

 たとえば肩の関節の部分は構造上、どうしてもモーターを入れることができなかった。肩の関節というのはロボットにとっては最も実現が難しい部位。なぜなら腕はすごく長いので、それを上下に稼働させるためのモーメントは恐ろしく大きくなる。

 

 しかも肩は180度以上に回転もすれば、左右に開く方向にも100度近く動く。スリムな肩の機構の実現は、ロボット技術の集大成といっても過言ではないかもしれない。その肩を普通体形の女子型のフォルムの中に収めるというだけで半端ではないハードルがある。

 

 肩のモーターは少し離れた胸のあたりに収納し、シャフトやベルトで回転力を肩まで伝えている。実現できたけど、その苦労は、語ると長い自慢話になるほど大きなものだった。

 

 そういった開発の結果として当社の大事な技術である「リモートモーター技術」の特許を得ることができた。最初から特許が取れるかどうかなんてわかったものではない。特許を取ろうと思って考える特許なんて大抵が空回りで終わる。

 

 何が大事なフィーチャーかは最初から見えていることは少なくて、開発していくうちにどんどん変わっていくものだと思う。それに柔軟に対応し、目標も必要に応じて変更していく必要があると思う。

 

 

 以上、春日知昭氏の新刊『面白いことは上司に黙ってやれ 日本発の新ビジネスを生み出すには?』(光文社新書)をもとに再構成しました。ソニーで、犬型ロボット「AIBO」などの開発に携わり、退職後にロボット開発会社を立ち上げた著者が綴る、日本が世界で再び存在感を示すための考え方とは?

 

●『面白いことは上司に黙ってやれ』詳細はこちら

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