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千利休「茶の湯の心得」に学ぶビジネス戦略「まさかを想像せよ」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.10.06 16:00 最終更新日:2020.10.06 16:00
千利休は七つの茶の湯の心得を残しています。「利休七則」がそれです。もちろん、茶の湯とはどのような心をもって臨むべきものであるかを示したものですが、それは同時に人の日々の暮らし方、ひいては生き方の指針ともなっている気がするのです。
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茶の湯は禅に通じ、禅は暮らし(生き方)と不可分であることを思えば、当たり前のことかもしれません。利休七則のうちのひとつが、「降らずとも傘の用意」というものです。
茶会は極上のおもてなしを提供する場です。始まったときが晴れ渡っていても、急変して、終わる頃には雨が降りしきっていることもあるでしょう。その際、
「まさか、このような天候になるとは思わなかったものですから、あいにく傘をご用意していなくて……」
ということでは、亭主の役割はつとまりません。まさかの事態、不測の事態、予期せぬできごと……が起きるのが世の中です。できるかぎり、それを想定して、そうなったときに備えておかなければいけない、とこの則は教えています。
これは想像力の勝負といえるかもしれません。どこまで「まさか」を想像できるか。それによって備えのレベルは変わってきます。おもてなしのケースで考えてみましょう。何人かを自宅に招いて食事をふるまうことになって、メニューを思い描く。
「ここは奮発して蟹にしよう。ちょうど旬の時期だし、蟹鍋をメインにしたら、きっと、みなさんに喜んでいただける」
蟹はとりわけ日本人が好きな食材です。しかし、苦手という人がいないわけではありません。招いたなかにたまたまそんな人がいたら、宴たけなわとなり、いよいよ蟹鍋登場の段になって、「申し訳ありません。わたしは甲殻類がいただけなくて……」という事態になります。その人にとってはメイン抜きの食事会になってしまうわけです。
しかし、これは少し(もしかしたら、蟹が苦手な人がいるかもしれない、という)想像力をはたらかせれば、防ぐことができる事態ではありませんか。招待の連絡をするときに、ひとこと、「ところで、何か召し上がれない(お嫌いな、苦手な)ものはおありですか?」 と尋ねたら、この「まさか」の事態は回避できます。
そのうえで、その人には別のメインを用意する。小鍋ですき焼きを出す、といった具合です。想像力によって必要な備えが明らかになるのです。
仕事の場面ではこんなことがあるかもしれません。
進めていたプロジェクトで、先方のプロジェクトリーダーが、突然、変わった。新リーダーはそれまでの進行の流れを知りませんから、プロジェクトは少なからず、停滞することになる局面です。
もちろん、先方ではしかるべき引き継ぎをおこなうはずですが、こちらがそれまでの流れを簡潔にまとめたレジュメをつくっておけば、引き継ぎもずっとスムーズにおこなわれるのではないでしょうか。
「これまでの流れをまとめておきました。こちらをご覧になってください」とレジュメを渡された相手は、そのすぐれた備えに驚きもし、感謝をするに決まっています。「向こうのメンバーにはすごいやつがいる!」。そんな感想をもつかもしれません。
レジュメづくりは実際のプロジェクトの作業とは別の作業でしょう。しかし、「まさか」を見越してそこまで備えをしておくことに意義があるのです。卓越した想像力が可能にする、高度な備えといえるでしょう。
プロジェクトのメンバーとして、周囲と横並びの仕事をしていたのでは、相応のおもしろさ、充実感しかありません。そこから突出したら、出る杭になったら、おもしろさ、充実感は倍増、3倍増になります。
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以上、枡野俊明氏の新刊『人生は凸凹だからおもしろい~逆境を乗り越えるための「禅」の作法~』(光文社新書)をもとに再構成しました。ベストセラー『心配事の9割は起こらない』著者による、「禅」をベースにした楽しく元気が出る人生論です。
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