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【腕時計入門】世界初の腕時計は女性のために開発された
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.01.09 16:00 最終更新日:2021.01.09 16:00
男性向けの雑誌では、腕時計企画がキラーコンテンツ。時計店でも扱われている腕時計はほとんどが男性向けであり、現在の時計市場は男性優位となっている。男性が身につけることのできる数少ないアクセサリーであるため、男性に腕時計愛好家が多いのは事実だ。
しかし歴史を紐解くと、“時計を身につけること”に熱中したのは、むしろ女性の方だった。
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機械式時計は、歴史を通じて小型化を進めてきた。17世紀の中頃には懐中時計が多く作られるようになったが、そのほとんどが大きなサイズなので貴婦人からは不満が多かった。しかもドレスには紳士服のようにポケットがないため懐中時計自体が不向き。
そこで貴婦人たちはもっと小さな時計をお抱えの時計師に作らせ、貴婦人たちは腰からぶら下げるジュエリー「シャトレーヌ」として楽しんだ。
小型化した時計は、ファッションの変遷とともにペンダント型やブローチ型へと変化し、ついに1810年に腕時計へとたどり着く。
ナポレオン・ボナパルトの妹で、のちのナポリ王妃となるカロリーヌ・ミュラが天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲに注文した時計は、ブレスレットの上に時計が取り付けられており、それこそが「世界初の腕時計」だといわれている。
ちなみにスイス初の腕時計も、実は女性用だった。1868年にハンガリーのコスコヴィッチ伯爵夫人が購入したパテック フィリップ製の腕時計は、優れた技術だけでなく、宝飾的造形もハイレベル。美しく可憐な時計を身につけたいという女性の情熱が、時計技術を飛躍的に高めたのだった。
一方、男性の場合は懐中時計でも不便がなかったので、男性用腕時計が誕生するのはもっと後だった。きっかけとなったのは戦争である。戦略が高度化し、飛行機などが戦場に登場すると、懐中時計をのんびりと取り出す余裕はなくなってしまう。
そこで1880年ごろにドイツ皇帝ヴィルヘルム一世が、スイスのジラール・ペルゴに海軍将校用の腕時計の製作を依頼。作られた時計は、懐中時計に腕に巻きつけるためのレザーベルトがついていた。これこそが、男性用腕時計の始まりとされている。
このスタイルが戦場で評判になり、兵士たちは懐中時計を腕に巻いて使い始めるようになった。男性用の腕時計は、軍用品として始まったのだ。
では男性が装うための腕時計はいつ生まれたのか? それは1904年にカルティエから誕生した。
のちに「サントス」と命名されることになるエレガントな角型時計は、ヨーロッパにおける航空機開発の第一人者サントス=デュモンのために考案されたものだ。可憐なジュエリーを作ってきたカルティエだからこそ、男性が小ぶりでエレガントな腕時計をつけるという洒脱なスタイルを思いついたのだろう。
そしてファッショナブルに時計を楽しみたいという情熱が、現在まで続く腕時計のスタイルを生んだのだ。
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以上、篠田哲生氏の新刊『教養としての腕時計選び』(光文社新書)をもとに再構成しました。自分自身を語る腕時計に出合えるよう、腕時計の深淵なる世界を歴史や文化的側面から紹介します。
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