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溝口健二さえ残された作品は4本だけ…消えた傑作はどこに眠っているのか

ライフ・マネー 投稿日:2021.01.15 16:00FLASH編集部

溝口健二さえ残された作品は4本だけ…消えた傑作はどこに眠っているのか

 

 日本映画で最も偉大な監督は誰か、というようなことをよく外国で聞かれたりするのですが、わたくしは時に応じて溝口健二と言ったり、小津安二郎と言ったりしている。

 

 成瀬巳喜男と言ったこともあるわけですが、日本人たるもの、しかも国を愛する者であろうとする限りは、溝口健二を見てないやつは反日主義者だといわざるを得ない(笑)。それほど溝口はすごい人なのです。

 

 

 ところが、われわれが見られる溝口のサイレントというものは少ないわけで、4本ぐらいしか残されていません。しかしその4本がどれも素晴らしい。

 

 京都大学の木下千花さんが溝口についての素晴らしい本『溝口健二論』(法政大学出版局)を書いてくれましたけれども、それによると、溝口はプロデューサーよりもむしろ検閲官たちと戦っていたようです。

 

 検閲が「このようなところは撮ってはいけない」というと、ならばそれをどのように撮ればいいかという、敵の裏をかく描き方があって、そうした技法に多くの優れた監督たちは熟達していったようです。

 

 けども、千花さんの本を読んでみると、ほとんど検閲官のいうことを予想するかのように、溝口は自分でシナリオを変えています。

 

 ところが、いま、わたくしたちは、『狂恋の女師匠』(1926)も『日本橋』(1929)も見ることができない。これを、不当で不自然きわまりない事態だと憤らねばなりません。

 

 日本で撮られて、しかも、いい加減な会社で撮られたものではないはずなのに、プリントが残っていない。もちろん、当時は撮影所の火事で焼けたとかいろいろな事情はあるのですが、絶対にどこかにあるから、これを探し出さなければいけない。

 

 小津の場合もそうです。

 

 小津の中で一番長い『美人哀愁』(1931)は、井上雪子さんが出られている作品ですが、このプリントも見つかっていない。日本映画の最も優れた一時期に作られた傑作を、今日まで生き延びさせることができなかったのは、日本人として大変恥ずかしいことなのです。

 

 もちろん、ジョン・フォードの2巻もののユニバーサルで撮った西部劇だって、なくなったもののほうがはるかに多い。けれども、思いがけない時にチェコスロバキアで発見されたとか、そういうことが起こる。

 

 ところが、日本では、溝口のサイレント映画がほとんど発見されていない。日本という国の文化的な貧しさですね。本当に腹立たしいし、そんなことが許されていいのかというような気持ちがあるのです。

 

 わたくしが本ものの映画評論家であるかどうかはともかく、映画評論家たるものの一つの使命は、見られない作品を何とか見つけ出すことにあるはずだと思っています。

 

 ですから、小津も、溝口もずいぶんと探し回りました。でも最終的には出てこなかった。ところが、ポンと『和製喧嘩友達』(1929)みたいなものが出てきたりする。

 

 だから、プリントはどこかに絶対にあるはずです。どう探せばいいのかということが問題なのです。

 

 わたくしは、パリのシネマテーク・フランセーズをよく探せば、溝口は絶対に出てくるはずだと、いまだに信じている。『狂恋の女師匠』のプリントは、とにかく戦前にフランスに行っているし、ドイツにも行っています。川喜多長政さんが持っていきました。

 

 ロシアでも2年越しに探したのですが、結局ありませんでした。

 

 わたくしは、動乱期のソ連へ山根貞男さんたちとともに日本映画のプリントを探しにいきました。空港に降りたったら、「ハスミ」と書いた紙を持っている人がいまして、その人の運転するハイヤーに乗り、モスクワ郊外のゴスフィルモフォンドというフィルム・アーカイブまで行きました。失われた日本映画を探し出すためです。

 

 その時、運転手が高速道路を時速200キロ以上のスピードで飛ばすわけです。それが恐ろしくて仕方がなく、もっとスピードを落としてくれと英語でいくらいっても、「ああ、ああ」とかなんとかいいながら全く緩めない。

 

 こんなことのために自分は生まれたのではないと自分にいい聞かせながら、こんなところで死んだら馬鹿だと心から思いましたね。

 

 なんとか無事にたどり着き、黒澤明の『姿三四郎』(1943)の、日本にはないシーンが入っているプリントを見つけたのが収穫だったと思います。

 

 まず映画に関わるなら、あるいは映画批評家たろうとするなら、存在しないプリントを探せ、ということです。

 

 わたくしは少なくとも60歳ぐらいまでは世界を探しまわっていました。あと、大きな可能性を秘めているのは中国のフィルム・アーカイブですが、これは今のところ閉ざされていて、誰にも明らかにされてない。

 

 それから、満映の映画のプリントは戦後にソ連が接収して持って行ったので、モスクワ郊外のゴスフィルモフォンドを探すと、満映が持っていたものが出てきたということはあるのです。

 

 少なくとも批評家たるものは、見ることのできない映画に嫉妬し、これを探し当てるという気を持たなければいけないと思うのですが、そういう人はごくわずかしかいない。

 

 

 以上、蓮實重彥氏の新刊『見るレッスン 映画史特別講義』(光文社新書)をもとに再構成しました。シネマの生き字引がサイレント、ドキュメンタリー、ヌーベル・バーグから現代まで120年を超える歴史を案内します。

 

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