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【食堂のおばちゃんの人生相談】49歳・会社員お悩み

ライフ・マネー 投稿日:2021.02.12 11:00FLASH編集部

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/能天気さん(49)会社員】

 かつての同級生たちはみな親の介護や体調、仕事で悩んでいる。私は両親はとうに亡く、私自身は健康で、独身なので妻子への不満もない。ちなみに結婚の意思もない。だから、たいして悩みがない。同世代が持つような悩みがないのが、悩みだ。

 

 

【山口先生のお答え】

 悩む必要はありませんよ、能天気さん。人は年を取るごとに不幸になっていきます。二十年後、あなたは悩みの塊です。これは脅かして言ってるんじゃありません。私の実体験です。

 

 父が亡くなるまで、つまり42歳まで、私はあなた以上に能天気でした。少なくともあなたは独立採算ですが、私は親の家に住んで半分ニートみたいだったし、おまけにマザコンでした。私は母親ととても仲が良かったし、父は内心はどうあれ放任主義で干渉しなかったので、実家の居心地は快適でした。

 

 43回もお見合いしたのに遂に結婚できなかったのも、居心地の良い実家を捨てて、大して好きでもない人とゼロから幸せを築いて行くのがアホらしく思えたのと、母も本音は私と別れて暮らしたくなかったからです。

 

 そして、当時は「私は結婚出来ないんじゃない、しないだけだ」とお気楽に考え、「このまま二人で楽しいお婆さんになればいいじゃないか」と思っていました。

 

 様相が一変したのは父の死後です。それまで年齢より若々しくて元気だった母が、坂を転がり落ちるように老い衰えて、わずか3年でまったくの別人になってしまったからです。

 

 私を守ってくれる頼りになる人だったのに、私が守ってあげないと何も出来ない人に変身してしまったのです。こうなったらもう結婚どころではありません。私は自分が「結婚出来ない人」になったことを知りました。

 

 同時に、どんどん別人に変わって行く母を目の前にして、生まれて初めての恐怖に金縛りになっていました。もう誰も守ってくれないという現実に打ちのめされ、1人で渡って行かなくてはならない世間に怯えていました。

 

 人には年相応の苦労があります。私と同年齢の女性なら、仕事の他には結婚・出産・子育て・嫁姑問題・介護などでしょうか。私は仕事以外の苦労を知りませんでした。能天気に暮らしていたツケは、こうして後からやって来たのです。

 

 その2年後、丸の内新聞事業協同組合の社員食堂の仕事を得て、私はやっとニートから脱し、精神的にも立ち直ることが出来ました。そしてありのままの母を受け入れて、今に至っています。長年にわたって培ってきた愛情は、今もお互いに揺るぎません。

 

 それでも、こうなることが分かっていたら、人生の何処かの時点で、伴侶を得て自分の家庭を持つことを真剣に考えたのではないか……と思うことがあります。今の幸せが永遠に続くと信じていた己の愚かさを、後悔はしてませんが、反省しています。

 

 私は孤独死する運命だと覚悟しているので、一人で生きるのは悪くないと思います。ただ、これから健康が衰えることだけは覚悟して下さい。今簡単に出来ることが20年後には出来なくなります。その時になってあわてないように、心の準備をして下さいね。

 

やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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