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ウイルスハンター、世界を旅する…目標は「新型コロナ撲滅」と「生命の起源の解明」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.04.17 06:00 最終更新日:2021.04.17 06:00

ウイルスハンター、世界を旅する…目標は「新型コロナ撲滅」と「生命の起源の解明」

鹿児島小宝島でウイルス採取中の望月氏

 

 東京工業大学・地球生命研究所の望月智弘氏は、「極限環境ウイルスハンター」と呼ばれる研究者である。

 

 彼がウイルスをハントする場所、それは超高温の熱水孔だ。

 

「地球上のあらゆる場所にウイルスは存在します。私は水温が100度近くの温泉に棲むウイルスを研究し、生命の起源や進化の謎の解明を目指しています」(望月氏、以下同)

 

 

 望月氏は、熱水に棲む微生物である古細菌を宿主とするウイルスを探し求め、日本や世界各地の温泉地を駆け巡っている。

 

「温泉巡りというと楽しそうですが、実際には肉体労働がほとんどです。源泉から湧く80度以上の熱水を採取し、その容器を担いで次の源泉へ、ということをひたすら繰り返します。 

 

 採取の許可を得る際は、『ウイルス』という言葉は使わないようにしています。保健所の病原微生物検査の人と思われて追い返されるからです。『生命の起源を研究しています』と言えば、断わられることはまずありません」

 

 熱水を研究室に持ち帰り、延々とウイルスを培養する。

 

「いわば “昭和の科学” ですね。今は微生物を培養しない遺伝子解析法が主流ですが、未知のウイルスはひたすら培養する方法が最適なんです」

 

 自称「ガテン系研究者」の望月氏だが、これまで確認されている「古細菌ウイルス」の約半数を自ら発見した。

 

 ここで、そもそもウイルスとは何かを確認しておこう。

 

 細菌との違いもわからない人が多いのではないだろうか。細菌はヒト細胞の10分の1程度の大きさである一方、ほとんどのウイルスはそれよりさらに10分の1から100分の1程度の大きさ。細菌などを見るには光学顕微鏡を使うが、はるかに小さいウイルスには電子顕微鏡が必要になる。

 

 細胞(細菌)は遺伝子のほかに、さまざまな酵素を持ち複雑な構造をしているが、ウイルスは遺伝子と殻のみでできている。細菌は自ら増殖するが、ウイルスは宿主の細胞に感染しなければ増えることができない。

 

「ウイルス研究は、病理分野のものが圧倒的に多く、生命の謎を探る目的で熱水に棲む古細菌ウイルスを専門にしているのは日本では私だけ。世界でも非常に少ない。

 

 しかし私は、こっちが “王道” だと思っています。地球に存在するウイルスで、人に感染するものはごく一部ですが、私の研究では、ウイルスをはるかに広い視点でとらえています。

 

 地球に生命が誕生してからの40億年を対象としたウイルス学です。生命は熱水から生まれたという説があり、それを解くカギが古細菌ウイルスにあると考えています。

 

 幸い、日本は温泉大国なので、私にとって研究しやすい環境です」

 

 壮大なテーマに挑む望月氏だが、一方でその成果が、新型コロナウイルス感染症の収束に大きな役割を果たす可能性もあるという。

 

「古細菌ウイルスを用いたワクチン開発の道を模索しています。

 

 RNAウイルスである新型コロナウイルスは変異が早いため、すぐに現在のワクチンが効かなくなる可能性があり、パンデミック収束に必要とされる年間数十億人分の量を確保できません。

 

 現状おこなわれている常温でのワクチン製造では、コンタミ(異物混入、汚染)の課題があり、大量生産が困難なうえ、高性能の設備も不可欠です。

 

 しかし、古細菌ウイルスを培養する100度近い温度では、雑菌が繁殖せずコンタミのリスクは大幅に低減でき、発展途上国を含めた世界各国で生産が可能になります」

 

 生命の起源の謎に迫り、新型コロナウイルス対策にも関わる――これほどおもしろい研究はほかにはないという。

 

「最初はビジュアルに興味を持ちました。一般的なウイルスは幾何学的な形が多いのに、極限環境の古細菌のウイルスはレモン型や、ワインボトル型など、見た目が “映える” んです。

 

 15年以上採取を続けていますが、ワクワク感は今も変わりません。見たことのない形に出合うたびに、『ポケモン、ゲットだぜ!』と叫びたくなるほど興奮します」

 

“レア・ポケモン” を探しに、ウイルスハンターは世界を旅する。

 

もちづきともひろ
東京工業大学・地球生命研究所(ELSI)特任助教。京都大学大学院農学研究科修了。フランスのパスツール研究所、ソルボンヌ・パリ第6大学にて博士号を取得

 

(週刊FLASH 2021年4月20日号)

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