■「力の時代」から「仲間の時代」
時代の変化について、漫画を例にいえば、『北斗の拳』から『ONE PIECE』の時代へと変わった、ということでしょう。
『北斗の拳』や『ドラゴンボール』の時代は、「強さ」に価値があった。強い者が最終的な勝者となり、弱い者を倒し、さらに自分自身も強くなりたいと努力し、切磋琢磨していく。そういう漫画に人気があったというのは、「強い者」への憧れ、リスペクトがあったからです。
しかし、今はそういうものはありません。ですから、「強さ」や「権力」を楯に、上から目線の発言をすると、強い反発を生むのは当然なのです。
『ONE PIECE』は「海賊王に俺はなる」というルフィのもと、個性的な仲間が集まった「麦わらの一味」。メンバーは、特技や特徴を持ってはいますが、「圧倒的に強い」ヒーロー的な存在はいません。リーダーのルフィも高圧的な物言いはしない。「仲間」という言葉が繰り返し登場するように、「ヨコ」の関係性でチームが結合しているのです。
日本映画史上最大のヒットとなった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。『鬼滅の刃』は『ONE PIECE』以上に「仲間の時代」を意識させる作品です。「弱さ」や「心の傷」を持った登場人物たち。剣士が、たった一人で強い鬼を倒すのはほぼ不可能。何人もの剣士が力を合わせ、ボロボロになりながらも戦い続ける姿に、観る人は共感しているのです。
『鬼滅の刃』を見れば、そこに「強さへの憧れ」というものが、微塵も存在しないことがよくわかります。
■「社長のいる場所」の変化
会社経営でいうと、ひと昔前までは、強烈な個性と圧倒的なリーダーシップを持った「カリスマ型リーダー」が求められていました。
しかし、今はむしろ波風を立てずに組織をまるく収める「調和型リーダー」が主流ではないでしょうか。
その変化は「社長のいる場所」にも表われています。かつての社長というと、広々として高価な調度品の置かれた個室にいるカリスマのイメージでしたが、今はだいぶ様相が変わってきているのを実感します。
私が以前、米国最大の靴の通販会社「ザッポス」(現在はアマゾンの傘下)を訪れたときのことです。創業者でCEOのトニー・シェイ氏の席は一般の社員たちと同じフロア、さらにデスクの大きさもほかの社員とまったく同じだったことに驚きました。実際そのデスクで仕事をしているのだそうです。
社員とすぐに意見が交換できるような距離が、経営のスピード感を生んでいるのでしょう。
■「北風」型から「太陽」型へ
ここまでの話を実社会、すなわち自分の会社でどう生かせばいいのでしょうか。
私はかつて患者さんに朝散歩をすすめるとき、「うつ病が改善するからすぐに始めてください」と、医師の立場からやや強権的な話し方をしていました。しかし、素直に聞き入れてくれた人は一人もいませんでした。
そこで試行錯誤し、「朝散歩をするとセロトニンが活性化しますよ」「朝散歩でよくなった患者さんがたくさんいます」というように、「客観的な情報」や「うまくいった事例」をさりげなく伝えるようにしました。すると、実践してくれる人がどんどん増えていったのです。
あなたと同じ目線で一緒に考えていますよという「ヨコから目線」。「上司」というよりも「仲間」としてアドバイスや助言をしていますよという姿勢。そして、「権威」ではなく「フレンドリーさ」を前面に出す。そうして「話しやすさ」「相談しやすさ」「親身さ」「敷居の低さ」を武器とすべきなのです。
そして、君臨して力で従わせる「北風」型のアプローチではなく、「一緒に頑張って〇〇を達成しよう」と目標に向かう部下に伴走する「太陽」型のアプローチに切り替える。これを意識してマネジメントをするだけで、部下の行動は大きく変わるはずです。
今回の話に関連した、「時代の変化」『ONE PIECE』『鬼滅の刃』の心理分析は、拙著『父滅の刃 消えた父親はどこへ アニメ・映画の心理分析』(みらいパブリッシング)で詳しく解説しています。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年9月7日号)