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都会に住みながら農業をやるには…体験農園・市民農園・援農ボランティアの違いは?
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.28 11:00 最終更新日:2021.09.28 11:00
都会に住みながら、農業に触れたいと思う人たちが増えています。家庭菜園やベランダ菜園などが身近な取り組みです。家庭菜園は、庭の一部を耕します。庭がない場合は、玄関や屋上にプランターをいくつも並べて栽培する人もいます。
ホームセンターや農産物直売所では、苗や種、資材を購入する人たちで溢れる光景も日常となりました。
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ほかに思いつくのは、「農業体験農園」「市民農園」「援農ボランティア」などでしょう。「農業体験農園」「市民農園」は自ら耕す圃場があり、「援農ボランティア」は農家と一緒に作業を行うのが基本です。
■農業体験農園と市民農園
農業体験農園は、東京都を中心に広がりを見せています。このモデルは、神奈川県横浜市が1993年に開始した「栽培収穫体験ファーム制度」です。
その後、練馬区が整備費や管理運営費の一部を補助する形で、1996年から毎年1農園ずつ設置し、先駆的な動きをつくってきました。農業体験農園の仕組みは、「練馬方式」とも呼ばれています。
農業体験農園は、農家が農業経営の一環として開設し、農業体験の場を提供します。作目は野菜で、農家が栽培方法や作付、スケジュールを決め、種苗や資材、道具を準備し、指導する点が特徴です。
利用料金は、年間3万5000~4万円が一般的で、利用者は体験料と収穫物の購入代金として支払います。区画の広さは1区画15~30平方メートル前後です。
スケジュールを見ると、1~2月に入園の申し込み、3月から作業が始まります。翌年1月末までに収穫を終え、2月に堆肥などを散布して次年度の畑を準備するというサイクルです。
講習会の頻度は、1~2週間に1回、土日のいずれかです。農家から栽培や管理、収穫、施肥の方法、道具の使い方などの指導を受け、その後自分の区画で作業を行います。日中の出入りは自由で、草取りや水やりといった管理作業は必須です。
個人区画だけではなく、共同区画が準備されている農園もあります。サツマイモやトウモロコシ、玉ネギ、ネギなど長期間畑で管理する野菜はみんなで栽培します。サツマイモやトウモロコシは子どもに人気です。
利用者は、講習会や共同作業などを通じて定期的に顔を合わせ、収穫祭やイベントで交流する機会も充実しています。
都内で農業体験農園を設置している区市町村は、2018年3月末時点で区部6区、多摩地区23市の合計29区市、農園数111、区画数6247と毎年増加しています(東京都農業振興事務所「平成29年度市民農園等調査結果」)。
「NPO法人全国農業体験農園協会」に所属する農園は、千葉県、埼玉県、茨城県、静岡県、三重県、京都府、和歌山県、香川県、福岡県まで広がります。横浜市の栽培収穫体験ファームは、2020年3月末で55農園です(神奈川県横浜市ホームページ「市民農園」)。
農業体験農園と混同されやすい市民農園は、主に地方自治体や農協、農家、企業、NPOなどが開設しています。農業体験農園とは小区画の貸付け、自由に栽培できる、区画が10~15平方メートル前後と小さい、料金が安いという点で異なります。市民農園のほうが時間に囚われず、気軽に利用できるでしょう。
市民農園の数は、1992年度の691から2015年度の4223へと毎年増加し、ここ数年は増減を繰り返し、2019年度時点で4169です(農林水産省ホームページ「市民農園の状況」)。
農業体験農園、市民農園ともに申し込み者だけではなく、その家族も利用できます。夫婦、親子、祖父母と孫など利用者の姿は多様です。いずれも開設数が増加し、キャンセル待ちも多いことから、都市生活者に支持され、高まる農への関心とニーズの受け皿となっていることがわかります。
■都市農業の発展を担う「援農ボランティア」
援農ボランティアとは、都市生活者が農家を訪ね、農作業を手伝う取り組みです。市民参加による都市農業の代表的な活動で、基本は「無償」です。
例えば、東京都国分寺市では「都市農業の良き理解者」を育てることを目的に、1992年から「市民農業大学」を開校し、専用の圃場で実習と座学を実施しています。その後、東京都の要請を受け、1996年度から「援農ボランティア・モデル事業」、1998年度からは市独自で「援農ボランティア推進事業」を開始しました。
援農ボランティアは、都市生活者の農作業への参加意欲を都市農業の維持・発展につなげると同時に、相互にコミュニケーションを取りながら都市農業への理解を深め、都市農地を守っていく活動といえます。
東京都、神奈川県、千葉県などを見ると、その多くが行政主導で農協と連携しながら活動を広げています。東京都では、公益財団法人東京都農林水産振興財団が2001年から地域援農ボランティアの養成事業として「東京の青空塾」、2013年から区市町村を超えた「広域援農ボランティア」に取り組んでいます。
一方で、こうした制度は利用せず、独自で援農ボランティアを受け入れている農家、大学の農業系学生サークルやNPOによる活動もあります。
一般的に、ボランティア希望者は援農に必要な講習を受けます。講習を修了すると、ボランティアとして登録、その後、農家とマッチングを行い、活動を開始します。
活動頻度は週1回が多く、週3~4回足繁く通うボランティアもいます。時間は1回につき平均2~3時間で、野菜の多品目栽培の場合、「除草」「種まき」「収穫」が代表的な作業です。
その他にも、「定植」「管理作業」「出荷作業」「販売の手伝い」など、ある程度の経験を積まないと任せることができない作業もあります。作業後には、商品にならなかった野菜をお土産として持ち帰ることができるのもひとつの楽しみです。
農業体験農園で利用者と話すと、「農業を仕事として行うのは、本当にすごいこと」「農家に感謝しなければいけない」「野菜が成長している姿が嬉しい」「天気が気になるようになった」という声がよく聞かれます。
こうした「いつでも」「気軽に」農業を体験し、農と触れ合える場の充実がこれからの都市農業には期待されています。
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以上、小口広太氏の新刊『日本の食と農の未来~「持続可能な食卓」を考える~』(光文社新書)をもとに再構成しました。私たちはいま、食と農についてどう考え、どう行動すべきなのか。
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