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脳をハイパフォーマンスに保つには…ブドウ糖とケトン体のハイブリッドを目指せ!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.03 11:00 最終更新日:2021.10.03 11:00
ハイパフォーマンスな脳の状態を維持するにはどうしたらいいのでしょうか。必要なのは「脳のエネルギーシステムを理解する」ことです。
ヒトは、他の生物と比較して、圧倒的に巨大な脳(1500g/体重70kg)を持ちます。体重比で約2%強です。ちなみに、高い知能を持つといわれるチンパンジーの脳は、体重比約0.9%(400g/体重45kg)ですので、ヒトの脳が他の動物からとびぬけて巨大であることがわかります。
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重量比ではあまりイメージが湧かないかもしれませんが、エネルギー比(どれだけのエネルギーを使うか)で見ると、その圧倒的な量に驚きます。
なんと脳は、ヒトが消費するエネルギーの約23%を消費しているのです。すなわち、重量では50分の1しかないのに、エネルギーは約4分の1を消費しています。
しかも、体の最も高いところにあり、常にこれを持ち上げて生活していながら、血液循環でエネルギーや酸素供給を受け続けているのです(東京タワーのてっぺんに何千人もの人々が働くオフィスがあるのを想像できるでしょうか?)。
胎児以外のヒトは、通常、脳への主なエネルギー基質としてブドウ糖を使用しています。たしかにブドウ糖が使い勝手のいいエネルギー基質であることに間違いはないです。
ただここで重大な問題点があります。それは半日分しかブドウ糖の備蓄がないことです。これは1日に必要なエネルギー量にはるかにおよびません。
だから、朝と昼の食事を抜いただけで、夕方に大変な空腹感に襲われます。たった半日だけ食事を抜いただけで、ブドウ糖の蓄積物であるグリコーゲンが大きく減少し始めます。
具体的な数字をいえば、グリコーゲン(1g当たり4kcal)は肝臓や骨格筋に400g程度保存されていて、これは約1600kcalであり、1日に必要なエネルギー量(成人男子で2500kcal)の64%を満たすにすぎません。
たとえば、食料の極端な不足に襲われた時、真っ先に脳の機能が障害される(ひどい時には深い昏睡に陥る)可能性のあることは容易に予想できます。
しかし、実際にはヒトは最低1カ月はなんとか絶食できますし、断食をしたことのある人は理解できますが、絶食すると脳の機能が低下するどころか、かえって増強される(頭が冴える)のです。いったいなぜ、このようなことが起こるのでしょう。
じつはこれこそが、「ケトン体」のパワーなのです。
ヒトは、基本的に2セットのエネルギー基質を持っているといわれます。ブドウ糖は炭水化物由来の基質であり、ケトン体は脂肪由来の基質です。この2つのシステムは相反するものではなく、一方が一方を補完する役割を持っています。細かくいえば、ブドウ糖をケトン体が補完しているといえるでしょうか。
脂肪は皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積され、多くの人は常に20kg程度を蓄積しています。これは成人男子で必要なエネルギーを2500kcalとすると、72日分です。
もしケトン体を合成できないとすれば、いったいどのようなことが起こるのでしょうか。
世界中で8例しかありませんが、ケトン体を合成するのに必要な酵素(HMGCS2)を欠損している遺伝病が報告されています。この方々は、気の毒にもケトン体をほとんど合成できません。半日も絶食すれば、昏睡に陥る危険があることがわかっていますので、大変な苦労があることでしょう。毎日食べることに追われてしまいます。
また、動物の例ですが、ある種のコウモリは生まれつき、このHMGCS2の遺伝子を欠損していますが、24時間程度絶食しただけで絶命することがわかっています。
これらは、ブドウ糖からケトン体へとエネルギー基質の転換をスムーズにおこなうことが、日常生活の維持にいかに重要かを示す事例です。
車のハイブリッドエンジンの開発で最も困難だったのは、ガソリンエンジンからバッテリーエンジンへの転換をいかにスムーズにおこなうかだったのと同じなのです。これはトヨタのハイブリッドエンジンの開発者が述べていたことです。
トヨタがこの開発を世界に先駆けておこなったために現在の地位があるのと同じように、ヒトの脳がブドウ糖からケトン体へのエネルギーの転換をスムーズにおこなえるようになったことで、ヒトは今の生態学的な地位を築いたといえるのです。
2セットのエネルギー基質をハイブリッドで働かせるのは、いたって簡単です。糖質過剰な食生活を是正するだけでいいのです。糖質を減らした食事を心がけていれば、黙っていても肝臓がせっせとケトン体を合成してくれます。
白米が美味しいからと2杯も3杯も食べていたのを1杯にして、その分おかずを増やしてみてください。それだけでも十分良いのです。欲をいえば、食事と食事の間隔を(無理のない範囲で)空け、日々の中に多少の空腹の時間を作るべきです。
「ケトン体がブドウ糖とともにハイブリッドを形成している」ことで、ハイパフォーマンスな脳の状態を簡単に維持できるのです。
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以上、佐藤拓己氏の新刊『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命 ブドウ糖神話の崩壊とケトン体の奇跡』(光文社新書)をもとに再構成しました。エネルギー基質であるケトン体の上手な使い方を指南します。
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