[2]ヘタな説明
ちょっと矛盾した話になりますが、ビジネスの現場では1週間前とは状況が一変し、「方針」「決断」「決定」を変更しなければいけない場面も出てきます。
その場合は、部下がきちんと「納得」できるように、合理的な理由を説明することが重要です。会社の方針、自分の方針は一貫しているけれども、「状況が変化」したので、臨機応変に対応している、と示す必要があるのです。
「進むべき方向性は一貫している。それを貫くための方向修正である」。そのことを部下の腑に落ちるように説明できるなら、「リーダーは方向性を示してくれている!」と、むしろ信頼が高まるでしょう。
国会中継で、「説明責任を果たしていません」などと、野党議員が大臣や首相に詰め寄る場面をよく見ます。説明責任を果たさない→首尾一貫していない→信頼できない……。この流れが生む不信感から、野党は攻撃するのです。
菅前首相の答弁を聞いていた人は、「上手に説明しないと信頼されない」ということがよく理解できたでしょう。能力が高く、社内で成果をあげていたとしても、きちんと説明しない、説明できないと、それだけで大きく損をしている可能性があるのです。
「言葉で明解に説明し、理性に訴えかける」のが父性。「(言葉で説明せずに)感情的に訴えかける」のが母性です。
日本は母性を尊ぶ傾向が強いせいか、政治の場でも「議論」で白黒をつけるよりも、感情的にグレーゾーンで収めることが多々あります。だからこそ、「言葉で説明する力」が大きな武器になるのです。
[3]言行不一致
主義主張、行動が一貫していることは、人の信頼を得るためには、とても重要です。つまり、主義主張は一貫していても、行動がそれと一致していないと、周囲の不信感は高まります。
たとえば、上司が朝礼で「有給休暇はできるだけ取るように」と言いながらも、実際に申請されると「今月は忙しいから」とはねつけるようでは、やはり信頼を裏切ります。部下は「言っていることと、やっていることが違うじゃないか!」と不信感を強めるばかりです。
こんなことがたびたび続くと、「上司の言葉、本当に信用していいの?」と疑心暗鬼になって、上司が指示を出しても、部下はそのとおりには動いてくれなくなるでしょう。
有言実行で約束を守るリーダーが信頼される。言われてみると当たり前のことですが、実際は口約束を簡単に反故にする上司は非常に多いのではないでしょうか?
また、「自分だけルールを適用しない」ことも不信感を強めます。先の有給休暇の話ですが、部下の申請には承認を渋るくせに、自分はバンバン休むような上司がいい例です。「自分は例外」というような態度では、誰もついてこないでしょう。
[4]いきすぎ・やりすぎ
父性も過剰になると、周囲に圧迫感を与えます。「いきすぎ」「やりすぎ」は嫌われるということです。
アニメにおける父性が強いキャラクターとしては、『新世紀エヴァンゲリオン』の司令官、碇ゲンドウが思い出されます。息子でありエヴァパイロットでもある碇シンジに対する、威圧的、高圧的な態度。もし、現代にこんな上司が本当にいたとしたら、パワハラ、モラハラですぐに訴えられるでしょう(子供なので心理的虐待もあてはまります)。
思っていることをズバズバ口にしすぎる上司は、令和時代においては疎んじられます。自分の主義主張、考え方、理念、ビジョンを部下に伝えるのはとても重要なことです。しかし、それは、自分の考えを「強制する」「押しつける」「無理強いする」のとは別の話。
部下に納得してもらい、共感してもらえるように、「やわらかく」「わかりやすく」伝えていくことが、今のリーダーに求められているのです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年10月19日号)