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生命を誕生させ進化させてきた「細胞の毛」知られざる神秘の力

ライフ・マネー 投稿日:2021.11.24 11:00FLASH編集部

生命を誕生させ進化させてきた「細胞の毛」知られざる神秘の力

 

 私たちには髪の毛、胸毛、すね毛、鼻毛、耳毛など、体にいろいろな毛が生えています。目に見えて目立つので、私たちは何かと気にしてしまいます。しかし、目に見えないために、普段目立たず気にもされない毛があります。それが「細胞の毛」です。

 

「細胞の毛」とは「鞭毛(べんもう)」とか「繊毛(せんもう)」と呼ばれる、細胞から生えている小さな毛状の構造です。精子やゾウリムシが活発に動き回るのに必要なのが細胞の毛です。単調に動いているだけでなく、止まったり、活発になったり、方向を変えることもできます。

 

 

 私は、小さな毛が高速で波打って動く様子を見ると、生命のエネルギーを感じないではいられません。

 

 この体内の細胞の毛の中で、わりと知られているのは、気管にある細胞の毛でしょう。空気中の細菌やウイルスが体に入ってきたときに、それらを追い出そうと、気管でさかんに動いている繊毛の映像をテレビのコマーシャルなどで見たことはないでしょうか。

 

 この細胞の毛を動かすには、水分が必要です。細胞の毛は水の中にいるときこそ、動くことができます。だから、乾燥する時期は、部屋の湿度などを上げたりマスクなどをして気管を潤しておくことが重要になります。

 

 十分な水分があってこそ、繊毛は最大限に力を発揮することができ、空気中から入ってきた細菌やウイルスを追い出してくれるからです。また、うがいが推奨されるのも、口内や喉を洗い流してきれいに保つ以外に、喉を潤して気管の繊毛のまわりの水分を保つ意味があります。

 

 この毛の研究が進んでくると、細胞の毛が私たちの体のあらゆる臓器に存在し、病気にも深く関わっていることがわかってきました。運動する能力を捨てて、周りの環境を受け取るセンサーとして働く繊毛もあります。もちろん、海や川など、水の中で暮らすほとんどの生き物の営みに大切な存在です。

 

 そもそも、細胞の毛がなかったら、生き物の多くは存在していないでしょう。ヒトもそうです。なぜなら、もともとは、生殖を含め、細胞の活動のほとんどが細胞の毛に依存していたからです。

 

 ここで、精子の話をしたいと思います。細胞の毛を研究してきた私から見ると、精子はまるで細胞の毛を持った「孤独な戦士」のように見えるのです。精子は、生殖に必要なオスの生殖細胞です。オスの遺伝情報をメスの卵細胞に届けるのが精子の最大かつ唯一の使命です。

 

 数ある細胞の中で、体から離れて働くことを運命づけられた細胞は、我々ヒトなどの哺乳類では、精子だけです。細胞にとって、体内は心地のよい環境で、それぞれの細胞はそこで必要な水分や物質を安定的にやり取りしながら、それぞれが担っている役割を果たしていきます。

 

 しかし、精子は体の外に出て、体内とはまったく異なる環境に入っていくのです。細胞から見れば、そこは危険に満ちた戦場のような場所と言ってもいいでしょう。そんな場所に放り出されて、メスの卵細胞を目指して命がけで駆け抜けようとするのが精子であり、まさに孤独な戦士です。

 

 この戦士が持つ唯一の武器こそ、細胞の毛である「鞭毛」です。これは細胞膜が変形したもので、精子はこの細胞の毛だけを頼りに、危険に満ちた環境に飛び込み泳いでいきます。

 

 もし、あなたが精子のパイロットだったら、この細胞の毛に感謝しないではいられないでしょう。エンジンであり舵(かじ)でもある細胞の毛が動くことで目的地を目指すことができるからです。

 

 さらに、もしあなたがこの精子のエンジンと舵を点検できるメカニックだったら、そのメカニズムを見る度に感動しないではいられないでしょう。1マイクロメートルよりも小さいナノスケールの世界に、どうしてこんな精巧な仕組みが存在し得るのかと、思わず息をのむに違いないと思います。

 

 そのような超微細で高性能なエンジンを載せた精子の中で、過酷な戦場を生き抜き、最初に目的地にたどり着いた精子だけが卵細胞の中に入ることができて、次の命に自分の遺伝子情報を伝えることができます。

 

 有性生殖は、見かけ上区別のつかない2種の細胞が接合する場合(同形配偶子接合)と、大きさや形が違う2種の細胞が接合する場合(異形配偶子接合)があります。

 

 形や運動性が極端に異なる場合が、精子と卵です。この2つの結合は受精と呼び、生殖様式を卵生殖といいます。少しあらっぽい見積もりですが、ヒトでは女性が一生のうちに作る卵は500個になります。それに対して、男性では20兆個となり、圧倒的な数です。

 

 精子や卵は減数分裂によって形成されます。このとき、部分的に遺伝子の組み換えが起こることがあります。つまり、同じタイミングで放出された数多くの精子は、どれもまったく同じ遺伝子のセットを持っているわけではないのです。

 

 できる数が圧倒的に多い精子では、それだけ新しい遺伝子の組み合わせを持つことになり、さまざまな環境にも適応できる可能性が生まれます。

 

 ということは、精子が進化の鍵を握っているのかもしれません。精子の運動が重要であれば、それに関係する遺伝子を持った精子が受精することになり、次の代に引き継がれます。

 

 もし、環境が変わって多くの精子がうまく運動できない状況が生じた場合、遺伝子が変化して、早く泳いでいく精子が現れたとしたらどうでしょうか。

 

 おそらくその精子は、いち早く卵に到達し、受精するでしょう。その遺伝子の変化は次世代に伝わります。つまり、「細胞の毛」は生物が新たな環境に適応するために大いに関係する重要なものなのです。

 

 

 以上、稲葉一男氏の新刊『毛〜生命と進化の立役者』(光文社新書)をもとに再構成しました。「細胞の毛」研究30年のスペシャリストが綴る、驚異のミクロの世界。

 

●『毛』詳細はこちら

 

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