2000年代以降の韓国ドラマ史上、最大の変化は、何といっても2006年からのケーブル放送局「tvN」の開局、2011年からのCJENM経営による有料ケーブル局「OCN」のテレビドラマ製作開始、同年の韓国の新聞社4社(中央日報、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済新聞)による総合編成チャンネル(同順に、JTBC、TV朝鮮、チャンネルA、MBN)の開局である。
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これによって、今まで地上波独占だったKBS、SBS、MBC以外の局からのドラマ製作が可能になった。
2010年代の話題番組は、ほとんど地上波以外のケーブル局によるもので、特に、総合編成チャンネルのJTBC、専門ケーブル局のtvN、OCNの3局が間違いなく台風の目である。同時期の地上波ドラマは明らかに後手に回ってしまい、意欲的な番組はすべてこの3局から発生したといっていい。
日本における韓国ドラマブームは、俳優が話題の中心となった「冬のソナタ」出現の2003〜2010年を第1次とすると、2011〜2015
年の第2次はシナリオ・発想・シノプシス・プロットの充実期であり、2016年から始まった第3次ブームは、K‐POP人気に加えて、前出のケーブル3局の躍進が加わり、これによって「韓国ドラマ」のクオリティはアメリカ・ドラマに匹敵するほどの水準にまで引き上げられた。
そして、2019〜2021年の第4次ともいえるブームは、まさに第3次以降の成熟による一大ルネッサンス期(黄金期)であり、「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」といった秀作を続々と生み出した。
現在、世界の映像ソフトの中で、テレビドラマ(ネット動画配信全盛の今、実はこの定義さえ怪しくなっているのだが、とりあえずテレビによる放送、及びモニターで視聴するために製作された映像の総意)に限っていうならば、最高峰は、アメリカ・ドラマと韓国ドラマといって差し支えない。
この点だけでも、広義の映像(テレビドラマ・映画)のジャンルにおいて(日本最強の映像ソフトである「アニメ」を唯一の例外として)、21世紀中に、日本が韓国に追い付くことは、もはや不可能といっていい。
■ネット配信による全世界同時配信視聴の時代
第4次ブーム到来の理由として、次の2点が挙げられる。
1つ目は先述したケーブル局と映像配信による、視聴環境の大幅な転換である。特に、tvN、JTBC、OCN等を始めとするケーブル放送局製作ドラマの一部をネット動画配信の最大手Netflixに配信委託したことにより、韓国ドラマの特異性を否応なく、日本も含めて、全世界の国、地域に強烈にアピールすることとなった。
Netflixは2020年に全世界の契約者数が2億人を突破した。配信アイテムの1つとなった韓国ドラマは「愛の不時着」を筆頭に、190カ国で視聴可能な最強の映像ソフトの地位を手に入れたわけで、ネット配信の効用と意義は大いにあったことになる。
特に、「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」は未だにNetflix独占配信となっていることもあり、独占配信契約が順次自動更新されていくのであれば、日本はもちろん、世界でも、テレビ放送・DVDのいずれでも永遠に見ることができないソフトとなる(配信契約に配信期間内のソフト化を禁止する条項があると思われるが、そもそもソフト化という概念自体が最初からないのかもしれない)。
2つ目は、韓国ドラマにおける基本的なテーマの変容である。当の韓国でも地上波放送を見ているのは相も変わらず旧世代が多く、ケーブル放送ドラマは若い世代専門の作品だけではないにしても、特定の世代で共感を得た意欲的な作品(例えば「応答せよ」シリーズ)が多いことは誰の眼にも明らかだ。
特に、WEBマンガを原作とした刺激的なドラマ製作は地上波では到底考えられないためか、ケーブル局の特性の1つとさえなっている。2020年に限っていうならば、先述の3作品を見た後で、地上波の家族ドラマを見ると、あまりにも古色蒼然なのに唖然とする。
毎日の日日ドラマ(NHK同様、毎日放送される連続ドラマのことで、現在はいずれも地上波だけで、朝の時間帯7〜9時にSBSとMBC、夜の時間帯19〜21時にKBS‐1、2の放送枠がある)に特に顕著なのだが、古い時代の家族ドラマを未だに見ているようなもので、時代遅れの感は否めない。
韓国ドラマでさえそうなのだから、そうした眼で見ると、日本のシニア視聴者にとって、我が日本のドラマはほとんど論外の産物である。
俳優側の事情もある。2000年代初頭に出演していた主役・脇役がそのまま年齢を重ね、相も変わらず同じような役柄を何度も演じている限り、地上波ドラマでは物足りない視聴者層が出現するのは当然である。
地上波が従来のままのセオリーとパターンで同じ俳優をもとに企画を考えているのに対し、ケーブル局はまず企画ありきで、俳優のネームバリューに頼らず、企画に合わせて俳優をキャスティングするのが基本である。意欲的な作品を生む土壌は何年も前から整備されていたといえるだろう。
そういった視聴環境の変化に同調し、新たな視点で製作されたケーブル局から前述の傑作群が量産されていくのであれば、韓国・日本はもちろん、どこの国の視聴者も、従来視聴してきた「地上波の韓国ドラマ」だけでは満足できなくなる。
韓国ドラマのすべてが傑作というわけではないが、その打率は、筆者の見解では6割強にまで達していて、これはある一国が製作するドラマとしては驚異的なクオリティの高さである。
韓国ドラマが日本のドラマよりずいぶん先を歩いていることは誰の眼にも明らかな事実であり、繰り返すが、この距離感を埋めることは、これから先もおそらく無理だと思われる。
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以上、藤脇邦夫氏の新刊『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)をもとに再構成しました。第4次韓国ドラマブームはどう生まれたのか、Kコンテンツはなぜ世界を夢中にさせるのか、徹底解説します!
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