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「自分の中にテーマを」印象に残った先輩空間演出家の言葉ライフ・マネー 2017.03.08

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(写真:AFLO)

 

 御厨浩一郎さん(52)の名刺は2種類ある。1枚は会社のもので「空間演出」とあり、他方には「渋谷のんべい横丁 渉外・広報担当」とある。「空間演出」と「のんべい横丁」。妙な組み合わせだが、ここにこそ御厨さんの人生を紐解く鍵があるようだ。

 

「空間演出は15年ほど前からやっていますが、屋内外の空間に照明や映像、音響などあらゆるアナログとデジタルを仕込んで、なにかしらのものを創り上げる。照明だけでも特殊な空間を創れるし、今流行りのプロジェクションマッピングなどもそう。ただ、僕はアナログを併用することで最新技術の凄さを隠して、見る人が「あれっ!?」というところを必ず入れるようにしている」

 

 2015年に京都国立博物館で開かれた「琳派誕生400年記念」では、プロジェクションマッピングの演出をおこなった。ただ映像を建物に投影するのではなく、ミュージシャンの岡野弘幹さんと組んで生の音と照明や特殊音響を使い、幻想的で雅な世界を創り上げた。

 

 昨年は幕張でシルク・ドゥ・ソレイユの登録メンバー15人を含む計33人を使った動きのあるショーの総合演出を手がけた。

 

 御厨さんにとっての転機は、フランスの高名な空間演出家、イヴ・ペパンと出会ったことだ。ペパンは1998年のFIFAワールドカップ・フランス大会の開閉会式の演出、2001年の山口きらら博や2005年の愛知万博トヨタ館のショーの演出などをおこなった。壮大な空間を創るのが特徴だ。ペパンとのつき合いは19年に及ぶ。制作会社のディレクターとして仕事を依頼したのがきっかけだ。

 

「誰にも教わったことがなく自己流で積み重ねてきた。師匠と呼べる人はいないし、尊敬している人もいない。でも、ペパンは別。今でもブレないでやろうと思えるのは、彼のおかげです」

 

 ペパンが山口きらら博の演出をしたとき、御厨さんは会社を2週間休んで彼のもとへ行った。ペパンは、本来なら見せない装置の裏側にまで案内してくれた。どのように動いているか、スタッフは何人ぐらい必要なのか、そして制作予算は全体でどのくらいなのかなどを教えてくれた。それだけでなく、のんべい横丁の居酒屋では、もの創りの心構えをさりげなく話してくれた。

 

「『コーイチ、テーマがなかったら仕事は始まらないよ。日本人は結果をこういうふうにしたいということばかり言う。ものを創るときは相手が何と言おうと、自分の中にテーマとストーリーがなければダメだよ』。演出に何が大切なのか、心に刻んだ瞬間でしたね」

 

 のんべい横丁は、昭和25年に渋谷駅から歩いて1分ほどの一角に造られた。現在は40軒弱の居酒屋が戦後の面影を残す横丁に並ぶ。御厨さんがのんべい横丁に足を踏み入れたのは20年近く前だ。

 

 当時常連となった店のおばちゃんはすでに70代の後半だったが、家族のような仲になった。そのおばちゃんが8年前に肺炎で倒れた。弱気になって店を閉めると言い出したので、励まそうと、知り合いの女性と2人で週に3日ずつ交代で店を開けた。

 

 店の売りである会津の田舎料理を作り、客をもてなす。リーマン・ショック後で本業は暇だったが、44歳の初体験ずくめの人生の始まりである。

 

「他人には転機と見えたかもしれないが、僕はそのときが来たなという感じで、ごく普通だった」

 

 やがておばちゃんは復帰したが、今度は交通事故に遭い、店は御厨さんに託された。現在、店は毎日営業しているが、御厨さんがカウンターの中に入るのは週に1日となった。

 

「おばちゃんの面倒をなんで見るのかとよく聞かれるが、おばちゃんといることで得るものがじつに多い。96歳になった今でも生き生きとしていて、接点を持つたびに感じいるものがある。

 

 のんべい横丁の、おばちゃんがいた8人でいっぱいの狭い店は、客とおばちゃんの生きざまが交差するなんともいえないおもしろい世界で、あれこそ空間演出そのものだったと思っている」

 

 おばちゃんは車椅子の生活で、仕事は無理だが健在だ。店があることはおばちゃんにとっても嬉しいこと。やめずにどこまでいけるか……。

 

 その一方で、御厨さんは横丁に残った、現在閉まっている店を開けたいと考えている。

 

「やることは空間演出と同じ。横丁の灯を消さないためにもやりたい」

 

 横丁の渉外・広報担当らしくそう付け加えたが、アナログに対する御厨さんの思い入れもある。きっとまた転機を転機とも思わず、日常生活の延長として進めていくのだろう。


(週刊FLASH2017年3月21日号)

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