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サッカークラブで稼ぐには…藤枝MYFCで成功した「キャンディ」プロジェクト
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.03.28 16:00 最終更新日:2022.03.28 16:00
私は2002年、25歳の時、インターネット関連企業を起ち上げ、2009年にサッカークラブ「株式会社藤枝MYFC(以下藤枝)」を創業しました。
その後、準備期間も含めると約10年間にわたってプロサッカークラブを運営し、地域密着型サッカークラブの運営ノウハウや、その存在意義に関して自分なりの確証めいた手応えを感じていました。
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その結果、現在、経営しているスポーツXという会社を、その確証を実証する場として起ち上げました。ではどのような確証を得て、何を実証しているのか、サッカークラブで稼ぐとはどういうことか、藤枝時代の取り組みを紹介しましょう。
サッカークラブを「地域経済のハブ」として育てていく取り組みは、生協の仕組みと少し似ています。藤枝は株式会社として運営されていたクラブですが、その株主&パートナー企業は地域企業や経営者の方々を中心に500以上にも及んでいました。
株主の方々はもちろん文字通り出資者ですし、ステークホルダーです。そして、その多くは地域住民でもあります。
藤枝にも当然スポンサーをしてくださる企業もありましたが、その多くは株主も兼ねており、従業員や経営者の方は地域住民でもありました。
つまり藤枝のとっていた地域住民主体型の資本戦略は、構造として少し生協に似た形態だったのです。
スポンサーといっても、実際問題J3クラブであった藤枝のユニフォームへの広告掲示で生まれる露出効果はさして多くありません。そこで、少しでもスポンサーメリットを生むために私たちがとった戦略が「スポンサーシップからパートナーシップへ」というものでした。
具体的には企業の課題解決につながるマッチング機会をクラブが中心となって図り、そこで経済効果を生もうというものです。
私がいた頃のIT業界の歴史はマッチングの歴史と言っても過言ではなく、社会問題に至ってしまった「出会い系サイト」のようなものからYahoo!やGoogleといった「検索サイト」まで、人と人、人と情報をマッチングするサービスが爆発的に社会に普及していった時代でした。
したがって地域の企業数百社がクラブを支援してくださるに至った際、この数百社に及ぶ企業間のニーズをマッチングするアイデアが必然的に湧いてきました。
数百社もの企業が名を連ねていると、およそあらゆる業種がそこには含まれています。であるならば、クラブに関わっている企業間だけでほとんどのニーズや問題を解決可能なのではないか。そう考えたのです。
実際、その発想は正しかったようで、思った以上の成果を藤枝は挙げることになります。一例をご紹介しましょう。
藤枝ではクラブオリジナルの公式キャンディを作ったことがあります。こう聞くと、プロスポーツチームによくあるオリジナル商品の類いだと思われるはずです。確かにその側面は否定できませんが、その一方でこのキャンディ、いくつかの成功物語を生み出してもくれたのです。
このクラブ公式キャンディは地産地消商品として開発されました。藤枝市のブルーベリー農家から仕入れたブルーベリーを使用し、藤枝市内の製菓メーカーがブルーベリーキャンディとして製造します。6次産業化の促進を図りたい藤枝市はメーカーに補助金を交付し、開発を後押ししてくれました。
そしてキャンディが開発されると地元マスコミも大きく報道してくれました。地元企業と地元クラブのコラボは、地元メディアに関心を持っていただきやすいのです。
それだけでも大成功でしたが、このキャンディはさらに大きな成功体験をクラブにもたらしてくれました。
一般的にこういったマイナーなお菓子は、大手スーパーや大手薬局の陳列スペース確保に苦戦します。陳列棚獲得の競争は苛烈を極めています。シャンプーや歯磨き、製菓などのメーカーは日々そのジャンルの棚の獲得を目指してテレビCMを流し、マーケティング戦争に明け暮れているわけですから当然です。
ただ、藤枝の場合はチェーン展開している地元スーパーや薬局がスポンサーや株主としてすでに参画してくださっていました。そういったステークホルダーのみなさまが商品棚を快く空けてくれ、地域のスーパーや薬局で大々的に公式キャンディが並んだのです。
最初にいただいた補助金、次はクラブのステークホルダーのご協力、このような一連の好循環が発生したことで製菓メーカーはすぐに投資回収ができました。
この連鎖はさらに続きます。クラブオリジナルのキャンディを知った藤枝の株主企業に建材を取り扱う卸会社がありました。彼らは熱中症対策で常に塩飴を大量に仕入れていたのですが、このキャンディをきっかけに、開発してくださった製菓メーカーを知り、同じ地元のクラブを応援する企業同士ということで、その仕入先を一括で公式キャンディの製菓メーカーに変更したのです。
メーカーとしては大成功でしたし、地域の企業間をクラブがハブとなってつなぎ、新しい連帯を生み出すこととなりました。まさに一粒で二度三度美味しいキャンディとなったわけですが、私たちにとっても地域経済に貢献できた事例として印象深いものでした。
キャンディは、すぐにクラブの収入に結びつくものではありません。しかし、長い目で見れば、こういった活動こそが地元にサッカークラブが存在する価値に結びつくはずです。そして、それこそがクラブを持続可能にする強固な基盤になるのです。
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以上、『弱くても稼げます シン・サッカークラブ経営論』(光文社新書/小山淳・入山章栄・松田修一・阿久津聡著)をもとに再構成しました。はたして日本のサッカー界に新しい経営スタイルは根付くのか。現在のスポーツビジネスには何が足りないのかを考えます。
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