日本の道路交通法では、普通免許で求められている視力は、両眼で0.7以上であり、片目では0.3以上となっています。
もしも片方が見えないとか、片方が0.3未満の視力の場合には、両眼視で視力が0.7以上、見えるほうの目の視野(見える範囲)が、両眼視で150度以上が必要となっています。
ただし、このような視野検査は、通常は行われません。免許センターではそのような機械も技術もないからです。
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ちなみに片目での視野の正常範囲は、上方60度、下方75度、耳側100度、鼻側60度ほどです。両眼視では、正常で水平方向200度ですので、普通免許基準が150度以上とはけっこう厳しい値です。片目では、水平で150度以上は見えないのではないかとも思います。
このように、日本の法律上の視機能要件は厳しいということは、知っておいたほうがよいでしょう。交通裁判などでは、医療側に視機能について問い合わせがあることもあります。医療と行政では視力に関する考え方が違うので、最初にもっと厳密な検査をしてもらいたいところではあります。
視力が悪くて免許が取れないということで、困って診察に来る患者が多くいます。視力だけでなく視野も重要であるため、視野が狭くなった末期の緑内障患者に相談されることも多く、返答に困ります。医療者は警察ではないので、患者のために何とかしてあげたいのですが、法律上は日本の基準は国際基準よりかなり厳しいのです。
でも、現実社会での基準の適用は、かなりいい加減なことも事実です。このために、真実を知る僕らのような専門家は苦慮することになります。視野が狭い患者に対して、取り締まるわけではありませんが、「法律上では免許を更新できません」と答えるしかないのです。
中型や大型免許、二種免許ではもっと厳しくなります。
両眼では0.8以上、片目では0.5以上の視力が必要です。さらに、遠近感を測る三稈法(さんかんほう)という深視力検査を3回行って、3本の棒が合わさった時にボタンを押すのですが、この誤差の平均値が2センチ以内でなければなりません。
この日本の視機能基準は、国際的に見ても厳しいものです。ただ、実際には日本ではこれほど厳密な測定はしていないので、実際に運転はしていても、法律に定められた視機能でいえば運転してはいけない運転者が多いと推測されます。
これは、日本の高速道路では法定速度を守らない運転者がほとんどだというのに似ています。
日本の良くも悪くも古い文化、本音と建て前の文化がここに表れています。これならば、国際基準の運転免許者に必要とされる、もっとゆるい視機能に合わせておいて、もっと厳密な適用を考えても良いのではないかとも思います。
国際的な基準を見てみましょう。
多くの国が運転者に視力として求めているのが両眼視で0.5以上です。視野についてはかなりうるさく求めています。ヨーロッパでは、両眼視野は水平(左右)方向で120度以上が必要であり、それ以下では免許を失います。垂直方向では40度以上が必要です。アメリカでは水平視野は140度以上が必要です。
さらに、必要に応じて、コントラスト感度テストやグレアテスト(白内障によるぼやけの程度を測定するテスト)や夜間視力を調べられることもあります。
こうして見てくると、車の運転には視力とともに、視野が重要であることが分かります。通常の運転免許試験では、視力こそ係員が測っていますが、視野などは測りません。法律で決められているのに測らないのです。
つまり、視野が狭くなった緑内障の運転者は、知らないうちに法律違反者とされているかもしれないのです――。
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