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政治家の秘書から「葬式プランナー」になった男が語る人生の転機

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.07.12 20:00 最終更新日:2017.07.12 20:00

政治家の秘書から「葬式プランナー」になった男が語る人生の転機

写真:AFLO

 

 中年になって迎える転機には、転職や起業などを除けば、結婚や離婚、病気が多い。もうひとつ、忘れてはいけないのが親の死だ。人によっては人生が一変することもある。父親が30歳のときの子なら、平均して50歳前後で父の死を迎える。親の死など考えたくない。

 

 しかし、「その日は必ず来るから元気なうちに終末をどう迎えたいのか、どうしてほしいのか、親としっかり話し合っておくべき」と語るのは、葬式プランナーで終活カウンセラーの中村雄一郎さん(37)だ。

 

 中村さん自身は今年37歳。中年の域に入ったばかりで、そのような状況が差し迫っているわけではない。しかし、地方で暮らす両親と、葬式や一人住まいになったときのことを話し合っている。自分自身についても葬式のプランを含め、思いついたことをエンディングノートに書き残している。何かあったときに周りが困らないようにとの思いからだ。

 

 中村さんが葬祭業界に入ったのは29歳のとき。それまでは政治家の秘書だった。学生時代にアルバイトで齊藤斗志二衆議院議員の事務所に入り、卒業後そのまま秘書になり、26歳で公設秘書(国家公務員特別職)となった。

 

「高校までラグビーをやっていて、先輩には服従し、精いっぱいやる精神で、書類を届けるのも常に議員会館内を走っていました。それが目立ったこともあり、ほかの事務所の先輩方からも食事に誘われるなど、かわいがっていただきました。

 

 齊藤先生は防衛庁長官などを務め、2009年に政界を引退され、それで次の仕事を考えました。秘書として葬式に出る機会が多かったのと、消費者庁からは葬祭トラブルがけっこうあると聞いていて、そのことが気になっていました。

 

 一方で高齢化社会を迎えることで将来性が見込めるということもあり、葬儀の世界に入りました。政治家秘書から葬儀屋さんになる人なんて、いませんよね」(中村さん)

 

 入社して8年めになるが、中村さんは葬式プランナーをまとめる部長職である。また、3年ほど前には終活カウンセラーの資格を取った。これがひとつの転機となり、中村さんの世界を広げた。

 

 終活とは人生の終わりをよいものにするための準備活動のことである。それまでは葬式費用の相談が多かったが、資格を取ってからは終活関連の相談が断然に多い。

 

 たとえば介護状態になったときのケアや、急に夫婦どちらかが亡くなってしまったときの葬式や墓、相続問題、さらには延命治療の判断などについてである。


「終活のなかでいちばん決断が難しいのは認知症が始まったときや、延命治療が必要になったときです。認知症はいつ始まるかわからない。発症すればケアをする側の精神的、肉体的、経済的な負担は大きく、それをどうするか、あらかじめ親子や夫婦間で話し合っておく必要があります。そのことが最後の決断の時に後押しをしてくれます」(同)

 

 認知症の患者数は増加の一途をたどっている。そのケアは必然的に中年世代がおこなうことになる。また、65歳未満の若年性認知症の発症年齢は平均51歳といわれる。つまり、中年世代は親のケアをすると同時に、自らがケアされる側にもなりうるのだ。

 

 ところで、終活の相談に来るほとんどの人が葬式の簡素化を望む。実際、都会では葬式をおこなわない直葬や、家族だけの家族葬が増えている。経済的な理由もあるが、葬式自体の形骸化、地域のつながりや、人と人との結びつきが希薄になったことの表われではないかと中村さんは感じている。


「葬式の本質は、故人と過ごした時間を思い出すことにあります。悲しいのはそれだけ故人との幸せな時間があったからで、それを思い出し感謝するもの。思い出が多ければそれだけ幸せを感じ、残された者の生きる力になります。本当は、故人に関わった多くの方々に送っていただくのがいいのですが……」

 

 現在東京では、亡くなる人が増えているにもかかわらず火葬場が足りず、葬式まで1週間以上待たされることもある。家族には辛い日々だ。

 

「行政に携わる仕事をしてきて、今は葬式という家族に寄り添う仕事をしている。この2つを融合させてできるのは何かと考えると、葬儀のインフラ整備かなと思う」

 

 しかし火葬場の建設は地域住民の反対が多く難しい。中村さんは地域の活性化を含め、葬儀のインフラ整備ができるようなビジネスか、その実現に政治家としての働きかけが必要なら、政治家を目指すことも考えている。

 

 政治家として活躍している先輩秘書も多く、口々に「いつ帰ってくるんだ?」と聞かれる。ビジネスであれ、政治であれ、中村さんにとってこれからの10年は、社会に貢献するための決断と実行の大切な準備期間になるはずだ。
(週刊FLASH 2017年7月18日号)

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