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「AI時代」を生き抜く知恵は「IAの時代」と認識すること
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.07.30 11:00 最終更新日:2023.07.30 11:00
二一世紀に入り、さらに加速度をつけて発展している科学技術。それを象徴する、三次元プリンター、ドローン、自動運転車、ロボティックス、人工知能などの新たな技術。
こうした最先端技術に支えられた機械文明は、これから人類に、何をもたらすのか。
そのことを考えるとき、古い世代には良く知られている二つの漫画を思い出す。
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一つは、手塚治虫の描いた『鉄腕アトム』。
一つは、石ノ森章太郎の描いた『サイボーグ009』。
どちらも、科学技術の発展と機械文明が生み出した二人のヒーローであるが、実は、この二人、本質的には、全く違ったヒーローである。
なぜなら、鉄腕アトムは、どれほど愛らしい性格を与えられていても、やはりロボットであり、その本質は「機械」である。
これに対し、009は、最先端の科学技術によって人間の肉体を改造し、機械の力によって腕力や走力、視力や聴力などを圧倒的に高めたサイボーグであるが、その本質は、どこまでも「人間」である。
この違いを、ロボティックスの分野では、「ロボット・パラダイム」と「サイボーグ・パラダイム」と呼び分けているが、ロボット・パラダイムとは、基本的に「機械に圧倒的な能力を発揮させる」という発想であるのに対し、サイボーグ・パラダイムとは、「人間の能力を、科学技術と機械を使って、どこまでも高めていく」という発想である。
そして、実は、この二つのパラダイムの違いは、これからの科学技術と人間の関係を考えるとき、極めて重要な視点になっていく。
なぜなら、この「ロボティックス技術」と同時に、いま、人間社会に広がっていこうとしているのが、「人工知能技術」だからである。
この人工知能は、すでに、チェス、将棋、囲碁において、世界チャンピオンや名人を打ち負かしていることに象徴されるように、いま、急速に、人間の能力を凌駕する発達を遂げている。
それは、ゲームの領域においてだけではない。ビジネスや学問研究の領域においても、これまで人間が担っていた仕事を代替するようになっている。
例えば、米国の金融業では、かつて六〇〇人いた株式トレーダーが、人工知能の導入によって二人になり、欧米の大手弁護士事務所では、契約書確認や法務調査などの仕事の多くが、人工知能によって代替されるようになったが、専門知識と論理思考で仕事をしている弁護士や会計士などの「士(サムライ)業」は、近い将来、半分が不要になると言われている。
さらには、「いま、どの道路を流すと客を拾えるか」「今夜は、どの地域で犯罪が起こりそうか」といったベテランのタクシー運転手や警察官の「勘」さえも、人工知能で代替されるようになっている。
このように、これからの時代、これまで人間が担ってきた仕事の多くが、人工知能によって置き換わっていくだろう。
それゆえ、こうした変化の中で、我々が、しばしば陥ってしまうのは、「人工知能にはかなわない」「人工知能に仕事を奪われてしまう」という強迫観念であり、人工知能を、人間に「対立する」ものとして捉える発想であろう。
しかし、こうした時代において、我々に真に問われているのは、実は、先ほど述べた「ロボット・パラダイム」と「サイボーグ・パラダイム」の、いずれに立脚して人工知能技術を見つめるかである。
言葉を換えれば、人工知能(Artificial Intelligence:AI)というものを、「圧倒的な知能を持つコンピュータ」として捉えるのか、「人間の知能を圧倒的に拡張する技術」、すなわち、「知能拡張技術」(Intelligence Amplifier:IA)として捉えるのか、それが問われているのである。
いま、「人工知能革命によって生き残れる人、生き残れない人」といった議論が世の中に溢れているが、その議論の前に我々が定めるべきは、
「人工知能技術」(AI)の本質は
「知能拡張技術」(IA)に他ならない
という認識であろう。
実際、AIは、ビジネスにおいては、極めて有能な秘書になり、学問研究においては、優秀な研究助手になり、知的創造に携わる人間にとっては、常に知的刺激を与えてくれる良きパートナーになっていくだろう。
されば、これからの人工知能革命の時代において、我々が定めるべきは、
「人間の能力は、最先端の科学技術をもってしても、測り尽くせぬほどの奥深さがある」
という、深遠な人間観に他ならない。
※
以上、田坂広志氏の新刊『教養を磨く 宇宙論、歴史観から、話術、人間力まで』(光文社新書)を一部転載しました。21世紀の「新たな教養」とは何か、を考えます。
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