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小型衛星で石油貯蔵量の推定も可能に…加速する「宇宙ビジネス」最前線

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.04.02 11:00 最終更新日:2023.04.02 11:00

小型衛星で石油貯蔵量の推定も可能に…加速する「宇宙ビジネス」最前線

 

 政府主導から民間宇宙ベンチャー主導へと移り変わりつつあるこの時代の潮流を「ニュー・スペース」と呼び、「ニュー・スペースの流れに乗って宇宙ベンチャーが台頭してきた」というような使われ方をします。

 

 また一方では、新たに台頭してきた宇宙ベンチャー企業そのものを指して、「スペースX社はニュー・スペースだ」などと使われることもあります。

 

 

 従来、人工衛星といえばバスくらいの大きさで、重さも数トンを超えるのが相場でした。例えばおなじみの気象衛星「ひまわり8号」の場合、全長は約8m、重さ3.5トン、製造コストは約200億円でした。

 

 これに対しニュー・スペースの世界では、重さ100kgから数10kgというような小型衛星が主流となってきています。大型衛星の製造コストは数百億円以上かかるのに対して、小型衛星の製造費は100分の1の数億円です。

 

 重さも数十分の一になりますので、打ち上げコストも格段に安くなります。小型だと、主衛星としてではなく相乗り衛星としてロケットに積み込むことができる場合も出てくるため、大型衛星の場合100億円かかっていた打ち上げコストが、数億円で済むこともありえます。

 

 小型衛星の商業利用では、多数の衛星を、同一または異質の軌道に投入し、互いに協調させながら、一定のミッション(任務)を遂行する「衛星コンステレーション」という運用形態を理解しておく必要があります。

 

 ニュー・スペースの潮流のなかでは、むしろ低軌道を飛ぶ小型衛星コンステレーションが主流となっていますが、低軌道衛星は、宿命として地表に対して速い速度で移動してしまいます。

 

 地上の一点を監視したり、常に頭上に待機していてくれたりすることができないデメリットを衛星の数で埋め合わそうと考えられたのが、「衛星コンステレーション」です。

 

 例えば30基の衛星を低軌道に投入すれば、個々の衛星は移動し続けていても、(軌道の選び方によっては)20分に1度くらいの頻度で、衛星のうち1基が日本の上空を通過する、という状況を作り出すことができます。

 

 投入する衛星の数が増えれば通過頻度は高くなりますので、高コストな静止衛星と同等の成果を低コストで得ることができます。この「衛星コンステレーション」を、今、宇宙ベンチャーが果敢に利用しています。

 

■衛星データ解析

 

 衛星データ解析に特化するベンチャー企業として、2013年に設立されたオービタル・インサイト社があります。画像情報を分析した結果を顧客に販売している企業です。

 

 同社は、世界中の2万以上の石油タンクを毎日モニタリングしています。石油タンクの蓋は、石油の液面に浮かべて封入していますので、蓋の高さは備蓄量に比例して上下に変わります。同社は、蓋の上にできるタンク壁の影の形から、石油貯蔵量を推定できるプログラムを開発しました。

 

 皆さんは、「商品先物市場」という金融マーケットをご存じでしょうか。大豆やトウモロコシ、原油など、実需を伴う商品の将来価格に投資するマーケットで、主に巨大ファンドなどのプロの投資家が、巨額のマネーを運用する金融市場です。

 

 ここでは、大豆やトウモロコシなどの生育状況や、石油の在庫量などの情報が、高額で取引されます。オービタル・インサイト社は、ここに目を付け、石油の貯蔵量等の解析結果を、投資家、エネルギー企業、政府等に販売しています。

 

■地上設備

 

 衛星コンステレーションは、毎日膨大なデータを生成しますが、低軌道を回るコンステレーション衛星は、秒速8kmもの猛スピードで地球を周回し、短時間で地上のアンテナ上空を通過してしまうので、データを全部地上に下ろすのは容易ではありません。データを下ろすことを「ダウンリンク」と呼びます。

 

 ダウンリンクの場合、通常は大規模なパラボラ・アンテナと地上基地局(以下、地上局)を整備するのがこれまでの定番でした。莫大な投資の要る設備産業です。ノルウェーのKSAT社、スウェーデンのSSC社などは、こうした大規模なパラボラ・アンテナと地上局を持っている大手企業です。

 

 一方、大掛かりな地上局を持つのではなく、既存の地上局をネットワーク化して、衛星ベンチャーが手軽に使えるビジネスを編み上げようとする試みが、日本の宇宙ベンチャーによって展開されています。

 

 インフォステラ社は、様々な企業や機関が分散して所有しているアンテナなどの地上設備をネットワーク化することにより、「アンテナ・シェアリング」という新たなビジネスを創始しています。

 

「ステラ・ステーション」と呼ばれるアンテナ・シェアリングのための共有プラットフォームを開発し、ここにつなげば、分散所有されるアンテナをあたかも同一組織に属するように運用できます。

 

 地上設備は96%がアイドリングタイムと言われますので、地上局業者にとっても設備稼働率と収入を同時にアップできます。衛星業者にとっても、面倒な手続きを各国ごとに結んでアンテナを契約しなくても、「ステラ・ステーション」につなぐだけで簡便に世界中のアンテナを使用できます。インフォステラ社も、売上を伸ばすことができ、まさに三方一両得です。

 

■スペースポート(宇宙港)

 

「スペースポート」とは、宇宙機の離発着を可能にする空港のことです。我が国でも、スペースポートの計画が、次々と立ち上がっています。有名なところでは、北海道大樹町の「北海道スペースポート」、和歌山県串本町の「スペースポート紀伊」、大分空港、沖縄の下地島空港等があります。

 

 スペースポートは地域おこしにもつながるプロジェクトであるために、地方自治体も積極的に設立を検討する傾向にあり、今後も続々と新設案が挙がってきそうな情勢です。既に、大分空港に対して、ヴァージン・オービット社とシエラ・スペース社がそれぞれ就航を予定していると報道されています。

 

 ヴァージン・オービット社は、有人旅行のヴァージン・ギャラクティック社から分社独立したグループ会社です。空中発射方式のロケット「ローンチャー・ワン」で衛星を軌道に投入する貨物輸送会社です。

 

 シエラ・スペース社は、2021年にシエラ・ネバダ・コーポレーション社から分社した宇宙輸送会社です。同社の宇宙機「ドリーム・チェイサー」は、既にNASAと貨物輸送契約を結び、2023年にも貨物をISSに運ぶ予定です。

 

 スペースシャトルに似た有翼型ですが、ロケットの先端に据え付けて打ち上げられ、滑空して着陸します。2022年2月に大分空港と兼松コーポレーション社と共同で、同空港を着陸港として利用する基本合意書を締結しました。

 

 ドリーム・チェイサーは、当初は有人宇宙船として開発されていましたので、近い将来、大分空港を着陸港とした宇宙旅行が実現するかもしれません。

 

 

 以上、『宇宙ベンチャーの時代~経営の視点で読む宇宙開発』(光文社新書、小松伸多佳・後藤大亮著)をもとに再構成しました。ベンチャー・キャピタリストとJAXAのエンジニアが「宇宙ビジネスの展望」を語ります。

 

●『宇宙ベンチャーの時代』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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