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60歳からの年金繰り上げ受給は「ありだと思います」マネーの“プロ”2人が語る“第二の人生”シミュレーション

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記事投稿日:2025.02.22 06:00 最終更新日:2025.02.22 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年3月4日号
著者: 『FLASH』編集部
60歳からの年金繰り上げ受給は「ありだと思います」マネーの“プロ”2人が語る“第二の人生”シミュレーション

基礎年金の繰り上げ受給者は10.4%

 

「1月に、厚生労働省から2025年度の年金額が1.9%引き上げられることが発表されました。金額にすると6万9308円で、2024年度より1308円増加しています。一見すると、いいことのように思えますが、日本のインフレ率を考えると、実質の金額は目減りしています」

 

 こう解説するのは、iDeCoNISAを活用した「ほったらかし投資」で資産を2倍にした、ファイナンシャル・プランナーの横山光昭さんだ。

 

 この年金制度“改悪”の影響で、厚労省の発表後にネットを中心に話題となっているのが、年金を60歳から受け取る「繰り上げ受給」だ。

 

「自分が健康で動けるうちに、年金を60歳から受け取ろうという考えはありだと思います。年金制度は今後も改悪される可能性がありますから」(横山さん、以下同)

 

 だが、厚労省の年金概況のデータを見ると、老齢基礎年金の繰り上げ受給率は10.4%。対して繰り下げ受給率は2.2%、65歳での受給率が87.4%と、本来の受け取り方のほうが圧倒的に多い。これには理由があるという。

 

 

「年金額は繰り上げ、繰り下げによって減額、増額があることを知っておいてください。

 

 繰り上げ受給の減額率は月額0.4%で、60歳で受給した場合は24%の減額になります。逆に繰り下げ受給の増額率は月額0.7%、最大で84%の増額になります。

 

 また、一度、繰り上げ受給を決めてしまうと取り消しができません。生涯、同じ額を受け取ることになるというデメリットがあるんです」

 

 繰り上げた場合は、老齢厚生年金もセットで繰り上げとなり、受給開始後に病気や事故で障害を負ってしまっても障害基礎年金や障害厚生年金が受け取れない、寡婦年金が支給停止になるなど、社会保障制度で不利になることが多い。

 

 また、60歳以降も働き続ける場合は、在職老齢年金の対象となり、支給停止額(2024年は月額50万円)を超えると減額されるなどがあるので注意が必要だ。

 

 これまで2万6000件以上の家計相談を受けてきた横山さんだが、相談者が年金の「繰り上げ受給」を決めたケースはほとんどないという。

 

「ご夫婦ともに60歳で、3人のお子さんはすでに独立。ご夫婦は働けるうちは働く予定でしたが、介護問題が発生したため奥様が退職して、年金を繰り上げ受給されました。この例のように、必要に迫られて繰り上げるケースが多いです」

 

 では、年金の「繰り上げ受給」はやめたほうがいいのか。横山さんは「年金の受給年齢は人それぞれで、正解はありません。ただ、年金を何歳から受け取るかを決める前に、老後資産のシミュレーションと準備をするべきです」と続けた。

 

「ねんきん定期便のいちばん下に、年金額の年額が記されています。単純に12で割れば月額が出るので、その金額で生活できるかを考えるべき。月の生活費が25万円で年金額が20万円だったら、5万円足りませんよね。できたら30年ぶんを準備してほしいので、1800万円不足ということになります。不足分をすでに用意できているなら、60歳で受給してもいいと思います。ですが、たいていの方は準備できていないと思うので、『ほったらかし投資』で運用して、資産を作っていただきたいんです。複利効果が出るには、投資期間がだいたい10年は必要です。自分が年金を受給する10年前から準備を始めてほしいです」

 

 この資産運用のために積み立て購入する投資信託は、「ほったらかし投資」で推奨してくれた「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が無難だという。

 

 最後に、横山さんなら年金を何歳から受給するかを聞いた。

 

「私は考えが保守的なので、年金は繰り下げて、大きく育ててから受け取りたいですね。10年繰り下げると、84%増額が終身で確定します。こんないい投資商品はどこにもありませんからね。早死にしてしまうかもしれませんが、ここを狙おうと思っています(笑)」

 

■「健康なうちに年金をもらうのが正解です」

 

「日本人の健康寿命を考えると、最強なのは繰り上げです」

 

 こう主張するのは、YouTubeチャンネルで年金や税金対策を解説している公認会計士・税理士の辻哲弥さんだ。

 

「まず第一のメリットは、健康なうちに受け取るということです。年金を、60歳からと65歳から受け取る場合とを比較したときに、損益分岐点は79歳です。日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳ですが、健康寿命だとそれぞれ約73歳、75歳となり、10年ほど短いんです。79歳になると、多くの方が健康寿命を終えていると考えられ、家からあまり出なかったり、ベッドで寝たきりだったりという方がいらっしゃるかもしれません。その段階でお金があっても、あまり使えませんよね。それよりも、健康なうちに年金を受け取り、第二の人生として余生を楽しみ、海外旅行などで思い出を作るほうが素敵だと思います」(辻さん、以下同)

 

「繰り上げ受給が最強」の理由は、ほかにもあるという。

 

「日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率を2%にすることを物価安定の目標にしていて、言い換えれば、年2%のインフレ率を目標としていることになります。インフレ率が上がると、2004年の年金制度改革で導入されたマクロ経済スライドの調整の影響で、受け取る金額は実質的に目減りしてしまいます。また、制度が改悪される前にもらうというのもお得な理由です。制度改正で、受給開始が55歳から65歳になった過去もあり、今後も年齢が後ろになる可能性もあります。60歳から受け取っていれば、65歳でもらえない、という状況を防げると思います」

 

 さらに、辻さんが続ける。

 

「いまもらう100万円と、10年後の100万円のどちらの価値が高いか、貨幣の時間価値という考えがあります。価値が高いのはいまの100万円で、そのお金で自分の経験を増やしたり、金融商品に投資したりして100万円を増やすこともできます。でも、10年後の100万円は100万のままです。この視点を踏まえても、早めにもらうべきだと思います」

 

 ただし、辻さんも横山さんと同じように、繰上げ受給にはデメリットもあると注意を促したうえでこう話す。

 

「あの世に思い出は持っていけますが、お金は持っていけません。健康なうちに生きたお金を使うべきです」

 

「繰り上げ受給」が損か得かはその人次第だが、準備は必須だ。

 

写真・木村哲夫

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