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ふかわりょうが小説で描く「芸人にしか見えない世界」17年ぶり2作目テーマは「一人の人間が持つコントラスト」

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記事投稿日:2025.04.06 06:00 最終更新日:2025.04.06 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年4月15日号
著者: 『FLASH』編集部
ふかわりょうが小説で描く「芸人にしか見えない世界」17年ぶり2作目テーマは「一人の人間が持つコントラスト」

2024年に『いいひと、辞めました』(新潮社)を発表したふかわりょう(写真・長谷川 新)

 

 芸人が出す本といえば、エッセイや自伝、ネタ本が定番。口述のケースも多い。ところが今、観客や視聴者の歓声に背を向けて、孤独に小説を執筆する偉才が現われている。

 

 エッセイの著作も多いふかわりょうは、2007年『DSJ~消える街~』(宝島社)を発表。自身のメルマガに記していた身辺雑記を読んだファッション誌の編集者から、連載小説の依頼があったのだ。

 

 

「文章を書くことは好きで、僕にとっての “筋トレ” だったんです。お笑い芸人は言葉が武器。言葉とセンスと表現力が三位一体となって、個性になる。執筆とトークは同じではないけど、源流としては繋がっているので、そういう位置づけでした。ただ、当時の僕のなかでは『小説は40歳になってから』みたいな思いがありましたね」(ふかわ、以下同)

 

 悩んだ末に連載を引き受けたふかわは、小説デビュー作『DSJ~消える街~』を書き上げた。どこにでもあるような平凡な街から、ある日を境に少しずつ何かが消えていく――。余韻の残るストーリーだ。

 

「『何かが消える』という現象は、僕のなかでずっと存在感があるテーマでした。実際、時代の変化によって世間から消えていくものってあるじゃないですか。ただこの世界は、なくなったものをなかなか自覚できない。そして、不快なものを消してしまうことへの違和感。キャンセルカルチャーしかり、昨今の社会もそうでしょう。そういうことも根底には流れていました」

 

 近年、著名人が不祥事を起こすと、すぐに画面から消えていく現象にも通じる。

 

「編集技術によって特定の人物を消すことはできるけど、それはまさに『存在しなかったもの』になってしまうじゃないですか。それって、恐ろしいことだと思うんです」

 

 昨年、17年ぶりとなる2作めの小説『いいひと、辞めました』(新潮社)を上梓した。自他ともに認める「いいひと」が、「サイテー男」になるための専門学校へ通うというストーリーだ。

 

「僕は、『家族を幸せにできない人が、お客さんを幸せにできるわけがない』とか、一見理に適っていそうなフレーズがいちばんの『悪』だと思っています。たとえば、多くの名曲を遺した偉大な作曲家こそ、私生活は破綻していたりするわけです。それなのに、今は不倫しただけでも大変なことになる。一人の人間が持つコントラストに驚かない社会になってほしい、という思いをこめました」

 

 ふかわ独特の世界観が展開される一作だが、ほかの芸人が書く小説については、どう思っている?

 

「私は小説家ではないですが、『芸人じゃないとこの表現はしないよね』という共通点を芸人の小説には感じます。ちょっとおこがましいですけど、本業の作家さんとは違った、芸人にしか見えない世界があるんだと思います」

 

■書評家・杉江松恋氏が語る2000年代「芸人小説」 

 

 2000年代を代表する芸人小説家が、『陰日向に咲く』(2006年・幻冬舎)で作家デビューした劇団ひとりだ。100万部超のベストセラーとなり、ブームをけん引していく。

 

「コントやシチュエーションの奇抜さで完結させるのではなく、きちんとした短編小説で、ここまで芸人の小説が売れたのは初めてのことでした。ちなみに、ひとりさんの伯父はSF作家の川島ゆぞさん。板倉俊之さんの『トリガー』と渡部建さんの『エスケープ!』は、サスペンス的な要素が強く、いい意味で芸人臭がなくて、作家性で勝負しています。ベストセラーになった太田光さんの『マボロシの鳥』も自分の好きな世界を書きたいという意志を強く感じます」(書評家・杉江松恋氏)

 

 2000年代には、東野幸治『泥の家族』(2000年・シンコーミュージック)、庄司智春『交換日記/花のことば』(2007年・KADOKAWA)、バカリズム『架空升野日記』(2008年・辰巳出版)、前田健『それでも花は咲いていく』(2009年・幻冬舎)、板倉俊之『トリガー』(2009年・リトル・モア)、渡部建『エスケープ!』(2009年・幻冬舎)、鳥居みゆき『夜にはずっと深い夜を』(2009年・幻冬舎)なども出版されている。

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