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DJ KOO、9.8ミリの脳動脈瘤「首を切って血を逃がす」7時間の大手術を乗り越えた「医師のひと言」

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記事投稿日:2025.05.06 06:00 最終更新日:2025.05.06 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年5月13日・20日合併号
著者: 『FLASH』編集部
DJ KOO、9.8ミリの脳動脈瘤「首を切って血を逃がす」7時間の大手術を乗り越えた「医師のひと言」

TRFのリーダー・DJ KOO。恩人である上山博康医師と

 

「若いころから片頭痛はありましたが、クラブで徹夜したときに、体調不良を感じる程度。病気だとは思っていませんでした」

 

 不規則な生活でも、体に不安はなかった。だが56歳だった2017年、DJ KOO(63)はテレビ番組の企画で初めて人間ドックを受け、脳内に異変が見つかった。

 

 見つかったのは、9.8ミリ脳動脈瘤。3ミリ以上は破裂の危険性があり、7ミリを超えるとその危険性は急激に上昇する。医師からは「このまま放置すれば命に関わる」と即時の手術をすすめられた。

 

 

「頭がまっ白になりましたね。そんなものが自分の頭の中にできていたなんて、まったく自覚がありませんでした」

 

 番組収録が終わると、DJ KOOはすぐに家族に連絡した。帰宅すると、当時17歳の娘と妻は、パソコンとスマホを手に、病気について必死で調べていた。

 

「2人とも顔面蒼白でした。『パパ、これ……放っておいたら死んじゃう病気だよ』って。心配する家族の顔を見た瞬間に、本当に怖くなりました」

 

 幸いなことに、その番組で異変を発見してくれたのが、札幌の脳神経外科の名医・上山博康医師(札幌禎心会病院)。医療関係者から “最後の砦” と呼ばれるほどの信頼と実績を誇る脳外科医だった。

 

「先生から『今すぐ病院に来なさい』と言われ、すぐに手術を受けることを決めました」

 

 脳動脈瘤の手術には、太さ1ミリ以下の細い管を通し、瘤内にコイルを詰める「カテーテル手術」と、頭蓋骨を開けて瘤の根元をクリップで挟み、血液が入り込まないようにする「開頭手術」がある。

 

 だが、DJ KOOの脳動脈瘤は極めて大きく、しかも破裂寸前。そのため、開頭手術しか選択肢がなかった。

 

「頭を半分以上切り開いて、しかも瘤が大きいから、手術中に破裂しないように、首も切って血を逃がしながらおこなうと聞いて……正直、怖くて震えました」

 

 しかし、医師からのひと言がすべてを変えた。

 

「『私は病気を治すのではなく、KOOさんの人生を手術します。術後も元気に生きて、また音楽を続けられるようにします』。そう言われて、命を預けようと決めました」

 

 発見から手術までは、1週間足らず。その間、2日かけて視力や筋力、体のあらゆる機能をチェックし、7時間にも及ぶ手術に備えた。

 

「先生から『左目はちゃんと見えていますか?』と言われました。見えていたんですが、実際には、瘤が左側の視神経を圧迫していて、見えなくなるのは時間の問題だったそうです。だから、本当にいいタイミングだったと思います」

 

 手術中に流れる音楽は、患者が選ぶことができた。DJ KOOは、迷わずダンスミュージックを選んだ。

 

「手術中の意識はないけれど、どこかでリズムを感じていたかったのかもしれません。僕にとって音楽は、“命のビート” みたいなものですから」

 

 入念な準備のおかげで、手術当日は迷いなく手術室に入ることができた。

 

■指を口に入れ、広げる練習を繰り返した

 

 目を覚ました瞬間から、地獄のような痛みと不快感が襲ってきた。

 

「麻酔が切れて頭が痛いし、気持ち悪い。体中、どこが痛いのかもわからないくらいの不快感がありました。眠ることもできなくて……」

 

 その夜、窓の外の信号を、ずっと見ていた。

 

「信号が1回変わるのがだいたい3分。それを10回数えると、30分。そんなふうに、ただただ時間が過ぎるのを耐えていました。約20日の入院生活で、リハビリで外を歩けたときは嬉しかったですね。ずっと窓から見ていた道を、自分の足で歩けたんですから」

 

 そしてもうひとつ、心を支えたのは、音楽だった。

 

「お見舞いに来た娘に『なんでもいいから好きな曲を流して』って頼んだら、スマホでTRFのプレイリストをかけてくれたんです。1999年生まれの娘にとって、TRFはリアルタイムじゃない。それなのに、曲をちゃんと聴いて、選んでくれていたことが……嬉しくて、泣きそうになりました」

 

 退院後も、衰えた喉や首の筋肉を鍛えるために、指を口に2本入れ、広げる練習を毎日繰り返した。夜の商店街をウオーキングしていると、颯爽と歩く人たちに追い越され、落ち込んだこともあった。

 

「2カ月後に仕事に復帰しましたが、しばらくは『本当にDJ KOOに戻れているのかな』と、不安でした。でも、焦らずに歩き続けた今、ちゃんと戻ってこられたと実感しています。それは、家族や会社のみんなや仲間たちが『無理しなくていい』と見守ってくれたからです」

 

 脳動脈瘤の原因は、今も解明されていない。だからこそ、早期発見がすべてだ。

 

「手術を受けたあと、札幌の病院のエレベーターの前で『番組を見て検査を受けました』と話しかけてくれた方がいました。元気って、伝染するんですよ。僕が元気でいることで誰かが笑ってくれるなら、それがライフワークだと思っています。40代、50代になったら脳ドックを受けてほしい。そのことを、これからも伝え続けたいですね」

 

 そしてDJ人生45周年を控え、盆踊り会場やアニソンイベント、地域のお祭りなど、ジャンルや場所にとらわれず、あらゆる場面でDJの可能性を広げている。

 

「TikTokでライブ配信すると、『小室ファミリーの曲をかけて!』ってコメントが飛んできて、本当に嬉しいです。世代を超えて、音楽でつながれる時代になったんだなって」

 

 DJ KOOの守られた命が音楽を、そして元気を伝染させていく。

 

取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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