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60歳過ぎたらあくせく働きたくない方へ! 年金「繰り上げ受給」で成功した3人の資産・収入状況別“勝ち抜き方”実例集

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記事投稿日:2025.05.23 06:00 最終更新日:2025.05.23 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年6月3日号
著者: 『FLASH』編集部
60歳過ぎたらあくせく働きたくない方へ! 年金「繰り上げ受給」で成功した3人の資産・収入状況別“勝ち抜き方”実例集

 

 

 重要法案のひとつ「年金制度改革関連法案」をめぐって、国会は迷走した。厚生年金の流用、基礎年金の底上げ、在職老齢年金の上限額など、問題は山積みのままになっている。ただ、はっきりしているのが、我ら就職氷河期世代にとって老後の頼みの綱である年金が、心もとないものになっているということだ。ならば受給年齢になったら、制度が改悪される前に「繰り上げ受給」が正解なのでは?

 

「私が相談を受けたら、まずは65歳からの受給をおすすめしています」と、多くの専門家と同じように「繰り上げ受給」に“待った”をかけるのは、年金についての著書を多数手がけるファイナンシャル・プランナーの山中伸枝さんだ。

 

「ただ、年金の仕組みを理解したうえで選ぶなら、選択肢のひとつとして考えてもいいと思います。何歳から年金をもらうかは、それぞれの考え方があると思いますから」(山中さん、以下「 」は同)

 

 年金は一度、受給したら、終身でもらえる。何歳で受給するのが得か損かは、何歳で死ぬかによって変わってくる。

 

「寿命はコントロールできません。ここが年金の難しいところです。長生きすることのリスクに対して、貯蓄などで十分に備えているなら『繰り上げ受給』をして、元気なうちに年金を自由に使うというのはいい方法だと思います。

 

 ただ、全額を生活費に充てる前提の受給は避けたいです。労働収入があるうちは、受給タイミングを後ろ倒しにして、より多くの年金を受給できるように調整するほうが、老後が楽になるはずですから」

 

 

 繰り上げ受給を検討する際に覚えておきたいのが、「繰り上げ受給をしたら障害年金や遺族年金が併給されない」など、注意点があることだ。

 

「障害年金は働けないことに対する年金なので、繰り上げ受給をすると(私は)すでに働けない年齢です、と言っているのと同じ扱いになるんです。 たとえば、61歳で脳梗塞などになり、重い障害が残った場合、通常なら障害年金をもらえますが、繰り上げ受給をしていると、もらえません」

 

 また「繰り上げ受給をすると、受給を“取り消し”ができない」こともデメリットだという。

 

「65歳まで働いて、貯蓄して一銭も使わなかったから、全額返して65歳からの金額をください、と言ってもできません。

 

 代わりに65歳以降の繰り下げ受給だと、68歳になってまとまったお金が必要となったら、65歳までさかのぼって3年分を一括でもらえるなど、バリエーションがたくさんあります。また、65歳まで遺族厚生年金との同時受給ができない、などの制限もあるので、家族構成でも変わってきます。後悔ないように自分でしっかり考えることが大事です」

 

 年金について考える際に頼りになるのが、厚生労働省が公開している「公的年金シミュレーター」。「ねんきん定期便」に記載されている二次元コードを使えば、簡単に試算を始めることができる。

 

「在職老齢年金との絡みや社会保険料、税金がどれくらいかかるのかなどもわかりやすく表示されます。専門家や年金事務所に相談に行くのももちろんおすすめですが、まずは自分で試算をやってみてください」

 

〈年金繰り上げ受給の注意点〉

 

(1)受給額は、1カ月早めるごとに0.4%少なくなる

 

(2)繰り上げ受給をすると、その後に取り消すことができない

 

(3)障害年金や寡婦年金などの年金を受け取れない

 

(4)受給額=手取り額ではない

 

(5)65歳まで遺族厚生年金との同時受給ができない

 

(6)在職老齢年金は基本月額と総報酬月額相当額の合計が51万円以上になると、一部あるいは全額が支給停止になる

 

■額面の10~15%は源泉される

 

「ねんきん定期便」に記載された額面と、実際に振り込まれる金額は違うことを忘れてはいけない。

 

「当たり前ですが、年金受給後も所得税、住民税、健康保険料、介護保険料はかかります。現役のときより減りますが、額面の10~15%ほどは源泉されると思ってください。また忘れがちですが、ローンを払い終えても、持ち家の場合は固定資産税がかかります」

 

 最低限の生活でも、生きていくためにはそれなりのお金はかかるもの。とくに、基礎年金だけで生活設計をするのはかなり厳しい現実がある。受給タイミングを考える際、山中さんは「75歳の生活を基準に考えるといい」と言う。

 

「75歳以降を不安なく暮らすにはどうしたらいいか、を考えることをおすすめします。

 

 グループホームなどに入る場合に、月20万円あれば問題ないとなったとき、では月20万円の年金を確保するためにはどうすればいいかを考えてください。そのために繰り上げ受給をして、年金を運用して老後資金を増やすのは、有効な手段だと思います」

 

 安心の老後生活を得るためにも、繰り上げ受給を検討する価値はあるのだ。ここからは実際に繰り上げ受給を決断した3人のケースを見てみよう。

 

【CASE 1 】/自己破産→貯金生活

 

ツカサマルさん(63)
家族:単身者
繰り上げ受給前の預貯金:0円
月額年金受給額:9万7000円
年金以外の月収:約20万円

 

◎年金は70歳以降のための “ボーナス”

 

 57歳のときに「公的年金シミュレーター」を使って、繰り上げ受給額と通常の受給額を調べていたというツカサマルさん。58歳で事業の業績不振により自己破産して、預貯金が0になったため、将来への不安も大きかったという。

 

「65歳受給と、繰り上げて60歳でもらうのと、差額は4万円前後でした。障害年金が受け取れなくなるデメリットも考えましたが、この先、どうなるかわからないので、もらえるときにもらおうと決めました」

 

 仕事で月約20万円の収入があるため、年金は70歳以降の生活費に充てるため、基本的には貯蓄しているとのこと。3年で50万円、貯蓄したという。

 

「現在の受給額は、9万7000円程度。毎月のライフラインを維持するために必要な固定費よりは、少し多いくらいです。いまの生活費は仕事の給料で賄い、年金はボーナスと考えて、70歳以降の生活に向けて貯蓄しています。

 

 まぁ、たまに切り崩して旅行を楽しんでいますが(笑)」

 

 何歳まで働くかもポイントとなってくる。

 

「体が動くうちは、社会とのかかわりを維持するために仕事は続けたいです。働けるうちは働いて収入を確保し、趣味にも少しお金をかけたいです」

 

 そのように考えるのも、ツカサマルさんが単身者であることが大きいという。

 

「3人の子どもも自立したので、年金は基本、自分自身で使うお金になります。自由に使えるお金があるのは気持ち的に安心。ありがたいです」

 

【CASE 2 】/生活水準はKEEP

 

うさじいさん(62)
家族:単身者
繰り上げ受給前の預貯金:1000万円
月額年金受給額:15万円
年金以外の月収:約28万円

 

◎働き方の自由度がグッと上がった

 

 65歳で基礎年金、厚生年金、厚生年金基金代行部分をもらっても満足のいく暮らしはできないと思い、61歳で繰り上げ受給した、うさじいさん。“経済余裕の確保”が、繰り上げ受給の決め手だったという。

 

「今後、年金制度がいまよりもよくなることはないと思い、年金を早期に自己資産化しようと考えました。在職中は、15万円ほどの年金をNISAに投入して運用しています」

 

 全額投資しているため、「受給前と変わらない生活をしています」とのこと。資産は100万円ほど増えている。

 

 今後も可能な限り投資して、資産を増やしていくことを考えているという。

 

「65歳まではできる限りフルタイムで働き、65歳からは年金とバイトなどで食いつなぎ、70歳以降は年金とNISAを切り崩していこうと考えています。繰り上げ受給をしたことで、働き方の自由度がグッと上がった気がします」

 

 もちろん、繰り上げ受給のデメリットも考えた。

 

「長生きすると、合計額は逆転します。受給開始250月(約21年)が分岐点になるのですが、そこまで生きているのかわからないので、使えるときに使うべきと考えました」

 

 繰り上げ受給をしてから半年たったが、「後悔はない」とのこと。趣味のダイビングのために離島を訪れたりと、いままでと変わらず楽しんでいる。

 

【CASE 3 】/海外株投信で資産UP

 

有村ポウさん(61)
家族:妻
繰り上げ受給前の預貯金:2000万円
月額年金受給額:8万円
年金以外の月収:約25万円

 

◎コロナ禍が“繰り上げ”の転機に

 

 55歳から株を始めたことにより、「国に預けるよりも自己判断で運用しよう」と考え、60歳で繰り上げ受給を決めた有村ポウさん。月8万円の年金は投資に回している。

 

「比較的安全で、インフレでも目減りしない米国企業10銘柄で構成されたFANG+という投資信託で運用しています。トランプ相場など一喜一憂するできごとはありますが、5年くらい株をやっていて、暴落しても買い続けていれば、いずれまた上がるときが来ることもわかっているのであまり心配していないです。そして、本当に厳しいとなれば、状況を見て適したものに投資していこうと考えています」

 

 50代前半から、ねんきん定期便が送られてきたらチェックしていたという有村さん。フリーランスで働いていたため厚生年金がなく、受給額も少なかったことも、繰り上げ受給を決める要因となった。

 

「60歳と65歳の差額が年間30万円ほどしか変わらなかったので、早めにもらって運用して、利益を得ようと考えました」

 

 繰り上げ、繰り下げを含めて、何度もシミュレーションを重ねたという。そして繰り上げ受給をする前に、60~65歳までの5年分の生活費と貯金として2000万円を蓄えることを目標にしたという。

 

「5年分の生活費があれば、これまでの生活を変えずに生きていけると考えました。そしてよく『老後資金に2000万円が必要』といわれるので、退職金代わりに用意しました」

 

 年間96万円の年金をFANG+に投資している有村さん。目標は5年後の65歳で、年金だけで900万円にすること。

 

「5年でだいたい500万円、投資する計算になるので、年間20%ほど利益が出ればいいと考えています。

 

 現在、1年で24万円近く運用益が出ているので、このペースで運用するのはそこまで難しいことではないのでは。60歳からと65歳からの受給の、損益分岐点といわれる80歳を超えても得する計算なので、後悔はないです」

 

 年金以外にも、投資で資金を増やしているという。

 

「コロナ禍で仕事が暇になったため、300万円を元手に株を始めました。現在は年間200万円くらいプラスで、だいたい1000万円まで増えました。一応、元手を切るまではやり続けようと考えています。

 

 そして、株は楽しいです。ニュースは気にするようになるので、自然に社会とつながれますし。意外と老後の趣味として、向いている気がします」

 

 繰り上げ受給をしたことで、仕事に対する考え方も変わったという。

 

「顧客の新規開拓はしていません。フリーはこれがいちばんたいへんなので、それをしなくなったことで相当、楽になりました。いまは、自分のペースで自由に仕事をしています」

 

 あくせく働かない。これが本当の幸せだ。

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