ライフ・マネー
「体中にケガの記憶が残ってる」宍戸開、若き日の転倒で股関節に激痛…「人工関節」という選択肢を拒んだ理由とは

1988年にデビューして以来、満身創痍の宍戸開。股関節の痛みを再現してくれた
リポビタンDのCMに、1993年から約9年間出演した宍戸開(58)。崖から足を踏み外した共演者を腕一本で引き上げるシーンは、「ファイト・一発!」の掛け声とともにCM史に輝いている。
「いや、もう満身創痍ですよ」
そんな数多くのアクション作品で活躍してきた宍戸は、そう言って顔をしかめた。
【関連記事:迫田孝也、役者人生の恩人は「三谷幸喜」電話1本で運命が激変】
「僕の役者人生は、とにかくケガの連続でした。刑事ドラマやVシネマ、CMも派手な動きのある作品が多く、骨折は股関節、足首、右膝……それに、左膝は2回折っています。歯は3本かな。体中にケガの記憶が残っています(笑)」
撮影には、常に体当たりで挑んできた。1990年12月8日、24歳で臨んだVシネマも、そんな現場のひとつだった。
「手錠をかけられたまま、相手役が出した足に引っかけられて転ぶシーンでした。本来は、タイミングを合わせて転ぶフリをするはずが、相手の役者さんが本当に足を引っかけちゃって、受け身を取れずに左膝を強打したんです」
主役の宍戸は、現場に穴をあけられない。その後もサポーターを巻いて撮影を続けた。
「そのうち、だんだんと足が動かなくなりました。10日に病院で検査を受けると、靭帯が5、6本断裂していたんです。炎症で膝に溜まっていた水を抜いたら、400cc注射器で4本ぶんにもなりました」
結局、21日まで12日間の入院。若さにまかせ、25日には早くも現場に復帰した。
「回復力には自信があり、ろくにリハビリもしませんでした。そうしたら、後になって左右差が出ちゃったんですよね。無意識に左足をかばって歩くようになり、体の重心が右側にズレてしまったんです。
その偏りが、筋肉や内臓にも悪影響を与えるようになりました。当時、今のように筋肉や骨の構造を理解していれば、と後悔しています」
体の歪みからジワジワと不調をきたし、2018年の旅番組の撮影中に、異変があった。
「海岸沿いのサイクリングロードで、左足でペダルを踏み込んだ瞬間、『カクッ』となって、力が入らなくなったんです。そのときは膝の不調くらいに思っていましたが、その後、股関節が詰まったようになり、激しい痛みを感じるようになりました」
24歳のときの転倒が遠因だと直感したが、宍戸にはさらに思い当たる古傷があった。
「高校のスキー部で、試合前に雪を踏み固める作業をしていたとき、仲間とふざけて押しくらまんじゅうみたいにしていたら、左足が雪に刺さったまま無理な方向にグニャッとねじれちゃったんです。その影響もあったと思います」
股関節に加え、膝の状態も悪化。2019年、宍戸は内視鏡手術を受ける決断をした。
「撮影で『あそこまでジャンプしてくれ』と言われたら、『膝や股関節が不安で……』とは言えないじゃないですか。膝がポキポキ鳴るようになって、医者に診てもらったら『軟骨がすり減り、摩擦のせいでビロビロと剥がれています』と診断されました。
人工関節の選択肢もありましたが、痛みは消えてもアクションが厳しくなるとのことで、それならば『今あるこの体と向き合い、メンテナンスしながらやっていこう』と決めました」
ケガをして体が壊れて、やっと気づいたことがある。
「親父(俳優の故・宍戸錠さん)もそうでしたが、若いころは『突っ走るしかない』と思っていました。しかし今は、『整えて、継続する』ことの大切さを実感しています。
食生活もそう。これまで食べてきたものが、将来の体をつくるんです。……そう言いながら、出演した『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)で人間ドックを受けたら、若いころの暴飲暴食のツケなのか、大腸ポリープが7、8個もぽろぽろと出てきて “病気のデパート” なんて言われてしまったんですが(笑)」
といっても、今も肉体は強健そのものだ。
毎日ジムに通い、週2でパーソナルトレーナーのもとで鍛えているアクション俳優が、読者に提案する「体力テスト」がある。
「テストといっても激しいものじゃないですよ。あなたは、踵と踵をつけたまま、しゃがむことができますか? こうやってお尻をぜんぶ落としきることって、50代の人だとなかなかできないんですよ」
40代男性である写写丸が試みたが、「落としきった」と思った瞬間に尻もちをついてしまった。
「そう、そんなふうにバランスを取れなくなっちゃうんだよね(笑)。おすすめしたいのは、一日3回のスクワット。肩幅よりちょっと広く脚を開いて、ゆっくり3回しゃがんでみてください。それだけで内転筋とお尻の筋肉が鍛えられて、腰痛がある人ほど、歩き方が変わりますから」
疾走するバスに飛び乗って、窓から車内へ乱入する――。そんな人間離れしたアクションを繰り広げてきた宍戸も、折にふれてこのスクワットに立ち返るという。
還暦が迫る宍戸だが、まだまだ画面の中で暴れまわってくれそうだ。
写真・長谷川 新
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)