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【うまい・安い・見た目が豪華】伊勢エビも登場!「無償化」でトラブル頻発のなか地元食材にこだわる全国の“すごい給食”

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記事投稿日:2025.07.01 21:11 最終更新日:2025.07.01 21:15
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【うまい・安い・見た目が豪華】伊勢エビも登場!「無償化」でトラブル頻発のなか地元食材にこだわる全国の“すごい給食”

「第19回全国学校給食甲子園」で優勝した、石川県立明和特別支援学校のメニュー。地元産の野菜や豆腐を駆使し、イタリアン風にまとめている

 

 子育て支援と少子化対策のため、給食費の無償化が全国で広がりつつある。文部科学省によると、2023年9月時点で、全国の3割に当たる547自治体で公立小中学校の児童生徒全員の給食費が無償化されている。

 

 一方、給食をめぐる不祥事が絶えない。

 

 愛媛県松山市では6月28日、アレルギーを持つ児童に小麦を使用したメニューを提供し、児童がアナフィラキシー症状で救急搬送されていたことが発覚。3年前にも同じ児童に小麦メニューを出し、同様の事態を招いていた。

 

 

 大阪市では、東住吉区の小学校で4月以降、調理具や食器の汚れ、毛髪や手袋の切れ端などの異物混入といったトラブルが相次ぎ、6月末には調理を外注する事業者との契約解除にまで至った。

 

 沖縄市の中学校では6月19日と26日、立て続けに金属片の異物混入が起きた。また、6月12日には、1日放置された和えものが、誤って幼稚園で提供されていたことが明らかになった。

 

 そして6月9日、SNSで、ある給食の画像が大拡散された。福岡市の小学校で4月に出されたもので、メインのおかずが唐揚げ1個だけという、なんとも寂しい内容だった。これに対しては「刑務所のほうが豪華」と、受刑者自身が刑務所内の給食と比較して揶揄する投稿もなされたほどだ。

 

 給食1食当たりの費用の全国平均は、小中学校ともに250円前後。福岡市でも2学期からは無償となるが、現在の小学校の給食費は289.47円(保護者負担分243.15円)だから、決して安くはない。唐揚げ1個の給食のカロリーも620kcalあって、福岡市の基準(1食600kcal)を十分、満たしてはいる。

 

 ただ、この唐揚げは通常サイズのおよそ2個分、60gというが、一般的に3、4個は盛られている「唐揚げ定食」を思い浮かべると、たしかに見すぼらしい。料理は見た目も大事だ。別の日のメニューをみると、格別に貧相とはいえないから、その点が惜しかった。

 

 ひるがえって、限られた予算のなかで工夫を凝らし、「うまい・安い・見た目が豪華」の三拍子そろった給食を出す自治体や学校も多い。その代表格が、東京都足立区だ。同区教育委員会・おいしい給食担当課の松本令子課長は胸を張る。

 

「(現在5期めの)近藤弥生区長が初当選した翌2008年、マニフェストに掲げていた、おいしい給食担当課が設けられました。区長は、区内で転校したお子さんが転校先で給食を食べなくなった、という話を聞いたそうで、当初から強い問題意識を持っておられました」

 

 青山学院大学大学院で経済を学び、警視庁を経て税理士となった区長は、優れたコスト感覚の持ち主。給食の現状を知るため、学校ごとに残菜量を定期的に量って報告するよう求めたが、当初は栄養士からの反発も多かった。カレーやハンバーグなど、子どもたちが好むメニューだけ出していれば残菜は減るが、それでは栄養面で偏りが出てしまう。

 

「足立区はじめ、23区内の公立校の給食は、ほぼすべて自校式です。足立区内には小中合わせ103の区立校があり、それぞれに栄養士を置いています。つまり103通りのやり方があるともいえ、各栄養士の腕の見せどころ。そこをトップダウンで『こうして』ではなく、みんなに考えてもらう仕組みを作ったんです」(松本課長)

 

 具体的には毎月1回、区内の学校の栄養士を集めて、給食献立検討会を開き、各校それぞれのやり方を発表・共有して、区の基本レシピを作成。この交流から、各校が切磋琢磨する環境が生まれ、全体のボトムアップも図られたという。

 

「活動は次第に注目され、コラボする媒体や企業も増えました。2011年に出したレシピ本は7万部売れ、2025年1月にも『東京・足立区のおいしい給食レシピ』(主婦の友社)を出版。いまでは、すべてのオリジナルメニューがクックパッドで確認でき、その数は700近くあります。2022年から、セブン‐イレブンさんでは児童生徒に人気絶大の『えびクリームライス』を販売しており、6月いっぱいは、都内14区の店舗で入手が可能でした」(松本課長)

 

 おかげで残菜も、プロジェクト開始時の2008年は381tあったところ、2023年は112tまで抑制できた。7割減ともなれば、相当な経済効果だ。松本課長は“推しメニュー”を名刺に印刷しており、それが足立区産の小松菜をふんだんに使った、自慢の「小松菜ビスキュイパン」だ。

 

「クッキー生地に、小松菜をペースト状にして練り込み、食パンの上に塗って焼いたものですが、初めて食べたときは『こんなにおいしい給食があるなんて!』と驚きました。サラダのドレッシングも手作りして、『絶対味覚』を身につけてほしいと、和食でも中華でも、だしはすべて天然素材で取っています」

 

 ちょうど足立が“給食立区”する前後の2006年から、「全国学校給食甲子園」という催しが続いている。東京や大阪といった人口の多い都府県からのエントリーが少なく、そこまで知られていないが、新潟などは県をあげて取り組んでおり、通算応募校数が2000を超える県もある。

 

 2024年の第19回大会の参加校数は1051。決勝大会には12の施設が選ばれ、みごと優勝に輝いたのは、初参加の石川県立明和特別支援学校だった。学校栄養職員の岡春菜さんは行政での経験が豊富で、食育をいかに給食に活かすか、の課題に取り組んできた。

 

「特別支援学校には小中高の児童・生徒がいて、必要な摂取カロリーもそれぞれ違います。そこは主食やおかずの量でコントロールし、カレーなどスパイシーな料理は低学年に合わせ、辛さは控えめにしています。郷土料理など、大人向けに思えるメニューも、意外と小学生に人気なんですよ」

 

『実際に給食で出したメニュー』というのが出品の条件で、優勝をさらったのは写真の「米粒麦入りごはん・たらのアクアパッツァ・いしるドレッシングの堅豆腐入りサラダ・もっちり加賀れんこんと源助大根のスープ煮・ミルクゼリー〜めいわジャムのりんごソースがけ〜・牛乳」(6品)だった。

 

「アクアパッツァやサラダにはオリーブオイルを使い、全体として、イタリアン風かもしれません。堅豆腐は、沖縄の島豆腐に似た石川の名産品です。シャキシャキというよりねっとりした加賀れんこん、ずんぐりして甘味の強い源助大根も地元のもの。スープ煮はポトフ風に仕上げました」(岡さん)

 

 特筆すべきは「めいわジャム」。特別支援学校ならではの、生徒が作業実習で作ったジャムで、これまでも近くにあるJAの直売店舗などに出品し、好評を得てきたという。

 

「生徒が実習で作った食品には、らっきょう漬けもあって、刻んでタルタルソースにし、給食で使用しました。そんな、学習につながるメニューを今後も開発していきたいですね」(岡さん)

 

 こんな手間暇にこそ贅沢さを感じるが、文字どおり、高級食材を使った豪華な給食も提供される地域もある。松茸の名産地の南信州では、シーズンに3度も松茸ご飯が出る小学校もあるなど、地元の生産者の厚意にあずかる例が多いが、三重県志摩市では別枠で予算を取り、地場産の伊勢エビやフグなどを、食育の名目で給食に採り入れてきた。志摩市学校給食センターの阿部亨所長が語る。

 

「2018年度から『記憶に残る給食事業』の一環で、約600万円を予算化。物価高にともない、いまはもう100万ほど上がり、うち伊勢エビの仕入れには半額程度、かかっています」

 

 ふだんから「志摩給食(2023年度から〈しまらぶ給食〉の日に改名)」を月1で定め、市内産の食材を給食に出し、食育を推進する取り組みをしているが、「記憶に残る給食」は年3回、実施している。三重県全体の試みである「みえ地物一番給食の日」にもぶつけ、それぞれ地元の飲食店の協力を仰いでメニューを開発し、単にハイグレードな食材を用いるだけでなく、おいしさにもこだわっている。

 

「2024年度は伊勢海老チーズマヨネーズ焼き、タイやウツボやアイゴのアラを使った志摩の魚のスープ、麦ごはんと牛乳を提供しました。おもな食材はすべて志摩産です。伊勢エビを例年、出していたんですが、2025年は11月に志摩市と南伊勢町で開催される『第44回全国豊かな海づくり大会』に、天皇皇后両陛下が臨席され、そこでタイの稚魚を放流されるご予定なので、これにちなんで、タイに代える予定です」(阿部所長)

 

 いかにも高級食材の産地ならではの試みといえよう。都会の学校でも、いっそのこと給食無償化を機に、こうした特別予算を盛り込み、家庭では滅多に出ない食材に慣れ親しませたほうが、将来的には得策ではないだろうか。結果として児童・生徒がいっそう日本の農水産物に関心を持ち、食料自給率を少しでも上げることになるかもしれない。

 

取材・文/鈴木隆祐

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