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文句ばかり言う「モンスター患者」の増加で医師もうつ病に

ライフ・マネー 投稿日:2018.03.14 11:00FLASH編集部

文句ばかり言う「モンスター患者」の増加で医師もうつ病に

 

 最近の傾向として、医師と患者さんの間でうまくコミュニケーションがとれないケースがよくあります。文句ばかり言う患者さんや家族、いわゆるモンスター患者の出現がその背景にあります。

 

 あるご高齢の患者さんの事例をお話ししましょう。

 

 その患者さんは、余命がもう僅かという段階だったので、日に日に体調が悪くなっていました。いわば、もう打てる手は尽くした状況です。しかし、その家族は「これは全部病院のせいだ」と主張し、どんどんクレームを言ってくるのです。

 

 患者さん本人はほとんど動けないのですが、ベッドで寝ている間に足先が半分出ていたら、「ベッドから落ちそうになっていた。危うく転落するところだったじゃないか」と家族が文句を言ってきます。何かきっかけを見つけては毎日のように訴えてきました。

 

 この例の他にも、老衰が原因なのに「これは医療ミスだ。90歳以上の高齢でも、元気にするのが入院治療じゃないか」とか、「寝ているときに頭が下を向いてしまったら窒息するじゃないか」などと騒ぐ家族もいました。「私が見つけていなかったら転落していた」とか、「もう少しで窒息するところだった」という思い込みで主張し続けるのです。

 

 このようなやりとりが主治医とご家族の間でしばらく続いた後、私は現場の状況を確認して、こう言いました。

 

「ご家族が心配されるようなことはありません。しかし、それでも心配であれば、納得できる他の病院や施設に移られたらいかがでしょうか」

 

 すると、その家族は「いや、絶対に病院は移らない。私がこのように指摘をすることが、この病院を良くしているのだから、感謝しなさい」と言うのです。このように「病院に貢献しているのだから、絶対に転院しない」と主張する患者さんや家族が稀にいらっしゃいます。

 

 これはひとつの傾向なのですが、そのような患者さんと家族は、知的レベルの高い方々であることが多いのです。おそらく、仕事でもクレーマー対応をされた経験などがあるのではないでしょうか。「訴える」「訴えられる」という問題に慣れているので、どうすれば相手がいちばん困るかということがわかっているのです。だから、「絶対に転院しない」ということをあえておっしゃるわけです。

 

 そうしたケースに出会うまで、私は「医療というのは公平・誠実・親切にやっていけば、絶対に大丈夫だ」と考えていました。しかし、明らかに悪意があるような患者さんと家族が目の前に現れたことによって、その考えが少し変わりました。それまで通りの自分のやり方では立ち行かないということを学んだのです。

 

 この考えに至るまでには、紆余曲折がありました。

 

 初めは、そのような患者さんと家族に対して、こちらに非があるときは認めたうえで、毅然とした態度で「できることとできないことがありますが、可能な範囲で対応させていただきます」と返答し、場合によっては患者さん側と訣別しなくてはならないとまで考えていたのです。

 

 しかし、医師が強硬な態度をとると、このような患者さん側はかえって敏感に反応し、絶対に引きません。結果的に、医師と患者さん側のガチンコの闘いのようになってしまいます。これでは治療さえうまく行かず、本末転倒です。こういうときは、患者さんもご家族も病んでいます。医療には、それを包み込むような優しさが重要ではないかと、だんだん思うようになっていきました。

 

 ここで、もうひとつの例をご紹介しましょう。その患者さんはあるとき体調を崩し、1日3食のうち1食だけ中止したことがありました。しかし、病院のミスにより、食べていないその1食を含めて請求をしてしまいました。1食分を余計に請求してしまったのです。

 

 すると、患者さんの家族から、「このような過剰請求は営業停止になるような問題だ。厚生労働省に連絡して調査に入ってもらいます」とクレームがありました。もちろん1食分の食費をお戻しするだけでは満足されず、家族が厚生労働省に電話をかけられました。

 

 あら探しのクレームばかりする患者さんや家族を一度でも経験すると、残念ながら、担当する主治医や看護師をはじめ、その他の医療スタッフたちも精神的にまいってしまいます。責任感のある人ほど、うつ病になることもあります。

 

 私は、このようなクレーマーのご家族さんたちを経験してから、最終的に自分の考えを改めました。もちろん、いままで通り公平・誠実・親切に対応するのですが、相手がどんな方でも、その患者さんと家族の気持ちを共有するようにしなければいけない、と思うようになったのです。

 

 気持ちを共有しないまま壁をつくってしまうと、相手がどのような人であっても、決して良い方向へは行きません。相手となる患者さんと家族が精神的に強い人たちなら一層、ありとあらゆる文句を言われ、行動をとられることになってしまいます。

 

 ここで重要なのは、病院側は、「なぜこの人はこんなことを言うのだろう」「何が原因でこうなってしまったのだろう」ということを考えながら患者さんや家族の話に耳を傾け、決してダメ出しをせずに接することです。「私たちは間違っていない、自分たちの医療は正しい」と主張すると、争いにしかなりません。患者さんやご家族が感情を持って行ける場を残しておかないと、絶対にトラブルが起こります。

 

 まず、患者さんや家族と、心や気持ちを共有すること。そして、私たちができる無理のない解決策を考えること。
 これが、私の30年間にわたる医師人生の中で、クレーマーの方との出会いから学んだことです。

 

 

 以上、酒向正春氏の新刊『患者の心がけ~早く治る人は何が違う?』(光文社新書)より引用しました。同じ病気にかかったふたりの患者さんがいるとして、心がけが良い患者さんのほうが治る可能性は高くなり、そうではない患者さんは可能性が低くなります。それでは、一体どのような心がけが大切なのでしょうか?

 

●『患者の心がけ』詳細はこちら

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