
センターバレイ・中谷武世社長の自宅のネコ・キジトラのるるちゃん(2)。社長がカラスに狙われているところを救ったそう。もちろん「脱臭梅」の愛用者です
「和歌山県の梅干しの生産量は、年間で約7万トンあるそうです。そのうち、おにぎりの具やドレッシングなどの加工品には、梅の種を取り除いたものを使用するのですが、この過程で廃棄される種は、約1600トンともいわれています。この廃棄の問題をなんとか解決できないかと思ったのが、商品開発のきっかけです」
こう話すのは、和歌山県紀の川市に本社を構える、株式会社センターバレイの中谷武世社長だ。中谷社長はもともと、廃棄されるお茶の葉を再利用できないかと考え、1990年に起業。園芸用の肥料などを開発してきたが、並行して、梅農家や加工品会社にとって負担となっている梅の種を、なんとか再利用できないかと考えてきた。
「昔から、農家さんでは梅には消臭効果がある、といわれてきたそうです。そこで、その効果を検査に出してみたところ、アンモニアに対する消臭効果が約99%と、非常に高いことがわかりました」(中谷社長・以下同)
そこから、置き型の消臭剤や消臭スプレーなどを商品化したが、中谷社長は「どれも、いまいちでした」と笑う。そんなとき、ネコ好きな中谷社長は、会社や自宅で保護してきたネコを見ながら、ある考えを思いついた。
「ネコのトイレに使う、いわゆるネコ砂に使えないかと考えたんです。この発想に行きつくまで、5年ほどかかりました(笑)。私は、ネコ砂を作ろうと決めてからは、とにかく廃棄物を出さないことにこだわりました」
まずは梅干しの種をビニールハウスに広げて乾燥させ、粗く砕いてからさらに細かくする。その後、圧縮して固め、ペレット状にして乾燥させる。こうして完成したのが、同社のペット用脱臭トイレ砂、その名も「脱臭梅」だ。
「梅干しの酸味の成分であるクエン酸は酸性で、ネコのおしっこから時間が経って発生するアンモニアは、アルカリ性です。『脱臭梅』は、このアンモニアが発生する前の段階で作用します。
クエン酸がおしっこと触れた瞬間に中和して別の成分に変えるため、時間が経ってもアンモニアが発生しないんです。いろいろと試行錯誤した結果、100%アップサイクル(廃棄物に付加価値を加えることで再利用すること)できています。手間はかかっていますが、『脱臭梅』は使うだけでSDGsにつながる、環境に優しい商品です」
急にトイレの砂をすべて変更すると嫌がるネコも多いが、「脱臭梅」は、使用しているネコ砂に2~3割程度、混ぜるだけで消臭効果が発揮され、トイレを使うネコもそれほど抵抗を示さない。利用者にも好評で、店頭販売ではリピート率はかなりの高さを誇る。
同社では、梅の消臭効果を生かし、新たな商品開発にも取り組んでいる。
「検査機関の分析では、加齢臭の原因となる物質のノネナールに対する消臭効果は96%、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドに対して91%でした。私ぐらいの年齢になると、加齢臭などが気になりますからね(笑)。これらの効果を利用して、冷蔵庫や靴箱の脱臭剤の商品化を目指しています。
それから、2024年の能登半島地震のとき、避難所で生活するペットのために『脱臭梅』を持っていったんです。そこで避難している方々に聞いたのが、人間のトイレの問題でした。
食料の支援はすぐ届いたそうですが、トイレは多くの排泄物が溜まってしまい、なかなか行けなかったとのことです。『脱臭梅』は、こういうときにも効果を発揮するのではないかと思ったので、育児や介護に使用できる、おむつ用のごみ箱として開発を進めています。防災用の備蓄品になればと思っています」
「廃棄物をなくしたい」という思いと、ネコたちへの愛情から誕生した、サステナブルな商品。中谷社長は現在7匹のネコと暮らしていて、今日もトイレで脱臭梅をお行儀よく使っている。