「誰かと結婚したい。ただ、誰でもいいわけではなく、誰かイイ人と結婚したい」
我ながら、なんとワガママな結婚願望だろうか。お相手すら見つかっておらず、どんな人が理想なのかも曖昧なまま。それでも胸に抱いた結婚願望が「早くなんとかしろ」と私を脅してくる。
45歳、独身男性。根気よく婚活を展開してきたが、まぁうまくいかない。いかなすぎて鼻水が垂れてくる。いくら自分一人でがんばってみたところで、お相手あってのことゆえ、ご縁に恵まれなければどうにもならない。あれほど張り切っていた結婚願望が、近頃なんだかふさぎこんでいる。
そもそも、これこそがまごうことなき「ザ・婚活」だと私が信じて行っている活動の数々は、果たしてご成婚へと繋がる正しい道なのか。
婚活とは、見知らぬ女性とひょんなきっかけで出会い、数回のデートを経て互いに気に入ったらどちらかが告白し、交際が始まる。さらにデートや同棲を重ね、関係が深まったら男性が女性にプロポーズをかまして婚約し、役所に婚姻届を出せば結婚できると思っているけど、ほんとにこれで合っているかしら?
まぁ、どのステップも根本的に難しくて、なかなか先に進めないんだけど。
■脈ありかどうかを判断できるデートの去り際
異なるエリアに住む男女が、電車でデート現場に集合した際、定番の別れ方は、彼女が使う路線の駅の改札口まで一緒に行き、そこでお見送りすることだろう。ここから始まるドラマがある。
彼女が改札を通り抜け、数歩進んだところでこちらを振り返り、手を振ってくれる。さらに、完全に互いの姿が見えなくなる直前の曲がり角か、階段の途中でもう一度だけ振り返ってくれることがある。口の動きは「またね」。これは、つまり、
「もう少し一緒にいたかったけど、帰らなきゃいけないの。でも、最後の最後まであなたの姿を目に焼き付けておけば、今夜寝るときもあなたと一緒にいられる気がするの。あなたも私を見て、今夜、夢でまたお会いしましょ」
と、本日のデートを楽しんでくれた無言の証として受け取ってよい。名残惜しそうに振り返ってくれるのは、心底嬉しい振る舞いだ。彼女の姿が完全に見えなくなっても、その余韻を楽しみたくて、しばらく立ち尽くしてしまう。人通りの邪魔にならないポジションに、あらかじめ立っておくのがマナーだ。
一方、デートを楽しんでいただけなかった場合、女性は振り返らずに足早に去っていく。なんなら今日イチの駆け足で……。終電はまだまだ先だから、そんなに急がなくてもいいのに……。この場合も呆然と立ち尽くしてしまう。
このように、本日のデートが良かったかどうかは、別れ際の彼女の態度でだいたい察することができる。振り返ってくれたら脈ありとみなし、メールでのやりとりを続け、2回目のデートに進む。振り返ってもらえなかったときは、再会できないことが多いように思う。
もっと確実な判別方法として、「家に着きましたー」というメールが届いたら次があり、届かなかったら終了とみなしている。
■哀しき無反応
デートまでこぎつけたというのに、その後、こちらから送ったメッセージに返信がないことがある。LINEの場合、既読がつかないことなんてざらだ。デートにお誘いしたときの返事は、「はい」か「いいえ」だけではない。「返事がないのが返事」、つまり沈黙もまた返事だ。こうなったら、一切の進展は望めないので潔く諦めたほうがよい。
しつこくメッセージを送りつけることは、ただの迷惑であり、度が過ぎれば相手に恐怖を与える。相手だってお断りするのにそれなりに気を遣うものだろう。「暖簾に腕押し」と呼ばれるように、反応がなければ、それは「無言のお断り」だと察するようにする。ちなみに私はいつも、「きっと彼女は携帯を紛失したんだろう」と思うようにしている。それだけで、前向きになれる。
実際に、意中の方と一緒に過ごすデートだけが大切なわけではない。むしろ、会えない時間帯こそ、関係性の土台を築く重要な時間だ。この期間、主なつながりは、電話やメッセージのやりとりとなる。
メッセージを送るたびに、期待と不安が入り混じる。返信はあるだろうか、笑ってくれるだろうか、喜んでくれるだろうか。もしかして何か嫌な思いをさせてしまったのではないか。彼女からの返信がなかなか来ないと、不安になり、送信したメールの内容を確認することがある。
「しまった。この表現は、別の意味にも取られ、彼女がマイナスイメージを感じたから返信がいただけないのでは……。チクショウ、もっと考えてメールを送ればよかった……」
と、反省することが多い。
しかしながら、不安の最中に返信をもらえたときの安堵感たるや、心底ほっとする。みみっちい話だが、メッセージのやりとりでは以下のように、色んなことに気を配る。
●彼女から返信が来て、すぐに返信すると、彼女にプレッシャーをかけて返信の義務を押しつけてしまうため、返信のタイミングに配慮する。前回、私がメールを出してから彼女が返信するのにかかった時間を目安に返信する。
●長文になると、彼女が読むのも大変だし、返信する際にも彼女に負担がかかるので簡潔にする。
●話のトピックを広げすぎず、絞る。一度に多くの質問をせず、細く長くやりとりが続くようにする。
●疑問形を使って、自然と返信しやすいようにする。
●「自分、こんなにも面白いんだよ」と、文章でアピールするとウザがられるので、ふざけたことはあまり言わないようにする。
●絵文字を使わない。文字で勝負する。
相手から返信が来ないと落ち込む。携帯がブルブル震えて、「あっ、彼女からかも!」と、画面を見るとまったく関係ない通知で、かなりの回数ガッカリすることになる。
ただ、3日も経つと、彼女のことは忘れて次に向かおうという新たなる決意が生じ、必要以上に傷つかないようにするメンタルケア機能が心に備わっている。婚活中はツラいことだらけになるため、そうした過去をいかになかったことにするか、忘却力が鍛え上げられるのだ。
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以上、前野ウルド浩太郎氏の新刊『バッタ博士の異常な愛情 恋愛と婚活の失敗学』(光文社新書)をもとに再構成しました。バッタ研究で知られるウルド博士の、人生を懸けた闘いは終わらない!
●『バッタ博士の異常な愛情』詳細はこちら
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