
高柳さんが所属する猟友会で仕留めたクマの爪。その鋭さが、脅威を物語る
「近所の家の縁側で、のんびりお茶を飲んでいたんだ。犬を散歩させている人が歩いて行くのが見えたと思ったら、いきなり悲鳴が聞こえてさ」
こう語る高柳盛芳(もりよし)さん。クマ撃ち歴46年、過去に50頭以上を仕留めた腕利きの猟師だ。
高柳さんの集落で、犬の散歩中の女性がクマに襲われたのは、今年10月18日、午後4時過ぎのことだった。
現場までは、直線で100mほど。すぐに救助のために駆けだした。猟銃はもちろん、武器になりそうなものはない。完全に丸腰状態だった。襲われた女性は、路上に倒れていて、引きずられないよう、道路脇に設置されていた工事用鉄パイプに必死でしがみついていた。
「クマと遭遇したら、絶対に目を逸らさないこと。睨み合っていたら、そのうち相手から目を逸らして去っていくよ。喧嘩と同じで、ビビったら負けなんだ」
とはいえ、こちらは丸腰だ。そして目の前で人が襲われていて、一瞬の猶予もなかった。
「もう一回、その女性にクマが向かって行きそうだったから、注意をこちらに向けるために、『ワァーッ』と大声を出したんだ」
と同時に、両腕を肩から上に高く掲げ、歯茎まで剥き出しにしてすごんだ。クマよりこちらのほうが大きくて強いぞ、と伝えるための動作だった。
あまりの迫力にクマは一瞬ひるんだのか、女性を離して一目散に逃げていった。女性は一命を取りとめたが、頭や肩、尻などに大怪我をし、約2週間の入院となった。
クマに大声を出すことはパニックを誘発し、逆効果になってしまう可能性がある。だが、丸腰で向きあったこのケースではほかに選択肢はなかった。一瞬の機転が功を奏したのだ。
取材・文 風来堂(兼子梨花/今田壮)
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