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妻からDV被害を受ける夫が急増中「誰にも相談できず」8割も

ライフ・マネー 投稿日:2018.04.08 06:00FLASH編集部

妻からDV被害を受ける夫が急増中「誰にも相談できず」8割も

 

 久しぶりに会った中田由香さんが取材場所に指定したのは、自宅ではなく、京都市内にある実家の最寄り駅近くのコーヒー店だった。

 

 現れた彼女の姿に目を疑った。トレーナーにチノパン姿。以前から化粧は濃いほうではなかったが、すっぴんで目の下にはクマができている。顔色は青ざめ、無表情だった。

 

「実は……夫に、手を上げて、しまったん、です。いわゆる……DV(ドメスティック・バイオレンス)というもの、ですね……」

 

 表情はまるで能面のように微動だにしない。が、言葉はこれまでの彼女からは考えられないほど、たどたどしく、一つひとつの言葉を吐き出すたびに息切れがして苦しそうだった。

 

「ご主人に対しての行動について、『手を上げた』『DV』とおっしゃいましたが、具体的にどんな理由で……つまり、ご夫婦の間に起こったどのような出来事やそれに対する感情によって、そのようなことになったのですか?」

 

「夫が、あまりにも、私の思い通りに、ならないから……」

 

「思い通りにならない、とはどういうことですか?」

 

「仕事を頑張って必ず出世する、と約束してくれはったのに……。結局、競争に負けて、課長になれなかっただけでなくて、子会社に出向させられて、しまったん、です。出向だけでも降格人事やのに、そこで役職さえついていない、んですよ……」

 

「それでつらかったのですね」

 

「つらい、どころじゃ、ない、ですよ。私は、夫に、管理職に就いて、周りから高い評価を受ける、という夢を、かけたんですから。それやのに……」

 

 今度は声を荒げ、血が頭に上っているようだ。

 

「『悪かった』。夫が言ったのは、そのひと言だけ。完全に仕事でやる気をなくしてしまって……。それで、急に娘に構い始めて、子育てを手伝おうとするんです。とんでもない! 最初は口喧嘩だったのが、もう我慢できなくなって、つい……。夫に部屋の中の物を投げたり、素手で殴ったり……。

 

 大変なことをしてしまった、と気づいて、すぐに救急箱を持ってきて額や腕にできた傷の手当てをしたんですが、だんだんエスカレートして、救急車で運ばれる、までに……。私が投げた陶器の花瓶が頭に当たり、その勢いで壁にぶつかって脳しんとうを起こしてしまったんです……。

 

 暴力の反省でいったんは夫に優しくなるんですが、また怒りがふつふつと湧いてきて、暴力を振るう――の繰り返しで……。本当に私は、ひどい、です」

 

 夫へのDVが始まってから3か月ほど過ぎた頃、夫は自宅マンションを出た。それから半年が経つという。

 

 夫婦間のDVというと、男性が加害者で女性が被害者という先入観が根強い。しかしながら、実は男性のDV被害者が増えており、行政ばかりか、NPOなど民間でさえ、男性被害者への支援が行き届いていないのだ。

 

 例えば、DV被害者の一時保護施設(シェルター)は保護対象を女性に限定しているため、男性被害者は妻に居場所を知られないようにするため、インターネットカフェなどを転々とするしかない状況となっている。

 

 また、他者につらさを打ち明けたり、悩みを相談したりしにくいという男性独特の性向のために、「沈黙の被害者」となってしまっているのが実情なのである。

 

 警察庁の調査によると、DV被害者の男女の割合は、男性が2010年には2.4%だったのが、2016年には15.0%と6倍強にも激増している。
 

 

 また、内閣府の2014年度「男女間における暴力に関する調査」では、配偶者からDV被害の経験があった人の性別は女性が23.7%で、男性も16.6%を占めた。

 

 配偶者からのDV被害経験者のうち、被害について「誰かに打ち明けたり、相談したりした」人は、女性が50.3%に上る一方で、男性は16.6%にとどまっている。無回答を除き、男性の実に約8割(75.4%)が相談していなかった――。

 以上、奥田祥子氏の新刊『「女性活躍」に翻弄される人びと』を元に作成しました。管理職への昇進を拒む葛藤、やりがいと低賃金の狭間に生きる姿、「勝ち組」の敗北感、そして男をも襲うプレッシャー……「女性活躍」時代のリアルを描きます!

 

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