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狩猟歴64年最長老マタギが“ド素人”の対応に警鐘…「奴らは人間の食うもんの味を知っちまった。警官や自衛隊にはクマの駆除は無理だ!」

ライフ・マネー 記事投稿日:2025.12.06 06:00 最終更新日:2025.12.06 06:00

狩猟歴64年最長老マタギが“ド素人”の対応に警鐘…「奴らは人間の食うもんの味を知っちまった。警官や自衛隊にはクマの駆除は無理だ!」

阿部さんがこれまで仕留めたクマは30頭以上(写真・福田ヨシツグ)

 

警察官がライフル銃でクマ撃ちをやるって話だが、平場だらできねくもねぇが、山ん中じゃまず無理だ。クマがいつ出て来っかもわかんねぇ。2、3日入ったぐれぇで撃てるもんでもねぇよ。自衛隊の箱罠も一緒だべ。俺もやったが、今までに2、3頭しか獲れねがった」

 

 阿部久次さん(84)は、日光マタギ歴64年のベテラン猟師栃木県日光市の猟友会湯西川地区に16名の会員がいるなかでの最長老だ。

 

 阿部さんは、たんにライフル銃が扱えるとの理由だけで、クマの習性や行動、急所、出没ポイントなどをまったく知らない “ド素人” の警察官や自衛隊が、駆除をすることに懐疑的だ。

 

「親父もマタギだったんで、俺も二十歳で始めた。二十歳になんねぇと猟銃は所持できねぇからだ。それでも持てんのは散弾銃。10年修業して、ようやくライフル銃の所持資格が取れたんだ。マタギの修業っちゃ、山に入って親から子、先輩から後輩っていうように口伝と行動で教えんだ」

 

 例年になく今年はクマによる人的被害が相次ぎ、11月末時点で死者は13名に上る。とくに岩手、秋田の両県は被害が多発し、このため警察庁は機動隊の銃器対策部隊を両県に派遣し、クマ駆除にあたらせた。防衛省も陸自部隊に箱罠設置を命じた。さながら “令和のクマ騒動” だ。

 

「けど、クマは悪くねぇ。原因は人間にあんだ。クマは人間を見っと逃げる習性があった。ところが、今は人慣れしてる。奴らが人間の食うもんの味を知ったからだよ」

 

 阿部さんが、マタギになってまず最初に教えられたのがクマの習性。クマの食べ物、住む場所、行動だ。

 

「奴らの食うもんはドングリ、ナラ、ブナ、山ブドウ、山栗、キノコだ。これらを9月ごろからたっぷり食って冬眠に入る。枝になってるやっこい実を食うんだ。落下したのは皮が硬いし甘くもねぇ」

 

 クマは本来草食系だという。

 

「たまにシカも食うけんと草食だ。今、人の被害も出てっけんと、この味を覚えたらこの先も当たりめぇになっかもしんねぇな」

 

 クマの住処を見つけるには、クマの習性を理解しなければいけない。素人は土の穴の中に、と思いがちだが違う。

 

「大木の洞穴だの岩石の隙間、崖の穴に潜ってんだ。クマ撃ちはだいたい5、6人一組で山に入っけんと、大木に隠れた奴を撃つときは篠笹を穴の中に立てんだ。笹がカサカサ揺れれば奴が這い出す証拠。出てきたらしめたもん。ここで一斉にぶっ放すんだ」

 

 このときもすぐに近寄らない。息があれば逆襲の危険があるからだ。近寄る場合も、まず見分役がクマの体を足で蹴る。このとき後方に銃を構えた仲間が待機し、見分役が襲われたときに備える。

 

「急所は頭と心臓だが、そこは撃たねぇで、前足の付け根を狙うんだ。付け根をやっと心臓も貫通すっから、血がドバーッと噴き出して前のめりに倒れんだ」

 

 獣道を見つけるのも、クマの行動を把握するうえで欠かせない条件だ。

 

「獣道っちゃ、クマが歩く道だ。クマの爪痕が一定の歩幅で歩いてんのを見っけだら必ず奴らはそこを往復すっから、俺らはそこで2時間でも3時間でもじっと待機してんだ。こんとき先輩がおめはあっち、おめはこっちって待機場所を指示する。クマ撃ちは単独でね、共同だ。今までにいちばん危ねぇ目に遭ったのは30代ごろ。崖をよじ登ってたら奴も上から下りてきてバッタリ出っかせ、40cmぐれぇまで接近した。俺もたまげたが奴もたまげた。こんときだよ、先輩の教えが効いたのは。けっして慌てんな、目をぱちぱちやったり視線を逸らすな、ゆっくり、そろそろ後ずさりしろっち教えられたんだ。これに反してたら、崖から転落して助かんねがったべ」

 

 クマの出没は木の実など山の餌不足をはじめ、さまざまな原因が指摘されている。だが、山にはないミカンや柿、あるいは人の食品の味を覚えたのも原因と、阿部さんは言う。

 

「実際、ここではミカンも柿も作ってねぇから、奴らが里に出てきた話はねぇ。シカだのイノシシは野菜を食い荒らすけんと。クマは味でねぇ、匂いを覚えんだ。実際、俺は箱罠で獲ったクマをトラックさ乗せて十数キロ離れた山に逃がした。ところが3日ほどしたら、まだ箱罠さ戻ってんだ。なんでかっつーば、人間が食うもんがあんのを覚えてっからだよ」

 

 最後に、クマに遭遇した場合どうすればよいか。マタギ歴六十数年の “阿部流対策” を伝授していただいた。

 

「まず慌てねぇことだ。体を動かしたり声を上げたりすっからクマを刺激すんだ。目を逸らせねぇこと。奴の目をまっすぐ見て睨みつける。そして少しずつ、ゆっくり後ずさりすんだ。もしクマが突進してきたときも、直前でサッと脇に身をかわすんだ。すっと、奴はそのまま突進して逃げっちゃう。クマは犬みてぇに噛みつかね。仁王立ちして、前足の鋭い爪でガバッと引っ掻くんだ。山に入っときは鈴を鳴らす、おーおーっち怒鳴んのも効果があっからやってみっといい」

 

 マタギは、クマを食料として以外にも、毛皮は敷物、胆は漢方薬として珍重している。山の獣たちは山の神の賜物として無駄なく、 “すべていただく” のがマタギの作法であり、人と野生動物の共生なのだ。

 

写真・福田ヨシツグ
取材&文・岡村 青

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出典元: 週刊FLASH 2025年12月16日号

著者: 『FLASH』編集部

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