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税理士を目指した男が「デイサービス」の運営を始めるまで

ライフ・マネー 投稿日:2018.04.12 08:00FLASH編集部

税理士を目指した男が「デイサービス」の運営を始めるまで

 

 遠回りをしたが、落ち着くところに落ち着いた。お年寄りが1日を楽しんで過ごす福祉の家だ。

 

 東京・品川区の商店が並ぶ戸越銀座から少し脇に入った住宅街に、瀧波隆人さん(50)が管理するデイサービス「弥弥」はある。

 

 デイサービスとは要介護1〜5、要支援1〜2に認定されている被介護者が、日帰りで食事や入浴、レクリエーションができる施設介護サービスのこと。「弥弥」は定員10名、ごく普通の2階建ての一軒家だ。

 

「母も妹も福祉の仕事をしており、2012年12月に3人で品川区の中延に訪問介護の会社を作りました。3年後に会社を母と妹にまかせて、もともとやりたかったデイサービスを始めようと物件を探しました。自分の家から別宅みたいな感じでおばあちゃんたちが来られるように、ここを見つけて改築し、2016年にオープンしました」

 

 母親が福祉の仕事をしていた関係で、福祉を身近に感じていたが、実際に仕事を始めるまでには遠回りをしてきた。

 

 大学は教育学部だったが、出身高校のバスケットボール部のコーチを頼まれ、のめりこむあまり単位不足となり中退。進路を迷っていたとき、一緒にコーチをしていた先輩から「うちに来ないか?」と誘われ、先輩が跡を継ぐ予定の運送会社に入った。

 

「事務とか倉庫の管理を1年ぐらい。ある日、倉庫の係長から『君はもっと違う仕事をしたほうがいいんじゃないか』と言われまして……。環境にどっぷりつかって楽しい毎日を過ごしていたので、言われたことがすごく頭に残り、次の仕事を始めるきっかけとなりました」

 

 大学卒業の際には、父親の知り合いの建築会社に入る予定だった。そこでその会社にあらためてお願いをして入れてもらい、経理を担当した。数字が好きだったので税理士を目指そうと考えた。
 

 ところが税理士試験の受験には、いくつか資格が必要で大卒であることもその一つ。 それで専修大学夜間部の商学部へ入学した。しかし、いざ勉強を始めると、税理士になるのは無理そうだった。

 

「ちょうどそのころ、建築のバリアフリーが騒がれて、住宅アドバイザーが流行りだしました」

 

 そんな折、福島に住む祖父母の足が弱り、手すりを設置するなど家の改築をおこなった。そのとき福祉の重要性を強く感じた。

 

「それで建築のなかの福祉に関係する資格、宅建の免許を取るなど、建築と福祉の勉強をしながら卒業しました」

 

 今度は日本福祉大学の通信課程で、本格的に勉強を始めた。国家資格の社会福祉士の資格を得るため、2年半学んで受験し、取得した。社会福祉士か社会福祉士主事の資格を持っている人がいないと、デイサービスの運営はできない。

 

「東日本大震災のときで、建築会社は東京電力の仕事を請け負っていたので仕事ががたっと減り、早期退職制度に手を挙げました。そして福祉の仕事をやろうと。そういう意味では震災が人生の転機。退職金も多くいただいて、会社設立の支度金が出来ました」

 

「弥弥」の特徴は、朝9時から夕方の5時まで利用者が我が家のように過ごせることに徹したスタッフの対応にある。

 

「うちに預けている間、家族の方が安心して過ごし、リフレッシュしていただくことも大切です。いつ大事が起きてもおかしくないお年寄りばかりですから、今日一日、精いっぱいお世話する。『明日また弥弥に行きたいな』と思っていただければ本望です」

 

 事業としては考えたくないと言う瀧波さんの原点は、あくまでも「お年寄りが好き」ということ。

 

「多くの人の幸せを考えれば規模を大きく、とも思いますが、僕がきっちりと見られる人数は今の規模が限度」

 

 60歳になったら介護福祉士の奥さんと2人で過疎の村に住み、お年寄りの世話をするのが目標だそうだ。話を伺っている間中、階下からおばあちゃんたちの楽しそうな笑 い声や、歌声が聞こえていた。

 

(週刊FLASH 2018年4月24日号)

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