
“ガングロシェフ”として異彩を放つ茂出木浩司シェフ(写真・福田ヨシツグ)
1990~2000年代にテレビや雑誌を席巻したスター料理人たち。いまも厨房や店に立ち、新たな挑戦を続けている彼らの現在地を追った!
東京・日本橋の老舗洋食店「たいめいけん」。昭和から愛され続けるこの店の三代目が、バラエティ番組でも人気の茂出木浩司シェフ(58)だ。
「僕はタレントでもなんでもないんです。基本は料理屋の料理人。僕が人を喜ばせられるのは、本来はテレビではなく、料理ですから」
ニュージーランドでのバンジージャンプなど過酷なロケも、呼ばれた以上は全力で応える。それには、茂出木シェフなりの理由があった。
「テレビに出るのは店のため。たいめいけんがまだ元気にやっている、勢いがあると知っていただくためです。勘違いは絶対しないようにしています。若いころにいっぱい勘違いしてきましたから(笑)」
多忙を極めていた2020年、体に異変が生じていた。
「肺に影が見つかったんです。さまざまな検査をおこない、経過観察で大丈夫だということになるまで、毎日が不安でいっぱいでした」
検査で食事制限を経験するなか、好きなものを食べられるありがたさに気づかされた。
「飲食店を営業している立場として、みなさまが健康で好きなものをしっかり食べられる状態でいていただきたいと、あらためて思いました」
店は日本橋の再開発にともない、2027年にも新ビルへ移る予定だ。
「日本橋は江戸の中心です。フランス料理店が洋画を飾るなら、うちは江戸凧を飾りたい。江戸の文化と洋食を融合させた店にしたいと思います」
祖父・心護氏、父・雅章氏が大切にしてきた江戸凧も、新しい店に受け継がれる。創業95年。あと5年で100年を迎える。
「『すごい』と言われますけど、日本橋には榮太樓(總本鋪)さん、にんべんさんのように、もっと長い歴史を持つ店がたくさんあります。日本橋では、100年、三代続いてようやく老舗の入口なんです」
三代目としての覚悟を語る茂出木シェフ。その原点は、修業先を転々としていた若いころに贈られた、心護氏からの言葉だ。亡くなる前に出版した自著に、孫に向けたこんな “遺言” がつづられていたという。
「お前は立派な三代目だ」
“ガングロシェフ”として異彩を放つ茂出木氏が、自分の立ち位置を見失わない理由がここにある。
取材/文・吉澤恵理
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