「ガンは、かかると一度、すべてが奪われる病気」だと大久保さんは言う。
「身体的な機能だけでなく、社会的な役割、家族との時間まで、奪われます。だから僕はガンになって、以前できていたことを取り戻したい、と考えました。走ることもそのひとつなんです」
大久保さんにとって、スポーツは自分に病気の前の生活を取り戻させる、大切な手段だったのだ。いまでは大久保さんと同じガン経験者が、スポーツにより以前と近い生活を楽しんでいる。
米国がん協会も、ガンの治療後に運動をおこなうことは、健康状態、生活の質を高めるのに有効、というレポートを発表している。
「5yearsのコミュニティでも、大腸ガンでストーマ(人工肛門)を造ったあと、バドミントンを楽しむ男性や、ジョギングを始めた女性がいます」
じつは大久保さんには、アームストロング以外にもう一人 “英雄” がいる。ガンで入院していたとき、病室に持ち込んだランニング専門誌の、小さな囲み記事に載っていた女性だ。
「68歳の飲み屋のおばあちゃんの投稿でした。『私は膀胱ガンになってしまいましたが、退院して、またジョギングを始めました!』というような内容で。
それを読むまで『アームストロングはすごい人だから、自分はできなくても仕方がない』という気持ちが、心のどこかにあったんです。
でも、68歳のおばあちゃんが、同じことをしているなんて、と思って。『コンチクショウ、俺だって!』とね(笑)」
ガンになったからといってあきらめない。その気持ちを、スポーツが作ってくれるのだ。
(週刊FLASH 2018年5月8・15日合併号)