
太宰治
「高校時代、同級生がふざけて私を『太宰くん』と呼んでいましたが、気持ちは複雑でした。戦国武将や歴史上の偉人と違って、作家としての『太宰治』は周囲に迷惑をかけることが多く、決して人に自慢できる人物ではなかったですから」
そう言って苦笑するのは、太宰を祖父にもつ衆議院議員の津島淳氏だ。しかし最近は、「身内だけど、客観的に見られるようになった」ともいう。
「私の母親、つまり太宰の娘ですが、太宰についての講演を頼まれることが多いんです。その講演を聞き、夫や父として『家族思いで子煩悩』な太宰、一方で作家として『人としての本質』に思い悩み、最後は自ら死を選ぶ太宰という二面性を知ることができました。どちらも『太宰』なんでしょうが、その二面性が作品の中に生かされているんです」
津島氏が最初に接した太宰作品は、「小学生の頃、教科書に載っていたので」ということもあり『走れメロス』だった。じつは同作に、津島少年は早くも「太宰の二面性」を感じていたようだ。
「初めて読んだとき、この作品からはどうしても、太宰が自殺を繰り返すというイメージは湧かなかったんです。しかし何度か読み返すと、『これは太宰の生き方そのものを投影しているのではないか』と思うようになりました。メロスは何度も挫折しそうになります。作中で、それを隠すことなく吐露しています。また、親友のセリヌンティウスもメロスを疑ったり、諦めたりしています。太宰は、この作品で人間の内面にある弱さを表現したかったのだろうという考えに至りました」
その後の津島氏の「人生観」に影響を与えた太宰作品を聞くと、『津軽』をあげた。
「人生観に影響を与えたかどうかわかりませんが、好きな作品のひとつです。主人公が、一度は別れを告げた故郷の青森を訪れ、自分の過去を振り返りながら新たな一歩を踏み出します。紀行小説でもあり、場面場面で祖父の目から見た青森の気候風土などが丁寧に描かれていて、私の選挙区が青森ということもありますが、『私自身の人生と青森は、太宰により運命的に結び付けられている』という気持ちになれる作品です」
津島氏は、自身のなかに「太宰的なもの」を感じることはあるのだろうか。
「良くも悪くも『優しさ』でしょうか。父(津島雄二元厚生大臣)からも『政治家には向いていない』と言われました。外見的には、太宰は首を右に傾ける写真が多いんですが、気がつけば私も同じように首を右に傾けていて、指摘されます。それと津島家全員、指が長い。太宰も指が長かったそうです」
周囲から「小説を書いてみては」と勧められることはないのだろうか。
「なんとか書くことはできると思いますけど、それがどういう評価になるかわかりません(笑)。(国政で)時間的な余裕もありませんので、いつか、思い立ったらということで。今は私の母も含め、太宰の作品の価値を後世に残し、読み継がれていくようにすることが自分の務めだという気持ちが強くなっています。今、太宰に聞いてみたいことですか? そうですねえ……職業柄、世界情勢でしょうか。直截的には『トランプ大統領をどう思いますか?』ですね」
写真・福田ヨシツグ
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