消防・防災・レスキュー専門誌「Jレスキュー」(左)とカトリック系月刊誌「家庭の友」
急速に社会に浸透しつつあるAI。その恩恵を喜ぶ声がある一方、戸惑いや危機感を覚える人も少なくない。ニッチな業界の動向を追い続けている「専門誌」を通して見えてきたのも、押し寄せるAI化の波に対する現場の期待と不安だ。
人命に直結する消防・救急の現場でのAI活用には、特段の慎重さが求められる。2001年創刊の「Jレスキュー」(イカロス出版)は、現場活動を追う専門誌だ。過去の出動データからの救急需要予測や、119番通報の音声分析による緊急度判定など、AI活用がこの分野でも進みつつあるという。
「救急要請は増加し続け、ロボットやAIで担える領域の効率化は避けられません」(レスキューメディア事業部の磯田美保氏)
国も後押しに動く。総務省消防庁は、消防の課題を解決するAI技術の提案を募集し、消防機関とAI関連企業を引き合わせるマッチングイベントを開くなどしているという。
どの業務をAIに委ね、どこを人が担うべきか。消防の現場はいま、その最適な組み合わせを模索する段階だ。
1988年創刊の月刊「ビルクリーニング」(クリーンシステム科学研究所)も、AIによる業務の変容を扱う。施設清掃は建物の用途に応じた経験が重要だが、ベテランの価値は外から見えにくく、価格競争にさらされやすい。そこで期待されるのが、AIなどによる清掃品質のデータ化だ。
「客観的根拠を示せれば、適正価格での発注につながります」と比地岡貴世編集長。
一方で、「現場を支えてきたシニアスタッフには『仕事が奪われる』との不安もあり、近代化を進めたい本社と現場の間に摩擦も生じています」と明かす。
AIは人手不足を補う反面、仕事の価値観そのものを揺さぶっている。
■生成AI特集に枢機卿が寄稿
教育現場では「AIに答えを出させる」より「AIの答えを確かめる力」が問われている。1950年創刊の機関誌「学校図書館」(全国学校図書館協議会)が扱うのは、情報活用教育などだ。GIGAスクール構想で端末が普及した学校に、生成AIも入り始めている。
本を読まずとも、指示(プロンプト)を出せば、AIは秒速でそれなりの要約や感想を差し出してくる。編集担当者は、こうした文章を額面どおりに受け取らず、吟味する力こそ重要だという。
「子供たちが紙の資料やネットから正しく情報を収集し、情報を鵜呑みにせず評価・選択する『情報リテラシー』の育成が急務であり、それを担うのが学校図書館です」(編集担当者)
AIがいい加減な答えを出せば出すほど、学校図書館は自ら思考し、探究する場所として重要になるのかもしれない。
1949年創刊のカトリック系月刊誌「家庭の友」(聖パウロ修道会)が扱うのは、時代とともに変化する家庭のあり方、信仰や人生の苦悩や喜びという、数値化しにくい領域だ。
しかし、同誌は2026年6月号で、生成AIを特集した。菊地功枢機卿らが寄稿し、アルゴリズムによる情報の偏りが「人々の自由な選択や人間関係の主体性を狭めるリスクを孕む」との危惧が吐露されている。
編集長を務める山内堅治神父は語る。
「AI自体は善でも悪でもなく便利ですが、人間の創造性や理解を完全に置き換えるものではありません。フェイク情報や軍事転用の危険性を排除し、最終的な責任はつねに人間が負うべきです」
AI社会の到来で、平和と人間の尊厳をどう守るかも問われているのだ。
すでにAIは、効率化が求められる現場だけでなく、長年の経験や勘がものをいう超ニッチな世界でも、否応なしに向き合わざるを得ない存在になっている。
取材/文・鈴木隆祐
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