
「お別れ代行イマスグサヨナラ」代表の中倉秀道氏に「別れたい」と相談する女性(写真・金谷千治)
家事代行から退職代行まで、令和の時代に増えた“代行サービス”。煩わしい手続きや日常のタスクを外部に委託し、“タイパ”(タイムパフォーマンス)にこだわるライフスタイルは、もはや現代のスタンダードになりつつある。そんななか、なんと“恋の終わり”にまで足を踏み入れた新たな代行サービスが密かに普及しているという。それが“お別れ代行サービス”だ。
同サービスを展開する「お別れ代行イマスグサヨナラ」の代表の中倉秀道氏がその実態についてこう明かす。
「サービスを立ち上げのきっかけは、私の実体験から。2025年の11月〜12月頃に女性の友人から、相談されたのです。彼女は一回り上の男性と交際していましたが、自宅ではDVに加えて、言葉の暴力を受けるなど、精神的に追い詰められていました。
実家に帰りたくても『別れたい』と自分から言えない彼女に代わり、私が彼氏に電話をして別れを伝えたんです。その時に、『世の中には自分から別れを言えなくて苦しんでいる人がたくさんいるんだ』と感じ、同年12月ごろにはサービスを始めました。その後、本格的に体制を整えてスタートを切ったのは2026年6月からです」
開始からわずか3カ月だが、反響は想像以上だという。現在は北海道から沖縄まで、全国各地から相談の連絡が寄せられている。
「問い合わせ自体はすでに1000件を超えており、実際にご利用いただいた方も300名弱にのぼります。男女比は女性が7割、男性が3割で、主に20代〜30代の方にご利用いただいています。
依頼方法はLINEがメインですね。ご希望であれば、電話や対面での相談にも応じています。当初はDVなどの深刻な悩みが多かったのですが、最近は『自分から言えない』だけでなく、『(相手に冷めたから)自分からわざわざ言いたくない』という理由で依頼される方も非常に増えています」(中倉代表)
実際にどのような流れで依頼が完了するのか。中倉代表によれば、極力依頼者の負担にならないよう、基本的にはスマホ一つで完結する仕組みになっているという。
「まずはLINEで問い合わせをしていただき、現在の相手との関係性や別れたい理由などをヒアリングします。その上で、『こういう事情で別れさせてください。もう連絡は取りたくないので電話してこないでください』といったように、相手に伝えてほしい伝言内容を決めていただきます。依頼が確定したら、専用の申し込みフォームに相手の連絡先や名前、電話をしてほしい希望日時を入力していただき、支払い後に実行します。料金は基本的に3万3000円です。
弊社スタッフが電話で直接伝言をお伝えするケースが大半ですが、見知らぬ番号だと警戒して出ない方もいらっしゃいます。そのため、時間を変えて最大5回までは電話をかけますが、それでも繋がらない場合は、SNS(LINEなど)のメッセージや、相手方の自宅に直接手紙を送る形でお別れの意思を伝達し、完了となります」(中倉代表)
わざわざ別れを告げるために3万3000円——。信じがたいと思う人もいるだろうが、実際にサービスを利用して恋人と別れたという神奈川県在住の20代女性会社員(Aさん)に話を聞くことができた。
「彼とはマッチングアプリで出会い、交際期間は半年未満でした。付き合う時に『お互いにアプリは消そう』とルールを決めていたのに、彼と一緒にいる時にスマホにアプリからの通知が来たんです。アプリを消していないことを私が問い詰めると、彼は悪びれる様子もなく『別にいいじゃん』と開き直りました。それで一気にイラッときて、別れる決意をしました」
ルールを破った上に開き直る彼の態度に、Aさんの怒りは頂点に達した。顔も一切見たくない、自分の声すら聞かせたくない。そう思ったAさんはネットで検索し、お別れ代行サービスに辿り着いた。
「最初は少し怪しいなとも思ったんですが、YouTubeで実際に代行をしている様子を見て、本当にやってくれるんだと安心し、LINEで依頼しました。利用料金についても、私の要望にしっかり応えてくれたので妥当な金額だと思っています」
Aさんの依頼を受け、オペレーターは彼氏に対して「一生会いたくないし顔も見たくないから電話しないでくれ」という強い拒絶のメッセージを代行して伝えた。Aさんは依頼の時点で彼の連絡先をすべてブロックしており、その後一切の接触はないという。
「もう本当にすっきりしました。代行で言ってもらって気持ちが楽になりましたね。実はその後、別のマッチングアプリで新しい出会いもあったんです。ズルズル付き合わずに、あの時きっぱり別れる決断をして本当によかったと思っています」(Aさん)
かつては「退職すら自分で言えないのか」と批判的な声もあった退職代行サービスだが、今や若者の間では当たり前の選択肢として定着している。中倉代表は、お別れ代行も同じ道を辿ると推測し、最近の具体的な事案をいくつか明かしてくれた。
「今の20代〜30代にとって、代行サービスを利用することは特別なことではありません。退職代行と同じように、今勤めている会社(今の恋人)に不満はなくても、もっと条件のいい会社(別の好きな人)が見つかったから別れたい、でも気まずくて自分からは言えない……そんな理由でも利用されるようになっています。
また、意外と多いのが男性からのご依頼です。1年ほど付き合っている彼女に全く不満はなく、浮気されたわけでもないのですが、他に好きな女性ができてしまった20代前半の男性からのご依頼がありました。自分で『他に好きな人ができたから別れよう』と言うと悲しくなってしまうから言えないと。
そのため、我々が代わりに『他に好きな人ができたので今日限りでお別れさせてください。もう目の前からは今日でいなくなります』と、謝罪とともにありのままの理由をお伝えしました」(中倉代表)
昨日まで一緒にいた相手から、突然第三者を通じて別れを告げられる。“フラれた側”はさぞ激怒するのではないかと思いきや、実際の反応は意外なものだという。
「もちろん中には怒って感情的になる方もいますが、気丈に振る舞い、強がられる人の方が多いですね。いきなりかかってくるので最初はびっくりされますが、『僕もちょうど別れたいと思ってたんで』『別に本気にしてなかったけどね』などと“大人の対応”をされるケースが目立ちます。なぜ本人が電話してこないのかと聞かれた際は、『本人は別れたいけれど、直接だと曖昧な関係が続いてしまってうまく伝えられないから代行を使った』と説明すると、結構納得していただけます」(中倉代表)
とはいえ、どんな別れでも引き受けてくれるわけではない。中倉代表によれば、依頼の段階で“お断り”の事例も存在するという。
「法的な観点で私たちが関わることができない案件です。すでにご夫婦であったり、婚約者がいる方からのご依頼はお断りしています。慰謝料などの問題が発生する可能性があるからです。
実際に過去にあったのが、結納まで終わった後に『やっぱりこの人とは結婚できないので、代行を使って別れを伝えてください』という女性からのご相談です。ご本人は『そのまま伝えてもらって、連絡も取れないようにして静かに消え去りたい』と希望されていました。しかし、結納を済ませて両家で結納金まで交わしている状況で一方的に姿を消せば、“婚約破棄”ということになり、後々慰謝料問題などに発展する可能性が非常に高いです。
法的なトラブルとなれば弁護士の領域になってしまうため、弊社としてはこのケースはお断りさせていただきました。あとは、ヒアリングの段階で相手が反社会的勢力だと思われる方の依頼も、トラブルを避けるために実際にお断りしています」
さまざまな人間模様が交錯する“お別れ代行”。最後に中倉代表は、サービスへの思いをこう語った。
「今のところリピートされた方はいませんが、『また何かあったら使わせてもらいます』と言われることはあります。嬉しい反面、その方の今後の人生を考えると少し複雑な気持ちになりますね(笑)。
人には誰しも『自分から言えない』『自分から言いたくない』時があります。それは決して恥ずかしいことではありません。もしそれが恥ずかしいことだと思っても、今日1日ぐらいは弱い自分を見せてもいいと思うんです。我々を利用していただければ、ずっと悩んでいた別れが明日には終わり、新たなスタートを切ることができます。ぜひ恥ずかしがらずに、新たな一歩を踏み出す気持ちで使っていただければと思います」
これも時代の変化というものか——。
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