
写真・AC
食感や味も含めた日本のご飯の美味しさをまとめると次のようになると思います。
・白く輝き、粒立ちがよい
・ほのかな甘い香りが、湯気とともにふんわりと立ち上る
・硬すぎず柔らかすぎず、もちもちとした食感がある
・噛むとふくよかな甘みが広がる
・おにぎりなど、冷めても美味しい
このような素晴らしさがあるからこそ、米は日本の食文化の中心にあり続けているのでしょう。東アジアでも広く米が食されていますが、日本では特に、米にこだわりを持って、その美味しさを引き出そうとしてきたといえるでしょう。
ここでは、このような日本の米(ご飯)の美味しさの原因を探ることにします。そのためには、日本の米であるジャポニカ米と、もう一つの米の品種であるインディカ米の違いを簡単にまとめておくことが必要です。
長粒のインディカ米(タイ米)は、世界の稲作の約8割を占めています。熱帯アジアが起源といわれ、モンスーン地域の高温多雨な気候の下で水稲として栽培されるのが一般的です。粘り気が少なくぱらりとした食感が特徴で、このパラパラ特性を活かして、副食と交ぜたり、炒める料理文化が育まれてきました。カレー、ビリヤニ、炒飯、ナシゴレン、ピラフなどが代表例です。
一方で短粒のジャポニカ米はやや低温を好み、涼しい気候でもしっかりと成熟することが特徴です。温帯湿潤域での水稲栽培が主体ですが、比較的小雨地帯でも灌漑や棚田で栽培できます。もっちりした食感が特徴で、冷めてもこの食感が保たれます。
そのために、白飯としての単独食はもちろんのこと、中国や韓国の粥・汁食、それに日本のおにぎりなど、多様な食文化の展開に繋がりました。
ではジャポニカ米を炊き上げた日本のご飯、その美味しさをひもとくことにしましょう。
■もっちり感を生むアミロペクチン
米の主成分であるデンプンは炭水化物の中でも分子が長く、結晶化した状態(いわゆるβ構造)にあります。またデンプンは、そのままでは体内でエネルギー源として利用することができません。そこで、消化酵素(アミラーゼなど)によってブドウ糖へと分解する必要があります。
ただし、この分解を進めるためには、まずβ‐デンプンのしっかりした結晶構造を崩して、より緩い構造のα-デンプンに変化させなければなりません。この変化を「糊化(α化)」と呼びます。そしてこの米デンプンの糊化を進めるのが「炊飯」の際の吸水と加熱です。
糊化で重要なことは、α‐デンプンは「アミロペクチン」と「アミロース」で構成されていて、前者が枝分かれした複雑な構造であるのに対して、後者は単純な構造を持っていることです。加水と加熱が進むと、アミロペクチンの構造が緩んで、水分子を包み込むようになります。
一方で水溶性のアミロースは水を含んだ「ゲル」となって米粒の周りをウロウロするようになります。このようにデンプンが水を吸収して結晶構造が緩んで膨らむ現象が「糊化」です。特にアミロペクチンは水を多く含んでふんわりとした構造に変化し、このことで「もっちり感」が生まれます。
糊化についてご理解いただいたところで、ジャポニカ米とインディカ米の食感の違い、つまりジャポニカ米がパサパサせずにもっちりとしている理由をお話ししましょう。
インディカ米と国産ジャポニカ米、それに餅米のデンプン組成を見ると、ジャポニカ米がインディカ米に比べてアミロースが少なく、アミロペクチンが多く含まれることが分かります。この違いが、日本の米の美味しさの一つである、もっちり感を生み出しているのです。
さらにこのデンプンの組成差は、日本の米の美味しさの一つである「白いご飯」の元でもあります。というのも、ジャポニカ米に多く含まれるアミロペクチンが糊化して緩んだ構造になると、光が米粒を通る際に乱反射を起こすようになります。これが、日本のお米を炊くと真っ白いご飯になることの大きな要因です。
また日本で「おにぎり」文化が発展したのも、ジャポニカ米にアミロペクチンが多く含まれることが原因の一つです。
アミロースは炊飯、つまり吸水と加熱によって糊化して緩んだ構造になるのですが、冷えると急速に再結晶してしまいます。これを「老化」と呼ぶのですが、このことによって固くなってしまうのです。一方アミロペクチンは老化が緩やかであるために、冷えてももっちり食感が保たれます。だからおにぎりは冷めても美味しくいただけるのです。
■ご飯を美味しくする水
ジャポニカ米は中国や朝鮮半島、それに日本列島の比較的寒冷な気候でも栽培できる品種です。だから現在も日本以外でも栽培されて食べられています。その中で日本では、ご飯の美味しさを基本とした食文化が発達してきました。この日本特有の米食文化を育んだ背景には、日本の水、軟水があると睨んでいます。その理由を科学的に探ってみることにしましょう。
米粒の表層には、内部に比べてタンパク質が多く含まれています。灰汁は、獣肉に含まれるタンパク質が水に含まれるカルシウムやマグネシウムイオンと反応してできるのですが、これと同じように、炊飯時にこれらのイオンを多く含む硬水を用いると、イオンが米表層のタンパク質と相互作用し、吸水を妨げてしまいます。その結果、糊化が十分に、そして均一に進まず、芯が残ったり色合いが不均質になるのです。
しかし軟水ではこのようなことは起こりにくく、真っ白で艶があり、もっちりしたご飯に炊き上がります。もちろん軟水を用いると効率的な吸水によって糊化が均一に進むため、冷却後の食感の劣化も抑えられます。
さらに水に含まれるカルシウムやマグネシウムは、米粒に含まれる脂肪酸と反応して、「石鹸臭」あるいは「油臭」の元となるのですが、日本の軟水ではこのような反応が抑えられます。だからこそ、あの甘い香りが引き立つのです。
日本のお米そしてご飯が美味しい理由は、「日本の豊かな自然と水」のおかげだといわれてきました。このことを深掘りすると、その背景には、この国が世界一の変動帯であるがゆえに軟水の国となったことがあることを、ご理解いただけましたでしょうか?
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以上、巽好幸氏の近刊『もっと美食地質学』(光文社新書)をもとに再構成しました。美食を育む地質学的背景を紐解きながら、災害という試練にも焦点を当て、日本列島と私たちの関係を見つめ直します。
■『もっと美食地質学』詳細はこちら
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