ライフ・マネー
【目指せ不思議スポット】まるで和式トイレのような奇石
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.07.18 08:00 最終更新日:2018.07.18 08:48
遺跡の宝庫として知られる奈良県明日香村。蘇我馬子の墓ではないかと言われる石舞台古墳や、日本最古の寺院とされる飛鳥寺、さらには貴重な壁画が残るキトラ古墳など、飛鳥時代の文化を伝える重要な史跡が多く残り、日本の古代史はこの地を抜きに語ることはできない。
明日香村周辺では今も続々と貴重な遺物が出土し、当時の様子を少しずつ浮き彫りにしているが、ここでは古墳や宮殿跡はさておき、一帯に点在する謎の奇石群に注目してみた。
明日香村で発見された奇石の中で、とりわけ有名なのは「酒船石」だろう。
竹やぶの中に鎮座する、長さ5メートル、高さ1メートルほどの大きな石造物で、いつからここに置かれ、いつ誰に発見されたものかも定かではない。
テーブルのように平坦な表面部分には、なんともミステリアスな溝が彫られているが、幾何学的であり呪術的にも見えるその模様が、いったい何のために造られたものなのかもわかっていない。
とにかく謎だらけの巨石だが、酒を搾るための道具ではないかと推測されたことが、酒船石の名の由来となった。あるいは、薬を調合するために使われたもの、油を作るために使われたものとする説もあるが、個人的にはいずれもあまりピンとこない。
なぜなら、薬も油も生活必需品であるだけに、もしそれらの精製に使われた道具であれば、類似の遺構がほかにも複数見つかってもいい気がするからだ。
他方、付近で水を引くための土管が出土したこともあり、酒船石との関連性が研究されてもいる。この謎の溝に水を注いだ証拠が見つかれば、用途はもう少し絞られてくるかもしれない。
用途を探ろうにもとにかく材料不足で解明を見ない酒船石。その正体を知る手がかりを得ようと周辺の発掘が進められた結果、1992年に北側に位置する斜面から石垣が発見された。
これにより、酒船石がある丘陵は人工的に盛土された可能性が浮上。これは『日本書紀』の「宮の東の山に石を累ねて垣とす」という記述に一致し、飛鳥の諸宮跡が置かれた場所を特定するヒントになるのではないかと期待されている。
たしかにこの南西には飛鳥京の跡地が確認されているから、酒船石はその庭園を彩った庭石の1つだったのかもしれない。酒船石の付近ではさらに、2000年に「亀形石造物」および「小判形石造物」も出土した。
こちらも何らかの意図を感じさせるデザインで、まるで和式トイレのような形状をしている。右端の円形部分ははっきりと亀を模しており、甲羅にあたる部分が深さ数センチの貯水槽になっている。
おそらく、隣りの小判形石造物から甲羅部分に水が流れ込み、それがさらに北側へ伸びる溝に排水されたものと考えられる。その排水経路の途中には、不純物を沈殿させる仕掛けが見られるため、飲用水のインフラの1つかもしれない。
いずれにしても、高度な工夫が施されていることから、ここは位の高い人物の施設が置かれた場所と見て間違いなさそう。今後の発掘調査で、新たな物証が出土することを楽しみに待ちたい。
※
以上、友清哲氏の新刊『消えた日本史の謎』(知恵の森文庫)から再構成しました。謎の構造物、おかしな物体、奇妙な伝承、未解明のパワースポット…不思議をめぐる旅の記録です。